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実践コーポレートブランド

企業ブランドを超えて(上)

 本連載の執筆依頼を受けて、当初は博報堂ブランドコンサルティングが開発したブランディングの新手法や事例を紹介しようと考えた。しかし、企業ブランディングを実践する上で、むしろ今重要なのはブランドを経営上どう位置づけ、どのような成果を目指すのかという問題だと思う。
 企業ブランドの強化は、本誌で毎年実施される「広報・宣伝部長アンケート」でも、「広告活動上、重視していること」の第一位に挙げられる。また多くの企業トップの年頭方針発表でも重要な課題の一つとして取り上げられるようになった。企業ブランドの重要性に、もはや異論を唱える人は少ない。しかし、実際に企業ブランドプロジェクトを推進していると、「それで本当に儲かるのか?会社は変わるのか?」という現場からの声がとぎれることがない。
 こういった現場の声の中に、日本における企業ブランドの議論に欠けている何かがあるように思えてならない。そこで、今回は「企業ブランドを超えて」と題して、近年日本企業が行ってきたブランドへの取り組みを振り返り、超えなければならない壁はどこにあるのかを考察してみたい。

日本企業のブランドへの取り組み十年

 デービッド・A・アーカー教授の『ブランドエクイティ戦略』が日本で翻訳出版されたのが1994年である。それからもう10年がたった。従来から「ブランドイメージ」や「ブランドロイヤルティ」は一般的なマーケティング用語として使われてきたが、ブランドを資産としてとらえるという考え方は一つの大きな転換点となった。
 それに先立つ、80年代後半には多くの日本企業が壮大な21世紀ビジョンを打ち出し、ロゴやマークを変更した。そして、そういった「CI」ブームも、バブル経済の崩壊とともに終焉を迎えた。同じ時期、欧米では不況下の企業買収においてブランドの価値が再認識され、有力企業の多くが経営テーマとしてブランドに取り組み始めていた。
 そして90年代の半ば、「ブランドエクイティ」の概念が日本でも紹介されると、それと時を一にして、欧米企業と熾烈なグローバル競争を行っている企業や80年代後半の多角化路線の見直しを行い始めた企業の中から、「ブランドアイデンティティ」の再構築の機運が沸き起こった。


図1 日経企業のブランドへの取り組み推移

 そして、2000年を前後とした企業のM&Aの増加や連結経営の導入、企業価値に寄与する無形資産の評価といった動きを背景として、コーポレートブランド経営=企業ブランディングというテーマに昇華していったのである。多くの日本企業にとって、経営者が考えるブランドといえば企業ブランドのことであり、ブランドマネジメント=企業ブランディングとなるのは自然な流れであった。

企業ブランディングがもたらしたもの

 企業ブランディングの導入と実践は、結果として日本の経営層に一つの大きな気づきをもたらしたと思う。それは、モノや機能を中心とした経営から情報化・知識社会の経営への脱皮である。これは、日本の競争力の源泉といわれる「もの造り」を否定するものではない。むしろ、顧客が知覚する品質感までをもマネジメントの対象とすることで、「もの造り」の強みをさらに強くする試みなのである。
 また、企業ブランドを中核に据えることで、日本企業にありがちな株主と従業員のどちらが大事かといった二元論は意味のないものとなった。
 ブランドは企業の所有物であるがその価値の増減の命運は企業外の顧客にある。そしてブランドが企業価値に大きなインパクトを及ぼす以上、株主の論理だけで企業価値の評価や支配権を論じることは不可能になっている。
 一方、運命共同体型の日本的経営が崩壊し、会社は従業員のものであるといった単純な理屈ももはや通りにくい。分社化や合併など会社の永続性が保証できない中で、共有する企業ブランドにグループの求心力やコンプライアンスの拠り所としての役割が期待されるようになった。さらに多くの日本企業が導入した成果主義は個人のモチベーション向上を図る一方で個別最適型の従業員行動を生み出す傾向にある。しかし、同じ企業ブランドを担う人は顧客から見ればどの部門も、どのような雇用形態の個人も同じである。ブランド価値を高めるには、顧客の要請に応じた全体最適型の従業員行動が必要となるのだ。
 すなわち、株主か従業員かというよりも、ブランドを中心に顧客、株主、従業員の好循環をつくり出すことが重要であるという共通認識は徐々に広まったと思う。
 そして、多くの日本企業が90年代後半から2000年代初頭にかけて全社横断型の企業ブランドプロジェクトを立ち上げた。その結果、新しい企業スローガンが数多く生まれ、ロゴやマークを変更した事例も増えた。さらに、企業ブランド推進室といったブランドマネジメントの専任組織が数多く設立された。それは、さながら第二次CIブームともいうべき状況であった。そして、ブランド資産に関するランキング評価があたかも、企業経営の通信簿であるかのようにもてはやされた。
 しかし、財務的な資産評価に一喜一憂していてもブランド価値の向上策はなかなか見えてこない。また、ロゴやスローガンを刷新し新しいイメージを打ち出すだけでは会社が変わったという実感はなかなかわいてこない。さらには、コーポレート部門のブランド推進スタッフのマンパワーも限られて、現実には事業の各部門にはなかなか浸透しきれない。それが、冒頭に述べた「それで儲かるのか?会社が変わるのか?」といった現場の声につながっているのである。

二つのブランド文化の存在

 ブランドマーケティングの世界的な権威の一人であるパリのHEC経営大学院のJ・N・カプフェレ教授は、世界には二つのブランド文化があると指摘している。それは欧米型の製品ブランド主義と日本型の企業ブランド主義である。
 西洋的なブランド観とは、P&Gなどに代表されるもので、ブランドは製品の差別化を図るための市場を切り分ける一手法として活用されてきた。原則としてそれぞれの市場セグメントごとに新しいブランドが生まれる。ブランドは消費者向けに作られたものであり、企業名は株式市場においてのみ重要であった。
 一方、日本的ブランド観とは世界的に有名な日本のブランドの多くが企業グループの名前(三菱、トヨタ、ソニー等)であるように、製品よりとにかく企業の評判を重視する志向性のことである。ブランドは競合との差異よりも、製品の発生源としての企業の持つ内なる価値観やその信頼性から生まれる。
 そしてさらに、カプフェレ教授はグローバル競争の中で、この二つのブランド文化が重なり合い、収斂しつつあると指摘している。具体的には、ユニリーバやP&Gといった欧米企業がアジアのテレビ広告で企業名を露出するようになり、ロレアルなども個別ブランド政策からの大転換を図っている。一方、日本企業も、製品ブランドの強化とグローバル展開を図りつつあり、トヨタのレクサスなどはコーポレートブランドとは異なる市場細分化のブランド構築の成功例である。
 このカプフェレ教授の指摘から学ぶべきなのは、ブランドには製品やサービスの起源を明確にし信頼性を付与する機能と、他のブランドとの差別化を図り購買の要因になる機能の二つがあるということだ。そして、その両面をバランスよく達成するブランドマネジメントこそが重要であり、それが二つのブランド文化が収斂する要因になっているのである。
 ここに、近年の日本企業のブランディングの問題をひも解くヒントがあるように思える。

企業ブランディングと顧客マーケティングの再統合

 90年代の半ば以降、ブランドエクイティという概念とともにブランドマネジメントの重要性が語られ、多くの日本企業が企業ブランドの再構築に着手した。それは日本のブランド文化においては自然な流れであった。しかしそれが企業ブランドの偏重につながり、ブランドと個別の事業戦略や顧客に対するマーケティング活動との関係性が置き忘れられたのではないか。
 広範囲な事業を展開している企業ブランドのターゲット顧客を特定し、他社との差別化を検討するような議論を突き詰めてやるのは難しい。また、企業ブランドの評価だけでは企業が持つ全ブランドの資産を把握できたとはいえない。例えば、JTやアサヒビールでは、製品ブランドのマイルドセブンやスーパードライの評価を加えなければ、企業の全ブランド資産の評価をしたとはいえない。
 そこで今必要なのは、企業ブランドの軸足を固めた後に、チャネル・最終消費者に至る具体的な価値創造の流れ(バリューチェーン)を深掘りしていくことである。具体的に言うと、共通のブランドターゲットと事業分野や製品カテゴリーに応じたマーケティングターゲットを分けてその関係を整理すること。また、企業ブランドと事業ブランド、製品ブランドの体系の最適化を図ることである。従来の言葉で言い換えると、「企業イメージ戦略」と「事業戦略」や「製品マーケティング」の接点の部分が重要になっているのだ。


図2 企業ブランディングと顧客マーケティングの再統合

 そして、その接点の中核にあるのが全社的な顧客戦略である。言うまでもなく、企業に成長をもたらすのは顧客の創造と維持である。どの企業にとっても、顧客に新たな価値を提供し企業成長を実現することが本質的な経営課題であるはずだ。経営トップ層が顧客とは誰であるかを常に真剣に議論し、その顧客に対するブランディングの努力を怠らなければ、おのずと持続的な利益成長がもたらされる。企業ブランディングであろうと、製品ブランディングであろうと、常に顧客を起点にブランド戦略を構築することが重要なのだ。
 さらに、ブランドを資産として管理するだけでなく、市場で資源として活用しながら成長させていくという視点が必要である。言い換えるとマーケティングの現場で活用しながらブランドの資産価値を上げていくということだ。今や多くの日本企業が財務的なリストラを終え、攻めの経営へ転換を図ろうとしている。バブル崩壊以降続いたリストラ時代のブランディングの環境から明らかに潮目は変わった。しかし、目の前にあるのは人口が収縮する成熟化した日本市場と成長する中国やインドなどの市場に挟まれた複雑な状況である。こういった状況下で、製品戦略や事業戦略と乖離した企業ブランド管理をいくら唱えても意味はない。よい資産も下手な使い方をすると目減りしてしまうが、使わないと時代から取り残されてしまう。ブランド戦略と事業戦略との整合性がしっかりとれていれば、市場で資源として活用しながらブランド資産を増やすことは可能である。市場で勝つための道具としてのブランディング、事業戦略と直結した攻めのブランド戦略が必要なのだ。
 今あるパワーブランドの多くも、市場競争の戦いの中から生き残ることで徐々にブランド価値を高めていった。会計の言葉でいえば損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)、別の言葉で言えば短期の戦略と長期の戦略の連鎖の中に、ブランドの進化・成長の可能性があるのだと思う。
 かつて日本の経営者にとってブランドといえば高級ファッションブランドか、マーケティングの担当者が扱う個別商品ブランドのことであった。しかし、近年の時代背景の中で、企業ブランドの強化こそが経営層が考える課題であるという認識が深まってきた。そして今、改めて企業ブランディングと顧客マーケティングとの再統合を図ることで、ブランドや顧客戦略が真にトップマネジメントレベルが取り組むテーマとして定着していくことにつながるのではないだろうか。
 次回は、企業ブランディングと顧客マーケティングをいかに統合するか。さらに、ブランドと事業の進化モデルをどのように組み合わせるか。いくつか具体的な論点を交えながら考察してみたい。


博報堂ブランドコンサルティング代表取締役社長
首藤 明敏

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