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実践コーポレートブランド

社員が沸き立つ企業になるために
~コーポレートブランドとCSR

CSRを軽視する企業は社会との適合性を失う

 ここ数年、CSR(企業の社会的責任)についての議論が活発になっています。理由のひとつに、消費者の目が厳しくなった点が挙げられるでしょう。かつては、大企業の製品やサービスであれば品質・安全性は不問に付されていました。しかし、現在では大企業であろうとも、信頼性に対して厳しい視線が注がれています。社員の安定雇用も簡単に維持することができなくなり、どの企業にも不祥事の芽が隠されています。そうした芽に対する対応がひとつ間違うだけで、大きな不祥事に発展してしまう。せっかく創造した企業価値も、一夜にして毀損されることがあり得るのです。
 CSRを後押しする追い風は、消費者の厳しい視線以外にもあります。ISO9000やISO14000、環境格付けなど、政府、調査機関やマスコミなどが企業の社会的責任の徹底度を測定する試みを始めています。投資家たちが銘柄選択の際にも、SRI(社会的責任投資)を重視するようになりました。企業のステークホルダーのグローバル化も、CSRの浸透と無関係ではないでしょう。
 こうしたテーマは1980年代からすでに存在していました。当時はCSRが企業活動に本質的に必須なものである、という認識はなかったように思います。しかし、状況も少しずつ変化してきました。CSRを軽視する企業は社会との適合性を失い、その存続が困難になる恐れが出てきたのです。CSRは企業を評価するうえで、重要な尺度になりつつあります。
 CSRには3つのレイヤー(階層)があると考えられます。その根底のレイヤーには「コンプライアンス(法令順守)」があります。しかし、法令順守だけではCSRは完結しません。企業倫理の徹底により、将来ステークホルダーとの関係に悪影響を与えるようなさまざまな事象に対して、きちんと対応することが重要になってきます。この「企業倫理の徹底」が2層目のレイヤーです。そして3層目が、ステークホルダーと良好な関係作りをめざして、積極的、能動的に社会に働きかける「社会貢献の促進」です。この順番でCSRは発展していきます。

CSRに優れた企業は市場でも高い評価を受ける

 私たちは企業価値を測る際に、どうしても経済的な面を見てしまいます。しかし、CSRというテーマは私たちに「企業を経済的価値で見ることは一面的にすぎず、もっと大きな視点を持つべきでは?」という問いを投げかけてきます。企業というものを、広義の企業価値に照らして評価するということが必要になっていくでしょう。
 損益計算書におけるボトムライン(当期純利益)についても、CSRの視点を導入すれば見方が変わってきます。同じ純利益をあげた企業でも、CSRの積極的に対応した企業と、消極的だった企業とでは、純利益の意味や質についての解釈が異なってくる。純利益の算定において、CSRにともなう各種の支出を控除する「ニューボトムライン」がこれから出てくるはずです。
 株式投資の銘柄選別の際に、収益力等の経済的な指標だけでなく、環境への配慮・社会貢献などの社会的指標を考慮するSRIは90年代以降、市場規模が急速に拡大しています。03年のSRI市場の規模は米国で約230兆円、欧州で約46兆円に上ります。日本はまだ約1500億円程度にすぎませんが、これから拡大していくことは間違いないでしょう。


図1 FTSE 4 Good Global 100 Indexに含まれる日本企業 株価推移

 英国の評価機関FTSEが01年にスタートしたSRIインデックス「FTSE 4Good Global 100 Index」は、CSRに優れた世界トップ百企業を選定しています。日本企業は8社が選ばれていますが、その8社の株式を組み込んだインデックスを試算すると、TOPIX(東証株価指数)をはるかに上回るパフォーマンスを発揮します(図1)。CSRが株価のパフォーマンスに大きな影響を与えることが見て取れるでしょう。

無形資産の中核をなすのがコーポレートブランド

 ステークホルダーといってもいろいろありますが、主要なのは消費者と従業員、そして株主です。この三者の価値を連鎖、連動させて上昇させるには、「コーポレートブランド」に焦点を当てて輝かせ、ブランド価値を高めることが重要です。コーポレートブランドとは、「ステークホルダーがその会社に対して抱くイメージを決定づける無形の個性」です。ヒト、モノ、カネ、情報と並ぶ、第五の経営資源と位置づけておく必要があるでしょう。コーポレートブランドとCSRには密接な関係があります。


図2 CSRの発展段階とCB価値

 横軸にCSRのレイヤーを、縦軸にコーポレートブランド価値を置いたグラフを考えてください。CSRに取り組んでいくことで、ブランド価値も上昇していくだろうと考えられます(図2)。それはなぜか。コーポレートブランド経営を推し進めていくと、企業のポジティブイメージが創出されるため、コーポレートブランディングになります。
 一方、ブランドという存在は、常にリスクに直面しています。コンプライアンスや環境経営を徹底することで、企業内部・外部の安定性や信頼性を高め、事故や企業不祥事を未然に防ぎ、潜在的に抱えているブランドリスクをできるだけ下げなければなりません。
 もう少し詳しく見ていきましょう。コーポレートブランドの資産価値には、潜在的リスクがあります。言い換えれば、ブランドについて負債を抱えているということになります。「コーポレートブランド負債」を低水準に抑えることが「コーポレートブランド正味資産」を高めることにつながります。


図3 競争力の源泉としてのコーポレートブランド企業価値に占めるコーポレートブランド価値の割合

 貸借対照表で考えてみます。「時価ベースの株主資本」を貸借対照表上の株主資本の下に措定すると、資産の側から見たときに対応するのがインタンジブル(無形資産)になります(図3)。このインタンジブルの中核をなすのが、コーポレートブランドといえます。企業価値の中に占めるコーポレートブランドがどれくらいの割合を示しているかについて、日本経済新聞社と私が共同開発したコーポレートブランド測定モデル「CBバリュエーター」で測定しました。食品業界は約27%なのに対し、電機業界は約60%。やはり電機はブランド力が高いといえるでしょう。コーポレートブランド価値の割合が高い企業ほど、きちんとしたリスク・マネジメントを実践する必要があるのです。
 優れた企業というのは、社員一人ひとりが高い規律意識を持って働いているところだと思います。では、どのようにして高い規律意識を働かせるか。そのために、コンプライアンスの徹底が必須です。もうひとつは、社員一人ひとりがその企業の自社のブランドを担っているという意識を持つこと。社員の規律意識が高まれば、潜在的なブランドリスクを下げることになります。これを「ブランディングガバナンス」と呼んでいます。全社的にブランドを高めようという活動を行うことで、社員にガバナンスを働かせる。こうした運動は非常に大事だと思います。

環境経営度で高い評価を受ける企業のリスク度合いは低い

 環境経営と市場のリスクプレミアムがどのような関係にあるか検証するために、以下のような調査を行いました。01年の日経環境経営度調査の対象となった製造業を対象に、1位から600位までを100位ごとにグルーピングし、さらに600位以下のグループをまとめて7つのグループをつくりました。グループごとに株式ポートフォリオを計算し、β値(個別銘柄が市場全体を表す指標の動きと比べてどのような値動きをするかを示す指標。企業のリスクの度合いを示す)と比べてみると、衝撃的な結果が出ました。環境経営度で高い評価を受けている企業のβ値は低く、環境経営度で低い評価しか受けていない企業のリスクは高いのです。これを見れば、SRIが単なるブームとして生まれたわけではないということがご理解いただけるのではないでしょうか。
 続いて、リスクへの自主的な対応としての企業倫理に目を向けてみましょう。2000年に参天製薬に対し「参天製薬の目薬に異物を入れる」という脅迫がありました。それに対して参天製薬側は、全製品24品目を店頭から回収するというスピーディーな意思決定を行いました。このケースでブランドイメージはどう変わったのでしょうか。
 CBバリュエーターで測定すると、さまざまなステークホルダーが参天製薬に対して抱いているロイヤリティーは逆に高まっています。ですから、事件というのはすべてバッドニュースではなくて、事件に対してどういう対応をするかで、実はブランド価値を高めることができるということをこのケースは如実に物語っているのです。

CSRを実践するための三つのアプローチ

 CSRは3つの角度からアプローチすることが大事です。まず、企業理念やビジョンと整合性があるか。2つ目に自社にしかできない活動であるか。3つ目に中長期的な狙いや目的があるかどうか。この3つの角度からCSR活動を行うと、ブランドの魅力も上がります。
 トヨタ自動車の事例で考えてみましょう。CSR活動が、クルマづくりを通じて社会に貢献するという理念、ビションに合っているかどうか。自社しかできないことなのかどうか。自社が身を置いているマーケットの将来の動向と合っているかどうかという視点で見ると、ハイブリッドカー「プリウス」の開発は、ぴったりと合致しています。しかし、CSR活動としてプリウスの開発を行ったわけではないでしょう。しかし、結果としてプリウスは、トヨタのCSR活動の中核になったといっていいのではないでしょうか。
 実際、プリウスを市場に導入したころから、「地球環境に配慮している」というイメージが急上昇しています。広告宣伝を打つよりも、わかりやすく象徴的な事例を世の中に見える形で発信することで、イメージ項目は劇的に変化するということを示しています。
 CBバリュエーターで、CSRの効果を検証してみましょう。日経環境経営度調査において、98年度と03年度の調査を比較し、50以上もランクを上げた企業43社を対象に調査を行いました。98年度のイメージを基準に、03年度のコーポレートブランド価値の水準がどのように変化したかを分析すると、43社の平均については82%もブランド価値が高まっています。特に03年度に100以内にランクインした13社に限定すると、平均で約100%もコーポレートブランド価値を高めている。環境経営で高い評価を得ると、ブランド力も伸びることが証明されたといえます。

企業は持続可能で活力ある「2eカンパニー」をめざせ

 私たちは企業の競争力をさまざまな角度から研究しています。言葉を変えれば、「骨太の競争力をどのように手にするか」という命題に取り組んでいる、ということになるでしょう。競争力を身につけるための企業価値を高めるには、クオリティーの高い無形資産をどれだけ蓄積したかがポイントになります。では、無形資産とは何か。煎じ詰めれば「ヒト」と「ブランド」しかありません。ヒトだけでキャッシュフローは生じません。ブランドだけでも優れた製品は生まれません。ヒトとブランドがうまく結びつくことが重要になってきます。
 自社のコーポレートブランドに高い誇りを持ち、経営上のさまざまな課題を考え抜く社員が何人いるかで、骨太の競争力は決まります。活力ある社員を増やすことは、大変に大事です。


図4 Emotional Capitalを高めよ

 企業は事業を進めていく上で、さまざまなキャピタル(資産)を使います(図4)。金融資産や事業資産をはじめとする「ビジネス・キャピタル」。そして、社員の専門性をはじめとする「インテレクチュアル・キャピタル」は企業経営に必須です。しかし、この2つだけでは、優れたコンサルティングファームにはなれても、モノづくりを行う会社にはなれないでしょう。皆でモノづくりを行うには、「社員が沸き立つ」ような会社にならなければならない。こうした社員の活力を、第3の資産「エモーショナル・キャピタル」と捉えている経営者はどれくらいいるでしょうか。
 企業が積極的にCSR活動を行うことで、社員から見た自社のコーポレートブランドに対する信頼と評価は高まり、社員が自社に対して高い誇りを持つことになります。ですから、CSRを中核にした経営をやろうということは、エモーショナル・キャピタルを高めることでもあるのです。コンプライアンスだけでは、社員は沸き立ちません。社会貢献などのポジティブな活動で、社員が沸き立つような企業に変えていくべきでしょう。
 CSRを実践することで、持続可能なブランドをつくらなければなりません。その一方で、社員が働いていてエキサイティングだなと思えるような会社をつくること、つまりインターナルブランドも同時に高めようという活動が、CSR活動だと、私自身は捉えております。これからの企業は、エクセレント(Excellent)かつエキサイティング(Exciting)な「2eカンパニー」をめざしていただきたい。そうすることで、日本は活力を取り戻すでしょう。そのためにも、CSRがブームで終わっては困るのです。

一橋大学商学部長 教授
伊藤 邦雄
 1951年、千葉県生まれ。75年、一橋大学卒業、80年、一橋大学大学院商学研究科博士課程終了、商学部専任講師。84年、商学部助教授。スタンフォード大学フルブライト研究員(87~88年)を経て、92年、商学部教授。2002年、一橋大学大学院商学研究科長。商学博士。専攻分野は企業システム論、企業行動分析論、会計学、財務論。
 主著に『グループ連結経営』(99年、日本経済新聞社)、『コーポレートブランド経営』(2000年、日本経済新聞社)、『ゼミナール現代会計入門(第4版)』(2003年、日本経済新聞社)ほか多数。

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