音声ブラウザ専用。こちらより本文へ移動可能です。クリック。

NIKKEI

NIKKEI AD Web

広告申し込みに関するお問い合わせはこちら

English Page


CB Valuatorとは?
ブランド価値ランキング
日経企業イメージ調査
実践コーポレートブランド
日経ブランディング

実践コーポレートブランド

企業ブランドを超えて(下)

 前号では近年日本企業が行ってきたブランドへの取り組みを振り返り、企業ブランドの強化を至上命題としてきた結果、もたらしたものは何か、逆にとり残された課題はどこにあるのかを明らかにした。そして、顧客マーケティングや事業戦略と直結した攻めのブランド戦略の重要性を指摘した。そこで今号では、企業ブランディングと顧客マーケティングを統合し、実効性のあるブランドマネジメントへと進めるための主要な論点を提示したいと思う。

「建増し旅館型」ブランド体系の再構築

 論点の一番目はブランド体系の再構築である。企業は、企業ブランドだけでなく、事業ブランドや個別の商品ブランドなど様々なブランドを保有している。従って、企業ブランドだけを強化してもブランドマネジメントの答えはなかなか出てこない。自社の全ブランドの体系を把握しその構造を再構築することは、優先的に取り組むべき重要なテーマである。
 温泉旅館の経営破綻が話題になることが多い。そのほとんどは、高度成長期に団体客を取り込むために、和風の旧館に洋風のホテルをやや中途半端に建て増ししたようなところだ。そして日本企業のブランド体系の現状は、まさにこの「建て増し旅館」のような状況にある。企業ブランドを身元保証に、その都度様々な分野に新製品(個別ブランド)を投入した結果、いびつで非効率な構造になっているのである。
 中には、モノ中心の時代に生みだした数多くの個別ブランドを統廃合し、ブランド体系のスクラップ&ビルドに取り組む企業も出てきた。しかし、現実には「この商品は何代か前の社長の肝いりであり、どうしても終売にはできない」といった声や「流通のフェースを確保するために、品揃えとして外せない」といった声にかき消されて、ブランドの統廃合はなかなか進まない。一方、ブランドマネジャー制が導入されている企業では、マネジャーの役割は担当する個別ブランドから収益を最大化することである。自らブランドを取捨選択したり、担当するブランドによって全社のブランドの価値を高めるといった発想は期待できない。


図1 ブランディング体系の再構築

 そこで、ブランド体系を見直すためには、各個別ブランドが全社的なブランド価値向上に貢献するか、企業収益に貢献するかといった、二つの軸に基づいた育成強化や統廃合に関する合理的な判断が必要である。そうした作業を通じて、企業ブランドの傘に入れるものと、独自ブランドとして立たせるものの位置付けも見えてくる。(図1)
 また、個別ブランド間、そして企業ブランドと個別ブランドの関係を整理しマーケティング投資の配分を決定するのは、マーケティングというよりむしろマネジメントの課題である。ここで重要な役割を担うのは、複数のブランドマネジャーを管理する立場にあるカテゴリーマネジャーもしくは、事業本部長である。事業の責任者として、経営トップや企業ブランド管理セクションと個々のブランドマネジャー等の間に立ち、事業単位でのブランド体系の最適化を図る役割が求められる。
 さらにM&Aによって、従来企業ブランドとして機能してきたものが、ある日突然一つの事業ブランドに転換するケースが出てきている。例えばフォードにとって、資本参加したジャガーやマツダをフォードモーターカンパニーの全体戦略の中に取り込み、オーバルマークのフォードも加えたブランドポートフォリオ管理を行うことは重要な経営テーマの一つになっている。日本で企業統合が行われた場合、お互いのメンツを立たせるために従来からある二つの企業名を単純に組み合わせるか、まったく新しいブランド名を新規に開発するのが一般的であった。そこには、顧客に価値あるブランドを活用しようという合理的判断は見られなかった。今後、国内市場が成熟化する中でM&Aの動きはますます加速化することが予想される。その際、企業ブランドだけでなく個別ブランドも含めた既存の全ブランド資産の再活用とそのポートフォリオ管理が重要なテーマになっていくだろう。
 ブランド体系は、単なるネーミングやマークの扱いの問題ではない。むしろその背後にある事業や製品ラインの戦略単位をどう最適化するかという問題であり、ブランディングと事業戦略をつなぐまさに経営的テーマなのである。

ブランディングとCRMの統合

 論点の二番目は、ブランディングとCRMを統合した経営レベルの顧客戦略の構築である。ブランディングとCRMの関係は、以下の例で考えるとわかりやすい。


図2 ブランディングとCRMの統合

 航空会社のマイレイジを会員として利用する人は多い。ただし中には、マイルの条件がいいから使っているだけで、会員になっているからといってその航空会社に特別な愛着はない人もいる。マイルを使いきると、何かのきっかけですぐスイッチしてしまう。こういった顧客は、一時点のCRMデータだけ見ると、ロイヤルカスタマーといっても悪くない。しかし、ブランドへのコミットメントは低く、結果として他社に移ってしまったわけで、図2でいうとたまたま留まっているという意味の「暫留層」である。
 これまでのCRMは、顧客継続率が高い金融や通信、クロスセリングの成果が出やすい流通や通販、そして管理対象顧客を絞り込みやすいB to B業界のものと考えられてきた。これはCRMが購買行動の履歴データをベースに分析するため、既存顧客の維持と追加販売の可能性だけが考慮されてきたためである。そのためCRMのアウトプットは、ターゲット選定やマーケティング戦略に反映されず、プロモーション活動に限定される傾向にあった。その一方、マスを対象にしたブランド意識調査だけでは、既存顧客と潜在顧客の差がリアルには見えてこないという問題があった。
 購買行動のみのCRMデータだけでは、真の投資効率は判断できない。同様に消費量を無視してブランドイメージだけをよくしても、成果にはつながりにくい。つまり、行動レベルのデータと、ブランドに対するマインドレベルのデータを組み合わせた顧客戦略構築が重要なのである。
 しかし、実際にはこの二種類のデータを扱う部門が異なるためにこうした分析ができていない場合が多い。そして、これを実務で活用していくためには、データを紐付けするルールを統一し、特定の顧客タイプに対してブランド固有の価値提供をしていくマーケティング施策のバリエーションを増やしていく必要があるだろう。
 B to B企業のブランド戦略プロジェクトなどを推進していると、顧客データは蓄積されているが個々の部門単位で管理されており、全社的な顧客状況が経営層にも共有されていないことが多い。ブランド戦略の構築とCRMの問題をからめて議論することで、全社レベルの顧客戦略の共有化が進む場合がある。また、人的営業の強い会社では顧客との関係はとかく営業個人につきやすい。一方、ブランドの重要性が現場の営業に浸透していくと、全社的な顧客データ管理やナレッジマネジメントが円滑に進むという効果も見られる。

顧客接点における投資配分の最適化

 論点の三番目はブランドが持つ様々な顧客接点=タッチポイントに対して、いかに有効なマーケティング投資配分をするかという問題である。
 ブランドの真価が問われるのは、最終顧客と接する現場である。ブランド力を強化し販売に結び付けるためには、どの顧客接点に経営資源を投資していくかの判断が重要だ。


図3 顧客接点評価(例)

 マーケティング施策を立案する際には、各顧客接点でのブランド知覚を確認する作業が必要である。競合と比べてどの顧客接点での評価に差があるのかを把握する。これにより、顧客接点における有効性の視点からマーケティングミックスを最適化することが可能になる。図3は、自動車の二つのブランドの各接点に対する顧客の印象度評価である。現在ではウェブも含め、インタラクティブな体験の場の重要性がより増している。特に、顧客接点における人的サービスのあり方は、サービス業、メーカーを問わず鍵となる課題となっている。
 各接点における一貫したブランド提供価値の伝達と鍵となる接点への重点投資によって、売り上げ拡大とマーケティング投資の効率化による利益率向上が可能となるのだ。
 また、ブランドの顧客接点評価は、チャネルとの関係を再構築するためにも有効である。チャネルごとにどのような機能役割を期待すべきか、またどのような活動に対してインセンティブを提供すべきかが明らかになる。そして、販促費用等の適正化を図る一方、チャネルの利益機会をサポートすることで、チャネルとの友好な関係を構築することができる。
 最近、マーケティングROIをキーワードに企業のマーケティング部門の予算をいかに効率化するかが一つのテーマになっている。新工場建設やシステム構築の際、投資対効果を考慮しないことは想像し難い。従ってマーケティングにも同様の効果予測を求めることは当然である。しかし、マーティング活動における、マーケティング費用と売上高や利益との間には多様な変数が存在する。しかも、金額比較が容易な媒体費などの定量的側面に加え、メッセージや表現などの定性的要素がその効果を大きく左右する。
 ここで重要なのは精緻な予測モデルを作り上げるよりも、ある程度妥当と思われる条件に従って全体のマーケティング予算配分を最適化するような意思決定の支援モデルを準備することではないだろうか。具体的にどのようなモデルを採用するかは事業の形態によって異なる。いずれにしても、単純な顧客接点のヨコ比較に加えて、顧客ターゲットごとの配分モデルの構築や、顧客の購買プロセスに応じた各接点の役割を明確にする必要があるだろう。
 そしてその際、ブランドマネジャーや事業本部長などのブランドに対する投資効果の最大化を図る部門と、宣伝・販促などの個別接点の効率最大化を志向する部門との適切な協働や連携が重要になるのは言うまでもない。

ブランディングを実現するプライシング

 論点の四番目は、ブランディングの方向性に合致した戦略的なプライシングの実行である。
 近年の成熟化した消費社会では、プライシングの利益に与えるインパクトは大きくなっている。マッキンゼーが2002年に行った分析によると、グローバル1200企業の損益平均のシミュレーションで、価格を1%上げると営業利益は11%も上昇する。これは、変動費や固定費のカット、売り上げ数量の拡大に比べて、営業利益に対してはるかに大きなインパクトを及ぼす。企業が利益を拡大する手段としてプライシングは飛びぬけて強力な手段であることがわかる。
 ブランディングがもたらす企業経営上の効果は様々あるが、顧客の強い支持に基づく、価格プレミアム効果もしくは値崩れ防止の効果は際立っている。
 日本経済新聞の記事によると、米国の自動車産業のビッグ3では、販売奨励金やゼロ金利ローンなどのキャンペーンによって、1台あたり3000弱の値引きが常態化している。その結果、2002二年度の営業利益率はGM0.9%、フォード0.4%、クライスラー1.0%という低い数字に陥った。一方、日本車は故障の少なさ、燃費のよさ、ブランド力を武器に、1台あたり500~1000ドル程度の値引きに留めることで、トヨタ8.8%、ホンダ7.8%、日産10.5%といった営業利益率を達成した。ブランド力が顧客との取引価格の維持につながり、それがダイレクトに企業収益に結びついている。日産のカルロス・ゴーンCEOは、著書『ルネッサンス~再生への挑戦』の中で、店頭での値引き圧縮を目標にした全社的なブランディングの取り組みについて語っている。価格はブランディングがもたらす単なる結果ではなく、ブランディングの一つの目標ともなりえるのである。


図4 ブランドプレミアム評価(例)

 図4は、ノートパソコンに関する消費者のプレミアム評価調査の結果である。この結果によると、ノートパソコンのブランドAとブランドEでは、製品スペック、流通条件などを同一とした場合、約1万1000円のプレミアム評価に違いがある。つまり、1万1000円以上値引きしなければ、ブランドAのユーザーはブランドEにスイッチしない。実際の店頭における価格の変動は販促費などブランド以外の様々な条件の影響を受ける。ブランドと価格の関係をマネジメントする上で、純粋にブランドが価格に与える影響を把握する上記のような方法論が極めて有効である。
 ブランドにはその提供価値の顔となる様々な要素が存在する。名前やマークを始めとして、商品、人、店舗など様々な要素が複合して一つの連想構造ができあがる。その中で、価格はブランドの価値の高低の象徴となるものである。価値が乏しいと思われているものにただ高い値段をつけても、販売量は取れない。一方、ある程度価値があると思われているのに値付けに失敗して、利益なき繁忙に陥るケースもまま見られる。そういう意味でも、ブランド戦略と価格戦略のリンケージが重要なのである。
 稲盛和夫氏は『高収益企業のつくり方』という著書の中で、以下のように指摘している。
「値決めは経営である。商売の秘訣はお客さまが納得して、喜んで買って下さる最高の値段を見抜き、その値段で売ること。値決めは事業の死命を決する重大な判断であり、最終的には経営者が決断するべきである。」いちいち営業取引の現場にトップがかかわっていては仕事は進まないが、ブランドの基本方針と同様に価格の基本方針の決定はトップの仕事なのである。

マーケティングメトリクスの確立

 論点の最後は、マーケティングメトリクス=ブランディングの実効性をもたらすためのトラッキングシステムの確立である。
 企業ブランドの資産価値が経営会議の話題に上ることが多い。しかし、企業ブランドの財務資産評価をしても、顧客に対するマーケティング活動の改善点は見えてこない。一方、顧客マーケティングは現場に任せ切りになっていて、経営陣が無関心な場合が多い。これが「儲かるブランディング」にならない要因の一つになっている。従って、現場が陥りがちな細かいマーケティング情報の把握ではなく、全社戦略の実現に向けたマーケティングの貢献度を正しく評価する仕組みが必要である。
 ビジネスの成功や失敗を判断するための情報は、数値化されていなければならない。数値化されていれば、その前後と比較して「増減」や「成長率」を判断することができる。また目標に対する達成度合いを見るためには「目標値」とセットになっている必要がある。数値化された情報と目標値をセットにしたものを「メトリクス」と呼ぶ。経営層がブランドマーケティングの実効性を評価し対策を打つには、見るべき情報が比較的固定化され、複雑な操作を必要とせずに、できるだけ簡単に時系列情報が取得できるモニタリングの仕組みが必要である。


図5 マーケティングメトリクス(車のダッシュボードに例えた概念図)

 図5は車のダッシュボードに例えて、マーケティングメトリクスの要素を整理した概念図である。飛行機のコックピットほど複雑なものは必要ないが、車のスピード計、加速度計、ガソリン計などと同様に自社のブランド戦略に即した複数のマーケティング指標を見なければならない。具体的には、財務・営業数字に基づくマーケティング成果指標、生活者や社員の意識に基づくブランド力指標、顧客の評価に基づく顧客接点指標などを把握する必要がある。ブランドの財務資産評価が中古車売買のための査定評価に近いのに対し、これは車を運転するドライバーのための指標である。
 財務的業績評価指標と非財務的業績評価指標を併用し、戦略から具体的なアクションに結び付けるための経営ツールとして「バランススコアカード」の導入を進めている企業が多い。マーケティングメトリクスはこの「バランススコアカード」の考え方と親和性が高い。従って必要に応じて「バランススコアカード」の一指標として組み入れるという選択肢もある。
 いずれにしても、ブランディングの実効性を高め、経営レベルの顧客戦略を進める上で、マーケティングメトリクスの確立は必要不可欠であるといえよう。

最後に:マーケティングプロセスの革新に向けて

 以上、企業ブランディングと顧客マーケティングを統合する五つの論点を提示してきた。これらの論点は一言で言うと「マーケティングプロセス革新」と言い換えることもできる。バブル経済後の財務的なリストラにほぼ目途が立った現在、成熟化社会の中で改めて成長戦略を描くには、日本企業が従来から培ってきたマーケティングの方法論を作り変える必要がある。ここ数年導入されてきたブランドマネジメントが一つの契機となり、日本企業のマーケティングプロセスのイノベーションが始まったといってもいいのではないだろうか。


博報堂ブランドコンサルティング代表取締役社長
首藤 明敏

お問い合わせサイトマップENGLISH