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パートI
企業広告考~企業・社会・個人の関係から(2)

企業広告の拡大進化

 連載第二回は、この40年、社会や時代の変化の中で、様々な形に拡大進化してきた「企業広告」をもう少し詳しく見てみたいと思います。基本的には、前回の三つの時代区分の第二期を中心に考えたいと思っていますが、実際には、あるタイプの「企業広告」が、次の時代には消滅するということではなく、むしろ多少形を変えながら発展していくということになりますので、企業広告のタイプをその発生した順に整理していくという作業になると思います。
 また、広告はそれがマスメディアを通じて発信される場合、本来その企業が目的としていた以上の様々な効果を生みます。
 かつて日本の重厚長大企業がテレビを通じて採用のためのコミュニケーションを行っていたころ、それまであまり積極的に広告を行っていなかった企業であればあるほど、タレントを起用したポスターが工場に張られることで工場の雰囲気が明るくなったとか、テレビや新聞でお父さんの会社の広告を見ることで家族が喜んだとか、取引先との商談の際に広告の話題から始めることで、スムーズな商談が行えるようになったとか、様々な複合的な効果があったといいます。「企業広告」に限らず「いい広告」とは、広告主の意図と、受け取る側の思いが相乗的に効果を拡大していくものかもしれません。従って、ここで目的とターゲットによって分類した企業広告も、あくまで主たる目的とターゲットを推測しながら筆者なりに分類したものであり、いい広告であればあるほど、単一の目的を超えた広がりを持つことを申し添えておきたいと思います。


図1 企業広告の変遷

 まず、図をご覧いただきたいと思います。これは「企業広告」の拡大進化を概念的に整理したものです。縦軸には先に述べた時代の変化、すなわち企業・社会・個人の関係が時代を追うに従ってどのように変化したのかを跡付けています。一方、横軸では、その変化に伴って、特に「企業広告」のメッセージがどのように拡大進化したかを示しています。横軸は、企業の広告コミュニケーション活動が、企業経営の経済的側面から、自社のアイデンティティの確認・表明、そして企業の社会的存在意義の確認やその表明を通じて、真の意味での社会との共生を模索するという方向に拡大してきたことを表しています。「企業広告」はこの枠組みの中で、特に90年代以降、企業の経済活動を支えるための「企業広告」から、社会との関係を構築するための「企業広告」へと、拡大してきたというのがこの図で表現したかったことです。念のため申し述べますと、それは変化ではなく拡大であり、現在は、企業の社会的存在意義にフォーカスした「企業広告」が注目されていますが、「企業広告」の企業の経済活動を支えるという役割は依然として大きなものであり、その中でも優れた広告が引き続き登場しています。

「企業広告」の様々なタイプ

 図の流れに沿って、様々な「企業広告」のタイプを見てみたいと思います。
 第一期(70年代~80年代前半)には、第一回で述べたように、企業・社会・個人が未分化な状態があったため、企業からのメッセージは、企業そのものを語るということよりも、時代の気分や個人の気持ちを代弁するということであったように思います。富士ゼロックスの「モーレツからビューティフルへ」や西武百貨店の「おいしい生活」のようなキャンペーンは、その時代の気分や個人の気持ちの見事な表現でした。
 第二期(80年代後半~90年代前半)になると少し様子が違ってきます。バブル期の企業の社会的存在の高まりや、企業そのものの拡大成長に伴う企業そのもののアイデンティティの確認の必要等、企業は、あらためてみずからの置かれた状況に応じながら、その時点での経営の要請に従って、目的やターゲットを定めた意識的な「企業広告」展開を行うようになってきました。
 この時代に最も様々なタイプの「企業広告」が登場してきたように思いますので、少し詳しく見てみたいと思います。

(1) CI広告

 85年の電電公社民営化、87年の国鉄民営化等公営企業の民営化に伴って、民営化による経営変革の意思の表明や新しいロゴやマークのお披露目という目的でCI告知広告という「企業広告」が盛んに展開されました。一般企業においても多角化による企業の輪郭の再定義や、時代の変化に伴って企業としての目標やビジョンをあらためて考え直し、それを内外に表明するためのCIビジョン広告ともいうべきものが一世を風靡しました。「アサヒビール」や「東京ガス」などのCI広告はその代表例といえます。CIブームは、現象的には企業の単なる衣替えのように見えますが、実際には、日本経済の好調を反映して企業自体が大きく進化したことによる日本企業の脱皮だったといえます。

(2) プレースメント広告(採用広告)

 バブル期は、日本の企業がソフト化、情報化を推進した時期でもありました。大学生を対象にした調査結果では、大学生の2人に1人が「企画部門で働きたい」という時代です。しかも、採用市場は大学生1人に企業が3社以上という超売り手市場、「理系の文系就職」が話題になり、特に日本の優良製造業は、優秀な人材の確保に危機感を感じていました。そこで登場したのが新日鉄や川崎製鉄、住友金属工業といった鉄鋼業がテレビ広告も含めて展開したプレースメント広告(採用広告)です。住友金属の「やわらかアタマしてます。」に代表される、やわらかい社風や、創造性のある仕事を訴えるこれらの広告は、「実体との乖離があるのではないか」とか「本当に欲しい人材が集まるのか」といった批判も受けながら、少なくとも応募者数拡大という効果はあげ、この時代の「企業広告」を代表する多くの広告を生み出しました。

(3) インナー広告

広告1

 また、CIの実施による社内での意思の再統一というニーズや、採用市場の逼迫による人材の流動化(第二新卒の採用や、転職ブーム)は、あらためてその企業に働く誇りや喜びを共有したいという認識を企業に促し、それまで少なくとも意識的には考えられていなかった「広告の社内的効果」が注目され始めました。大成建設の「地図に残る仕事」という広告シリーズは、建設業という一見地味できつい仕事を、重要でやりがいのある仕事と捉えなおし、社員やその家族に、大成建設に働くことの喜びや、大成建設に対するロイヤルティーを高める効果を持った優れた広告であったといえます。
 また旭化成の「イヒ!」(広告1)のシリーズは、当初、旭化成という会社の業態や社風を理解してもらいたいという思いから出発しながら、結果として社内の活性化や変革のムーブメントを起こすことに大きく貢献しています。社外に発信することで、社内の意識改革を図っていこうとするアウトサイドインという広告の効果があらためて注目され始めたのはこのころでした。この広告シリーズは、さらには中期経営計画の社内浸透や国際化、グローバル化といった企業変革のドライバーとしても機能していくという発展を遂げます。まさに、この小論で述べている「企業広告」の拡大進化のプロセスを、ひとつの広告シリーズの中で体現している広告といってもいいかもしれません。

(4) マーケティング(事業)サポート広告

 これはこの時代に始まったことではありませんが、高度成長社会から成熟社会への移行のプロセスにおいて、日本企業の製品化技術は頂点を極め、商品の差異化を、商品だけで行うことが困難になってきました。結果として、各企業は、商品以外の要素で差異化を図ろうと試みます。タレントや商品イメージによる差異化もそのひとつの手法ですが、「企業広告」の世界では、企業の技術的優位性をアピールするいわゆる技術広告や、東芝の「on Demand」広告のように、技術の進展の中で変化する事業思想そのものを訴える広告が登場しました。
 また、ハード機器のメーカーにおいては、マーケティングサポートは技術訴求や事業思想訴求ということになりますが、食品飲料メーカーや、サービス業においては、むしろ、その食品飲料の歴史や効能の訴求、あるいはサービス提供の思想の訴求という性格を持ちます。時代は少し新しくなりますが、ハウスの「カレーフォーラム」や、マスターカードの「Priceless」広告はその代表といえます。

(5) 環境広告

広告1

 この時代は地球の温暖化や、環境汚染が問題になるにつれて、その中での企業の責任や役割がクローズアップされてきた時代です。環境広告は、当初地球環境の大切さを訴えながら、暗に環境に優しい企業であることを印象付けようとする広告が中心だったように思われますが、有名なボルボの「私たちの製品は公害と騒音と廃棄物を生み出しています。」という広告によって、企業の環境負荷を正面から捉えその対策を真摯に考えるという企業姿勢広告、さらには、その企業姿勢から具体的な商品を生み出し、具体的な環境への貢献を事実として訴えるトヨタの「エコプロジェクト」(広告2)のような広告へと進化しました。

(6) IR広告

 従来、日本の企業において、その資本構成は、機関投資家や持ち合い株主によって安定的に守られてきました。しかしながら、経済のグローバル化に伴う海外投資家のウエイトの拡大や、株式の持ち合いの解消による安定株主の減少、さらには機関投資家も経済環境の悪化により厳しい視線で経営を見るようになったことによって、あらためて個人も含めた様々な投資家に対して、経営のビジョンや意思を正確に理解、評価してもらう必要に迫られました。従来、投資家に向けた広告は、上場告知広告に限られていましたが、この時代から、企業のビジョンや格付けを具体的に説明する広告、さらには、JTの「JTは、変わる。」広告シリーズのように、企業の変革の意志とビジョンを広告を通じて具体的に伝えるという広告も現れました。

 以上、80年代から90年代は、様々な経営の要請によって、目的やターゲットを明確にした「企業広告」が登場しました。広告に携わるものとしては、広告が単に「モノ」を売るという役割から、経営や企業の存在そのものを支える広告へと拡大進化したことは、我々の仕事のやりがいという意味では、大きな喜びでもありますが、今振り返ると、これらの広告はまだ、対象とする個人を、企業の要請によって操作すべき対象として見ていたという反省もあります。日常的に、広告の受け手の立場で考えることを仕事のスタンスとしながら、どこか一方的に動かすべき対象として個人を見ていたという印象は否めません。もちろんこれらの広告の中で今でも人々の記憶に残る広告は、それが受け手の個人の気持ちを中に染み込んでいったがゆえに、今でも記憶に残っているわけですから、一概に否定すべきものではありませんが、第三期(21世紀)に入ると本当の意味で企業と社会、企業と個人の関係の中に広告としての足場を置いた広告も散見されます。
 第三期の広告は、第二期のような個々の経営課題解決のための広告から、コーポレートブランドという言葉に代表されるような、より統合的な視点に立った「企業広告」が登場してきたという点で、「企業広告」の新しい時代を感じさせます。次回は、第三期の「企業広告」を見ながら、筆者なりの「企業広告」今後の展望について考えてみたいと思います。

電通 統合マーケティング局
エグゼクティブ・プランニングディレクター
小林 健一

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