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新世代のブランド・マーケティング
~ブランド・パーソナリティーとコミュニケーション戦略を中心に~

 ニュージェネレーションの「マーケティングの権威」と目されるジェニファー・アーカー教授が来日。5月16日に、社団法人日本マーケティング協会アカデミーホールで特別 セミナーが開催された。アメリカの最新の研究をベースに「新世代のブランド・マーケティング」のあり方について方向性が示された。

ブランドとはなにか

 近年アメリカで研究されているブランド・パーソナリティーとブランド関係構築、そして感情および文化の影響について話をさせていただきます。

 まずブランドとはなにか。一見シンプルな質問に聞こえますが、実は非常に複雑な問題です。ここ10年~20年の間を見ても、ブランドについて様々な観点から研究が行われて きました。

 次の抜粋を読んで、いったい誰が書いたものなのか推測してみてください。

 「審判の日が近づいている。そして、私たちはこれまでの人生について自問することになる。それは、いくら稼いだかやどれほど大きな家を建てたか、あるいは何台車を持っ たかといったことについてではない。それは、同胞のために何をしたかであり、これまでに構築した関係についてである。それは世界を良くするためにこれまで自分が何をしてき たかについてである」

 牧師さんのお説教の文句のようですよね。でも実際にこう語ったのは、世界最大のタバコ会社であるフィリップ・モリスの前CEOです。驚かれたり、場合によっては失笑 されたりした方もいらっしゃるかもしれません。

 ブランドとは、発信したメッセージを人々がどう受け止めるかを規定するものです。ブランドによっては、これと同じメッセージを発信することによって、失笑を誘うこと なく、人々から一層の信頼を得られるかもしれません。例えば、これを言ったのがフィリップ・モリスのグループ会社であるクラフトフーズの前会長だと言われたら、皆さんの反 応は随分と違っていたのではないでしょうか。つまりブランドとは、その企業がその日までに築き上げてきた評判に他なりません。そして成功しているブランドは、きちんと約束 を果たしますし、顧客や従業員から見て明確な価値を提供しているのです。

 さて、今日は、成功しているブランドの4つの特徴をご紹介します。第1に、確固たるパーソナリティー、人物像を持っています。第2に、ブランドだけではなく、ブランドと 顧客との関係性を管理する能力を持っている。第3に、時として過ちも犯してしまうことがある。そして第4に、自分ができないことをはっきりと意識し、それを自分のプラスにな るようにしている。つまり、不得意分野を味方につけているということです。

ブランド・パーソナリティーの重要性

 これまでのブランド・マーケティングの研究は、主にブランドの属性に光をあててきました。これに対し、新しい研究の1つの流れとして、ブランド・パーソナリティーの研究があり ます。ブランドの属性、つまり、ブランドの物的特徴や機能にしか光をあてない研究には、様々な面で不都合がでてきていました。というのも、消費者は単なる機能だけでブランドを購入 しているわけではないからです。一方、それまで少数ながら存在したブランド・パーソナリティーの研究の問題点としては、定性的なものばかりで定量的な研究がなかったこと、アメリカ 的視点に偏った調査ばかりだったことがあげられます。私はこれらの問題点を克服するべく、定量的にブランド・パーソナリティーを扱うことができるモデルを開発するとともに、それを 国際的に展開したのです。

 ブランド・パーソナリティーが重要である理由の1つとして、それが、この後お話しするブランドと顧客との関係性、いわゆるブランド関係に強い影響を与えることがあげられます。 ブランドがもたらす便益は様々ですが、その中の1つに自己表現があります。例えば、ハーレーダビッドソン。ハーレーの愛好者には、体にブランドのロゴを刺青している人が少なからず います。その理由は、ハーレーには、人々の心をつかんで放さない象徴的な何かがあるからです。ハーレーというブランドには個性、男らしさ、自由、それから独立独歩といったイメージ があります。そのような自己表現が可能となるブランドなのです。

 また、ブランド・パーソナリティーは、ブランド属性とも非常に強い係わり合いを持っています。アメリカのある保険会社の例をお話ししましょう。かつてその保険会社は冷たくて、 金儲け主義で、官僚主義的だと思われていました。しかしその会社は、温かみがあって、思いやりがあって、とっつきやすい会社になろうと努力を始めたわけです。そのために商品構成を 変え、また消費者と接点を持つオペレーターたちがフレンドリーに接するよう大転換をしました。そして全社的な変更を際立たせるべく、スヌーピーをキャラクターとしてすべてのマーケ ティング・コミュニケーションに登用しました。

 そしてまたブランド・パーソナリティーは、そのブランドを競合他社から明確に差別化するという機能も持っています。例えばインテルの場合は、技術的に卓越していて、常に信頼 のおけるブランドだということがあげられますが、インテルはそれだけではありません。インテルには刺激、ワクワク感というものがあって、インテルの競合他社にはその刺激要素はあり ません。またこの刺激は、BtoBからBtoCに展開する際にも、若年層を中心に大きなアピールを持つことになるものです。

ブランドの5つの次元

 アメリカ市場において様々なブランド・パーソナリティー特性を見ていく場合、主に5つの次元から消費者がブランドをとらえていることがわかりました。因子分析の結果、この5つ の次元はアメリカにおいては、それぞれ、誠実、刺激、能力、洗練、たくましさという因子です。(図1参照)

“The Big Five”dimensions「ビッグ5」の次元

 誠実因子は、堅実で、家族志向で、都会っぽくなくて、正直、誠実、健全、本物、励まし、情の深さ、親しみといったものです。アメリカにおいて誠実因子が高いと見られている ブランドの例に、マクドナルドとホールマークがあります。

 2つ目に刺激因子があります。あこがれがあって、流行っぽくて、刺激的で、勇気があって、クールで、若くて、創造力があって、斬新で、独自性があって、現代的というものです。 MTV、Yahoo! などのブランドが刺激因子の高いブランドといわれています。

 3つ目が能力因子です。特にBtoB企業、ソフトウエアやハードウエアなどにおいて、能力、有能さが重視されます。それは具体的には信頼性、勤勉性、安全性、知的、技術的、そ して結集力があり、成功したものであり、またリーダー的存在で自信のあるものということになります。IBM、AMEX、トヨタやキヤノンなどはそのような企業であるといえます。

 4つ目が洗練因子です。上流階級的で魅惑的、器量がよくて魅力があって、女らしくて、素敵なもの。レブロン、また特にアメリカにおいてはレクサスがこの点において突出しています。

 5つ目は非常にアメリカ的な次元ですが、たくましさ因子です。アウトドア志向で、男性的で、ウエスタンで、それからタフさ、飾り気のなさです。例としてはナイキ、リーバイス、 マルボロなどが挙げられます。

 ブランド・パーソナリティがなぜ重要かというと、売り上げを伸ばすのに大きな役割を果たすからです。そしてグローバルに強いブランドを作るのにも役立ちます。ある調査で、カテ ゴリーを網羅した形での売り上げと5つの次元の関係について調べたものがありました。その中で3つ、面白い発見がありました。まず、売り上げのバラツキのうちの75%は、この5つの次元 のいずれかによって説明できるということです。そしてもう1つ、カテゴリーを問わず、誠実さというのが突出した重要性を占めていたのです。売り上げと誠実因子には強い相関関係が見ら れました。まず誠実だと受け止められると、そこから信頼が生まれ、その信頼により販売が伸びるという構図になっています。そして3つ目に、カテゴリーごとにそれぞれの次元の持つ影響 度が異なっていたということがあげられます。

マーケティングのカスタムメード

 皆さん、日本の消費者がどのようにしてブランドのパーソナリティー、人物像をとらえ、それらがどのように売り上げに影響を与えているか考えてみてください。私たちは地域的に偏 りのないように1,000人以上の日本の消費者にアンケートを取り、日本およびグローバルなブランドのパーソナリティーを表す言葉を調べました。その結果、日本においてもブランド・パーソナ リティーをくくる5つの重要な次元があることがわかりました。それらは誠実因子、刺激因子、能力因子、洗練因子、平和因子です。(図2参照)

Build strong brands globally~Case of Japan グローバルで強いブランドを構築~日本のケース

 しかし日本の誠実因子はアメリカの誠実因子とは若干の違いがありました。日本の場合は温かくて、気がきいていて、優しくて、正直で、家庭的で、清潔なものという意味合いになっ ていたのです。

 また刺激因子に関しても、アメリカと日本では若干違っていました。日本の場合は話好き、ユーモアがある、楽観的、積極的、現代的、自由、人懐っこい、ほがらかといった意味合い があります。日本で刺激因子の高いブランドは、iPodやFOMA、ナイキ、コカ・ コーラ、プレイステーションなどでした。

 能力因子については、日米それほど大きな違いは出てきませんでした。一貫性、責任感があって、しっかりしていて堂々としていて意志が強くて自信に満ちていて、忍耐力があって粘り 強くて男性的なものが能力の高いブランドと見られているようです。トヨタのセルシオ、六本木ヒルズ、ベンツなどがこの能力因子で高いスコアを出しています。

 洗練因子についても日米でそれほど大きな違いは見られません。素敵で上品でロマンチックでファッショナブルで洗練されていてぜいたくなものという意味合いです。エルメス、ロレッ クス、リッツ・カールトンなどがここでは洗練されたものとしてあげられました。

 そして5つ目の次元である平和因子。具体的には、内気でおっとりしていて、平和で、ナイーブで、さびしがりやで、子どもっぽいものとされています。森永のココア、アフタヌーンテ ィー、無印良品、ネピア、バスクリン、カルピスなどがここであがってきたブランド名です。この日本固有の平和さというのは非常に重要な次元であろうかと思います。

 日本の調査とまったく同じプロセスでスペインでも調査を行いました。結果として日米と同様に5つの重要な因子があがりましたが、ここでも1つスペイン特有のものがありました。情熱 因子です。以上から考えると、グローバル企業は、よりグローバルで普遍的なブランドとしてポジショニングするよりも、それぞれのブランドが展開する文化圏にかなったやり方でその意味 合いを理解し、その理解を土台としてマーケティング戦略をカスタム化していく必要があるのではないでしょうか。

パーソナリティーと関係の管理

 関係の定義ですけれども、まず関連または相互関連している状態にあって、パートナーとの将来的な相互作用が期待されるときに生まれるとされています。このような定義づけから見ま すと、ほとんどすべての消費財がなんらかの形で消費者との関係を築くことになります。

 関係を研究することで、属性やパーソナリティー、態度を評価するよりも深くて奥行きのある洞察を得ることができます。それではその関係をどのように管理していけばよいのでしょう か。大抵のブランド・マネジャーは、その関係の強度と密度にばかり注力してしまう傾向があります。

 オールドネイビーは路線的にはギャップに非常に似ていますが、値段がギャップよりも安く設定してあるブランドです。オールドネイビーで買った商品が必ずしも上質であるとは限りま せん。シャツがほつれてしまったりしても消費者は気にしません。質を求めて買ったのではなくて買うのが楽しいから、ファッションのトレンドだから買っただけだからです。つまりオール ドネイビーは、よい品質を保証しない戦略をとることによって、そのブランドを成功へと導いているのです。それとは対照的に完ぺき主義を標榜したのがマーサ・スチュアートです。という ことは、商品にしろ彼女自身にしろ、なんらかの不完全性が発見されてしまったとき、その影響は必要以上に大きなものになります。

 皆さんが見極めなければいけない重要な問題は、顧客と自社のブランド間にどのような関係をこれまでに築いてきたのか、どのような約束事が交わされているのか、顧客との関係において やっていいこと悪いことは、いったい何なのかということです。

 セーフウェイとトレーダージョーズは、どちらもアメリカで成功を収めている食品関係のスーパーマーケットです。セーフウェイというのはいわゆる主流派のグランド・スーパーマーケ ットです。一方トレーダージョーズは、ちょっと変わった商品を置いていて、質が高く安いけれど風変わりなスーパーマーケットということになっています。これら2つのブランドは、ブラン ド・パーソナリティーも違えば消費者に対して暗黙のうちに掲げている約束事も違います。したがって同じ事象が起きたとしても消費者はまったく違った反応を示します。例えば品ぞろえに問 題があった場合、セーフウェイの顧客は「もう二度と来ない」という態度になるのに対して、トレーダージョーズでは「大丈夫、他のところに行くから気にしないで」という態度をとってくれ ます。商品のラッピングに一貫性がなかったら、セーフウェイのお客さんは「混乱していてだらしない」ととらえるのに対して、トレーダージョーズでは「このお店はちょっと変わってるから ね」で済ませてしまいます。最も興味深いのが在庫切れの場合です。セーフウェイの顧客は「セーフウェイのせいだ」と考えるのに対して、トレーダージョーズの顧客は「私の過ちだ、もっと 早く来るべきだった」と考えてくれるのです。

失敗も不得意分野もブランドの強さに

 失敗してもかまわないということについてお話をします。どのような関係であれ、現実的に考えてみれば、関係が密接になればおのずと見苦しいところを見られることになってしまいます。 ルール違反をしてしまう可能性も高まってきます。しかし消費者行動モデルの大半は、双方がルール違反を行わないことを想定したものです。実際どちらかが違反を犯してしまったときには、 大きな意味合いを持ってきます。

 過ちを犯すことが必ずしも悪いことばかりではないのは、そのことで消費者を立ち止まらせ、考えさせるきっかけとなるからです。私たちが行った実験調査によると、刺激因子の高いパー ソナリティーを持ったブランドが修復可能な過ちを犯したとき、対応さえ間違わなければブランドに対する関心を再び高めることができました。しかし、同じ過ちでも信頼因子の高いブランド が犯した場合には、同じように許してもらうことはできませんでした。このように、当初交わした暗黙の約束の内容によっては、過ちが起きても対応をきちんとすることによって関係が強化さ れるということもあり得るのです。

 自分の不得意分野はなんなのかということを考えてみましょう。私の指導したMBAの学生たちを見てみますと、企業に入って1年目でだいたい成功する人たちがわかってきます。その企業 に入社して最初の1年で、自分の同僚や上司に対して自分ができないことはなにか、うまく説明できる人に限ってどんどん出世していくのです。そのような戦略をとることにより、彼らは出世の 階段をより早く昇っていくことができます。またできないことをはっきりと示してしまうことによって、自分がより得意で、またやるのが楽しいと考えられる仕事に打ち込むことができる。その ような自分の不得意分野を切り離してしまうことにより、業務が増えすぎてしまうこともありません。決して忘れていただきたくないのは、戦略的に選択した不得意分野というのは全体的な無能 とはまったく違ったものであるということです。

ブランドを再考する

 最後にもう一度復習をしてみましょう。まず皆さんのブランドが約束していることは何なのか。それを考えて答えを探っていく中で、ブランド属性、つまりそのブランドの持つ機能的な側面 とパーソナリティー特性、つまりそのブランドの「人柄」、この両方をぜひ抽出していただきたいと思います。そして消費者に対し提示している約束事を考えていく中で、常にその約束を果たせ ているかどうかをじっくり考えていただきたいと思います。またブランドというのは決して静的なものではなく動的なものです。常に変化していてそれが期待値のベースを形成し、順次物事の見 方を左右してくる、これをぜひご理解いただきたいと思います。

 また時として過ちを犯してしまうことは必ずしもマイナスに働くとは限らないということ。ここで避けるべきことは、マーサ・スチュアートのように完ぺきを約束してしまうことです。また がっかりさせるような事件が起こってしまったとしても、対処の方法次第ではプラスにもなるのです。例えばディズニーランドで小さな問題が起きるたびにいろいろな新聞に記事を、ディズニー ランドがみずから出すことがありますね。非常に誠実に、また顧客の期待を裏切らない形での対応がとられている。皆さんもお気づきのことかと思います。そしてどのブランドにしても不得意な 分野がある。これは致し方のないことです。問題なのは、得意でなければいけないはずのところで期待を裏切ることなのです。

スタンフォード大学経営大学院
ゼネラル・アトランティック教授
ジェニファー・アーカー氏
Jennifer Aaker/カリフォルニア大学バークレー校心理学部卒業。スタンフォード大学経営大学院Ph.D.(経営学博士、心理学副専攻)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン経営大学 院助教授。スタンフォード大学経営大学院助教授、準教授、教授を経て、2005年より現職。専門は消費者行動論、マーケティング、ブランド論。特に、消費者とブランドの関係性の心理学、消費 者行動の文化的要因、感情と目標の影響などに関する研究に造詣が深い。主な論文に、Dimensions of Brand Personality、JMR(JMR最優秀論文賞)、Can Mixed Emotions Peacefully Co-Exist? 、JCR(JCR最優秀論文賞)、Consumption Symbols as Carriers of Culture、JPSP(MSIサポート・再掲載論文)、When Good Brands Do Bad、JCR(Expansion 2004トップマーケティング論文)な どがある。

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