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~AMAコーポレートブランドセミナーレポート

事例紹介1
UPS(United Parcel Service Inc.) ブランドの再構築
(“Can Strong Be Wrong? The UPS Brand Relaunch”)

 「強いブランド」であることは、企業にとって常にプラスに働くのか?
 21世紀を迎えたUnited Parcel Service Inc.(以下UPS)が直面した課題は、まさにそれまで自身が構築してきた「強力な」コーポレートブランドに起因するものであったと、キューン氏は指摘する。
 以下、キューン氏の講演に基づき、UPSにおけるブランド再構築・強化に向けた取り組みの概要を紹介する。

UPSブランドが直面した課題

 1990年代後半に、UPSは従来の宅配業を超えた、グローバルレベルのロジスティクス管理、およびサプライ・チェーン管理への事業拡大へ着手した。その実現のために情報技術分野への数十億ドル規模の投資を行い、99年には、これらの領域を自社のコアコンピタンスとして明確に規定するに至った。また、その後20世紀最大といわれたIPO(株式公開)を行い、公開後の2年間で実に25社もの企業買収を実行する。このような積極的な事業改革の結果、UPSは、従来の宅配業から、ロジスティクス、およびサプライ・チェーン領域のソリューションプロバイダーへと進化を遂げた。同時に、商取引を構成する三つの要素である「商品」「情報」「資金」をすべて視野に収め、世界中の商取引の円滑化を支援する、グローバル・コマースの要としての役割を果たす存在へと進化したのである。
 しかし、実際には、UPSがその百年の歴史の中で最も急激といわれた進化を遂げたにもかかわらず、その進化は、UPSの顧客に対して全くといってよいほど伝わっていなかった。UPSが実施した調査の結果は、顧客が依然としてUPSを、従来の宅配業を中心とした企業として捉えている現状を示していた。キューン氏はこのようなギャップを、「ブランドラグ(ブランドの時差)」という言葉で表現している。
 創業以来100年近い時間の中で、自らが作り上げてきたUPSブランドの「強さ」が、UPSの新しいビジョンとの間に不整合を生じさせていたのである。

ブランド再構築に向けた取り組み

 こうしてUPSは、自らのブランドの再構築を図ることを決断する。キューン氏によると、UPSが目指したのは、「これまで築いてきたビジネスの優位性を維持し」、「新しいビジョンに関する顧客の理解を確実に広げ」、「新たなコアコンピタンスを象徴する」、「強力な」UPSブランドに生まれ変わることであったという。UPSは、その実現に向けて必要とされる取り組みの検討を開始した。
 最初に行われたのは、新しいビジョンに基づき、明快なブランドプロミスを規定することであった。しかしながら、UPSが事業の中核に据える国際物流やサプライ・チェーン・ソリューションは非常に複雑なコンセプトであり、ブランドプロミスの規定は言葉で表現するほど容易なものではなく、極めて難しい作業となった、とキューン氏は述べている。最終的には「Synchronized Commerce」という二つの単語でUPSブランドが定義されることとなった。
 こうしたブランドプロミスの規定を受け、次にUPSは自社の進化に関する外部ステークホルダーの理解促進に向けたコミュニケーション関連の取り組みに着手する。キューン氏は、その中でUPSが重要視した外部ステークホルダー向けの施策領域として、「広告キャンペーン」「ビジュアル・アイデンティティ(VI)」「CRM」の三つを挙げている。

広告キャンペーン「What Can Brown Do For You Campaign」

 UPSの変革と進化の伝達、理解促進を目的とした広告キャンペーンの第一弾として企画されたのが、「What Can Brown Do For You Campaign」であった。このようなキャンペーンコンセプトが設定された背景には、調査を通じてUPSの顧客がUPSを「茶色」として強く定義していることが発見されたことに加え、UPS社内で、茶色という色に、UPSブランドの既存資産とこれから伝えていかなければならない新しさとをつなげる力が感じとられていたことがあった。
 このキャンペーンは2003年初頭にスタートし、大成功を収め、現在も継続している。(キューン氏によると、その後の調査では、過去最高のブランド想起レベルを記録し、各ターゲット層の10人の内9人がこのキャンペーンは適切であると答え、10人中約7人がこのキャンペーンでUPSを新しく捉えるようになったと回答している)

ビジュアル・アイデンティティの刷新

 キャンペーンに続いて、UPSがすぐに取り組みを開始したのは、ビジュアル・アイデンティティ(VI)に関する施策であった。UPSは、自らの変革、進化を視覚的にも伝える必要があると考え、42年ぶりとなるブランドマーク刷新を決断した。
 UPSは、従来の小包をモチーフにしたブランドマークを、シンプルでダイナミックな盾に変えると同時に、この新しいマークに基づいた新たなデザイン体系で社内の全部門のビジュアルを統一することを決定した。これはUPSにとって、史上最大のVI刷新作業となった。UPSは、200カ国以上の国でビジネスを展開しており、約600機の飛行機、8万8000以上の車輌、全世界36万人分の従業員の制服、UPSの事務用品、3万5000個以上のUPSの集荷ボックス、米国内だけで3300拠点ある店舗等、膨大な数の顧客接点を有しているが、そのすべてがデザイン刷新の対象となったのである。講演内でキューン氏が指摘した通り、これらはUPSにとって極めて大きな取り組みであり、大規模な投資となったが、このような思い切ったVI刷新によって、UPSは自社のあらゆる顧客接点を活用して、ステークホルダーに対し自らの変革、進化を伝えることが可能となったのである。

戦略的CRMの推進

 同時にUPSは、戦略的な顧客管理、すなわちCRMの推進に着手する。1テラ(1兆)バイトのデータベースを構築して、そこにすべての顧客の取引データを蓄積、過去の顧客行動・対応の履歴データを、マーケティングやサポートへ活用した。キューン氏は、このようなCRMの推進を通じて、UPSの顧客に対する理解がより一層深いものとなったと述べている。こうしたCRMへの取り組みは、適切なサービスの適切な顧客への提供を推進するという側面から、UPSの新たなブランドプロミスの忠実な実行に、密接に結びついているのである。

ブランド構築におけるインターナルコミュニケーションの重要性

 これまで、UPSが自らのブランド再構築において重視した外部向けの施策領域である「広告キャンペーン」「VI」「CRM」について紹介してきたが、キューン氏はこうした外部向けの取り組みは、UPSのブランド再構築に必要とされる取り組みの半分にしか過ぎないと指摘している。そして実際には、社員の意識や仕事の進め方も新しいブランドプロミスに合致させていくことが必須となるため、社内とのコミュニケーションが極めて重要な役割を果たす点を強調している。
 キューン氏によると、UPSの事業変革が推進されている過程においても、自社の進化に全く気付いていない社員が数多くいたそうである。そのため、当時は社内向けのニュースレターやブランドビデオ等のコミュニケーションツールも活用しながら、ブランドプロミス「Synchronized Commerce」の意味だけでなく、このような進化が必要とされる理由や背景についても詳しい説明を行い、個々の社員が実際にどのようにして、この新しいブランドプロミスに適応していくべきかを話し合うミーティングの機会を数多く持ち、社内で徹底的な話し合いが行われた。
 特筆すべきは、これらの社内向けコミュニケーション活動がすべてトップダウンで行われた点である。キューン氏はトップダウン型の社内向けコミュニケーション活動が、社内浸透において極めて有効に作用したと指摘している。
 同時に、社内の足並みをいかにしてそろえるかが、ブランド開発を成功させる上で極めて重要な要素となる点を強調しており、もし社内の人間が新たなビジョンやブランドプロミスを共有できないのであれば、顧客をはじめとする外部のステークホルダーがそれを共有できるわけがない、と厳しく指摘している。

 キューン氏は講演の最後に、新しいUPSブランド像はステークホルダー内に浸透しつつあり、UPSにおけるブランド再構築に向けた取り組みは確実に成果を上げていることを紹介する一方で、本来、ブランドに関する活動に終わりはなく、決して現状に満足せず、今後も自らが定めたブランドプロミスをより高い水準で実現するべく、これからも取り組みを続けていくことが重要であることを強調し、講演を締めくくった。

キューン氏が提示したブランド構築に関する4つの示唆
  1. 自社のステークホルダーの自社のブランドに対する認識や理解が企業実体と合致しているかどうか、その動向や意識を常に確認し続けなければならない。
  2. ブランドの再構築やポジショニングの変化を図る場合には、一貫性を伴った全体的なアプローチに基づき、広告やコーポレート・コミュニケーション、CRMといった各種活動等を通じて外部ステークホルダー向けコミュニケーションを展開しなければならない。
  3. 社内の人々が、自社が目指す方向と、そのビジョン達成に向けてどのように対応すればよいかについて、正しく、そして明確に理解できるように社内コミュニケーションを設計、展開しなければならない。
  4. 「強いブランド」は、その価値を正しく理解しないと、誤った方向に成長してしまうことを常に認識しなければならない。

Senior Vice President, Worldwide Sales and Marketing
Kurt Kuehn(クルト・キューン)氏

<レポーター>
電通統合マーケティング局ブランドコンサルティング室 西口正敏
日本経済新聞社東京本社 広告局業務推進部次長 横田浩一

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