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日経ブランディング ~日経広告手帖別冊 2005年Winter掲載記事~

欧州視察報告
欧州企業に見るCSRを活用した組織変革と人材育成

日本においてCSRは、ややもすると流行のキーワードとして捉えられる傾向がある。欧州企業はEU統合により広い意味での「社会」からの合意を得る必要に迫られた結果、CSRを活用した体質強化をはかっている。2005年9月、日経CSRプロジェクトがオランダとデンマークを訪れ、現地企業との意見交換をおこなった。

1 欧州の背景

 競争のパラダイムが変わった。ビジネスは、ビジネスだけの領域でよいという時代は、すでに終わりを告げている。これまでは、企業は決算発表で財務的に持続可能だということを示せばよかった。しかし、現代では、環境や社会に対する責任について、企業は世界的な観点からステークホルダーに説明しなければならない。企業は利益だけを追求すればよいという考え方から、経済全体を見つめ企業が社会に与える影響に配慮するのが当然視されるようになった。
 CSRというと、教条主義的で現場の声を反映していないと考えられがちだ。特に、日本では明治期から続く「洋物」崇拝志向の中で、CSRもやはり「流行のビジネス・ワード」になっており、CSRが経営に根付いているとは言いがたい。しかし、CSRは「奇麗事」ではなく、企業の存亡さえ左右するリスク・マネジメントと、事業機会を追求するビジネス・ケースなのだ。要するに、CSRとは適切な方法でビジネスを実践し、長期的な企業価値を創造することにほかならない。
 欧州企業がCSRを経営の最重要課題と考えているのは、企業の継続性や存続性を考慮し、「コンセンサス」や「合意」を重視しているからだ。そうした姿勢にもっとも大きな影響を与えたのがEU統合だ。EUの中には、先進国と開発途上国が同居している。限りある資源の有効活用と環境負荷の低減による次世代への責任を主張する先進国と、これまで経済成長の機会がなく物質的な豊かさを追求する権利を主張する開発途上国が一つの経済圏に治まっているのである。
 そうした複雑な経済社会の中では、広い意味での「社会」からの合意を得なければ事業活動に支障をきたす可能性が高い。そして、この合意形成こそ「人」が担うゆえ、従業員をステークホルダーの最上位概念と考える欧州企業が多いのだ。
 本稿では、CSRを活用して企業体質を強化している欧州企業の特徴を従業員施策の観点から紹介し、日本企業への示唆を述べる。事例は、日経CSRプロジェクトの欧州企業訪問(05年9月、オランダ・デンマーク)における意見交換からまとめた。

2 価値観の共有

 日本企業同様欧州でも、従業員は働きやすい職場で長期間働きたいという要望がある。一般的に、価値観が共有できれば、人は一生懸命に働く。また、社会的なリーダーになるというビジョンをトップが持つことにより、従業員は誇りを持ち動機付けされる。そうした意味では、従業員との価値観共有は経営の最重要課題となっている。欧州では、「働きやすい職場」や「社会的意義のある仕事」を求める人々が多く、CSRが従業員の働き方に大きく影響する。また、就職を志望する大学生がCSRに強い関心を示しているため(図1)、CSRを推進しているか否かで優秀な人材の獲得に大きな差が生じる。以下、CSRに関連した従業員施策について各社の取り組みを紹介する。

 ラボバンクは、ブランドにCSRを組み込んでいる。なぜならば、従業員が顧客と接する際、誠実でいなければならないからだ。銀行の基盤は信頼だ。それゆえ、われわれ自身が信頼できる人間でなければならない。
 ABNアムロ銀行のミッションは、持続的な価値を顧客、従業員、株主に提供することだ。ミッションを誠実かつ開かれた形で実践することを重視。さらに、ミッションをステークホルダーに理解してもらうことに注力している。具体的には、ブランド、透明性、従業員参画、社会へのアンテナという観点から、無形資産の向上に注力している。
 ロイヤル・ダッチ・シェルには、145カ国以上で、11万2000人以上の従業員がいる。ほとんどは英国人でも、オランダ人でもない。多くの従業員は、極東、中東、北米、中南米の人々だ。そのため、CSRの中で、従業員に対する責任を重視している。その際には、英国やオランダだけでなく、世界中の従業員に対する責任を示す。CSR実践に際し、企業の「遺伝子」と「心」を重視している。シェルの場合、それは「誠実さ」「正直」「人々への尊敬」だ。そして、世界中で理解されるために、企業の遺伝子を明文化することが不可欠だ。
 TNTは、オランダ・ポストからTNTというブランドに統合した。商業的にひとつのブランドにしたほうが便利だということだけでなく、社内的に重要なのだ。自分たちが誰であるのかを認識すれば、「われわれは誠実さを売っている」ということが社内に浸透する。一般の人が手紙を出すということは、信頼をTNTに任せている行為にほかならない。郵便サービス自体が、社会におけるリーダーシップにつながるのだ。また、フィランソロピーとサステナビリティー活動を推進しているが、コンプライアンスを超えて社会に働きかければ「評判」という形でかえってくる。「評判」は商業的な価値だ。「従業員」にとっては誇りになる。そして、すべての事業活動を「評判」と「誇り」に関して測定している。
 ハイネケンは70カ国で創業しているので、すべての地域で同じ水準の活動をすると同時に地域社会ごとにCSRを定義している。消費者市場では、評判が大事だ。企業ブランドと製品ブランドが同じであるために、企業ブランドが製品ブランドにダメージを与える危険と常に接している。CSRにかかわる事故や事件があると、即座にハイネケンブランドに傷がつく。そこで、各地の地域会社ごとにステークホルダーの意見収集、法令違反の内部調査を実施し、CSRの中での優先権を決めている。
 APモラーは、創業以来、コンスタント・ケアという理念を一貫して実践してきた。明文化こそされていないが、企業風土として根付いているMISEという2年間のプログラムによるところが大きい。狙いは、異文化理解、国際性、世界的ネットワーク構築を兼ね備えた人材の育成だ。50年前に開始。トレーニングを受けた人材は、会社のリーダー候補として期待される。過去25年間のトップクラスのリーダー職は、MISEプログラムを体験している。

3 人材育成としてのCSR

 コアビジネスの中での付加価値やビジネスの開拓につながらなければ従業員の理解を得ることはできないし、継続性も担保できない。CSRの概念を日々の事業活動に結び付ければ、従業員の働き方に大きく影響する。働き方が変われば、従業員が一般市民としてより良い社会を作る役割を果たす。例えば、顧客と直接話し合うことによるナレッジの蓄積だ。つまり、一般的にCSRで議論していることについての顧客の考え方を聞くことが、従業員のCSRへの理解を深める。また、従業員をNGOに派遣するなどして社外の声を積極的に事業活動に反映させようとしている。そうした従業員が社会の声を企業内にもたらす「目利き」役を果たす。なぜならば、自社が発端となりそうな問題は、企業内だけの情報で顕在化させるのには限界があるからだ(図2)。

 ABNアムロ銀行は、CSRの側面を取り込むことによって、よりよいマネジメントの方策を立てている。CSRの課題は、世界を通じた環境問題や貧困など幅広い概念だが、社内で議論する際には「新しい機会」に焦点をあてている。各部門には持続可能性に関する担当者を置いており、担当者だけで100人以上にのぼる。すべての部長クラスをCSR理解のトレーニングに参加させた結果、SRIへの投資が2倍に増加する効果があった。すべての部門が持続可能性に関わる発展性を理解したといえる。また、自行の取り組みが外部の様々な機関に認められたことも大きい。DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティー・インデックス)などからの評価は、従業員に対して持続性への課題を推進していくために大変重要だ。
 ラボバンクでは、企業と実際に関係を持っているすべてのマネジャーは、顧客のCSR活動が十分かを検討している。そして、不十分であれば、顧客と直接話し合うことにしている。また、新規の融資先を決定する際には、貸付リスクについてCSRの観点から行内で話し合う。CEOを委員長とした倫理委員会を設置し、すべての融資決定は倫理委員会にかけられる。さらに、CSRの専門マネジャー育成に注力。CSRマネジャーの業務は、世界中で起こっている課題を収集・分析し、その対策を練ることだ。そして、金融商品の設計にその対策を盛り込んでいる。
 ダンフォスは、人権問題を扱っている団体に社員を派遣し、課題について学ばせている。そして、その従業員を各地の職場や取引先企業に派遣し、問題があれば解決方法を考えさせる。また、社内でアンケート調査を実施し、CSRに関して、すべてのリーダー職と調達部門の責任者に対して研修を行う。外国でビジネスをする際に想定される摩擦や障害についても理解してもらうようにしている。実際には、地域によって文化が異なるので、そうした場面に出くわしてから慌てていては適切な対処ができない。事前準備が大切なのは、トラブルに直面したときに素早く解決できるようになるからだ。
 建設会社のフォンカーベッセルでは、中堅社員がアルバニアの学校を再建する。このプログラムでは、発起人の若いマネジャーが他の従業員を集める。また、資金援助、専門家の参画、政府の支援、を獲得するためネットワークを駆使してプロジェクトを推進しなければならない。企業も支援はするが、若いマネジャーは自分のプライベートの時間を使って取り組む。さらに、彼らは取締役を説得して会社から資金を提供させる。もともとは、若いマネジャーがそうしたプロジェクトに取り組みたいとの思いがあり、それをCSR担当者が汲み取って経営陣に訴求したのだ。そして、従業員のひとりがアルバニアの学校の現状を認識し、経営陣を説得した。若手社員が独力でプロジェクトを遂行しなければならず、社会貢献だけでなく、マネジメントスキルの獲得に大変役立つ。

4 日本企業への示唆

 長期雇用が主体の欧州企業は、日本企業に多くの示唆を与えてくれる。EU成立によって、規模に関係なく多国籍化を余儀なくされたため、望むと望まざるとにかかわらず従業員の多様性が進展した。多様な文化的背景を持つ従業員であっても、その個性は認めつつ企業文化や風土を体現してもらわなければならない。そのために、欧州企業は従業員教育に注力している。企業理念を踏まえつつ異文化同士でビジネスを実践していくための従業員教育が日本企業にも求められる。その理由は下記の3点である。
 経済のグローバル化がもたらす従業員の多国籍化によって、以心伝心ではなく言葉で正確に伝える必要に迫られる。
 長期雇用が崩壊しつつあり、短期的視点に基づいた成果主義によって、ゆがんだ個人主義が助長されている。
 終身雇用を前提にした人事制度は、従業員のキャリア形成を軽視しがちだったため、専門性の高いミドル層が不足している。
 NGOからの圧力によってCSRが進んだ欧州企業と異なり、日本企業は創業時の理念やトップの人間性という属人的なものに頼ったCSRが推進されているケースが多い。それゆえ、マネジメント・システムとしてCSRが導入されているものではなく、日本文化に内在している長期的思考に基づいて実践されているといえる。今後、日本企業にはさらなるグローバル化と日本人の意識変化が待ち受けている。CSRの対象地域は日本国内だけではなく、世界中のすべての地域だ。外国で理解されているCSRと日本人が理解しているCSRがあるはずだ。どちらが良いということではなく、重要なのはお互いの理解を深めることだ。知識の共有によって、企業にとっての示唆が生まれる。その中から、ビジネスの機会が生まれる。その機会に対してプロフェッショナルのレベルで解決し、さらなる理解を深めていくプロセスが必要だ。なぜなら、本業こそが企業の存在意義であり、プロフェッショナルなレベルでの問題解決こそ社会からの期待だからだ。

視察訪問先概要

オランダ

■MVO Nederland
CSRを推進する企業の連合体。「CSRヨーロッパ」の国内版と言える機関。
■ラボバンク
農協銀行から発展したオランダ最大手、世界でも有数の銀行の一つ。34カ国に169の拠点を展開、顧客総数は900万人に達する。SRIファンドなどの提供のほか、途上国でのマイクロクレジット支援などにも力を入れる。
■ロイヤル・ヴァルマ
カメルーンを主体に木材伐採・輸入・加工を行っている。同社ではオランダの木材業界とともに、FSCなど認証の普及や現地でのステークホルダー関与など供給木材の質向上に力を入れている。
■ロイヤル・ダッチ・シェル
CSRに関して、最初にトリプルボトムラインやステークホルダー参画などの概念を実践に移した企業。世界145カ国以上で事業を展開。地域別売上構成は欧州36%、米国35%など。部門別では探査・生産7%、天然ガス・発電9%、石油製品76%、化学製品8%など。
■ABNアムロ銀行
オランダに本拠を置く金融グループで、66カ国に3,000以上の拠点を展開する。リテール部門は国内及び米国中西部とブラジルを中心に顧客1,500万人を抱え、ホールセール部門は45カ国で企業1万社を顧客に持つ。
■TNT
民営化されたオランダの旧郵政会社で、世界62カ国に拠点を展開。郵便のほか宅急便、ロジスティクスサービスを提供する。旧社名は TNT Post Group NV 。政府が株式の34.8%を保有。郵便では仏独英に続き欧州シェア6.6%を占める。宅急便は欧州30カ国、ロジスティクスは世界36カ国をカバー。
■ハイネケン
Heineken ブランドで知られる欧州最大、世界最大級のビール会社。2002年12月期の生産量は前年比3.8%増の108.9億リットル。世界60カ国以上に110を越える生産拠点を持ち、170カ国以上で販売する。主力ブランドはHeinekenと欧州2位の Amstel。
■国際カカオイニシアティブ
西アフリカでの奴隷・強制労働によるとされるカカオ豆の供給体制改善のため、NGOとネスレ、カドベリー・シュウェップス、ハーシースなどのチョコレート会社が結成した団体。ILO協定に準じた行動規範の普及と、現地での労働体制改善のプログラムをガーナ、コートジボワールなどで企業・NGOとの共同で進めている。
■アムネスティ・インターナショナル
世界人権宣言が守られる社会の実現をめざし、世界中の人権侵害をなくすため、国境を越えて声を上げ続けている国際的な市民運動。

デンマーク

■弁護士事務所DK
弁護士CSRネットワークを発足し、顧客のCSR(人権関連)を改善していくように運動している弁護士事務所。国連関連会議でも定期的にスピーカーになっており、欧州弁護士協会としてCSRを推進すべきと各地で活動。
■レゴ
日本でも有名な1932年に創立されたオーナー企業。売り上げと伝統・基本方針の維持との両立を掲げている。価値観を曲げて、話題の映画や最新ニュースの関連玩具をつくりたいという誘惑を打破して自社の存在意義を貫いている。
■APモラー
A.P.モラー・マースクグループは世界最大規模のコンテナ海運業社であるマースクシーランドを操業。同グループはまた、タンカー部門(原油船、石油製品船、LPG船並びにLNG船)にも精力的な運航を行っている。
■ダンフォス
同族企業で、総株式の1%を社員が保有。年間の売り上げは、163億デンマーククローネ(約3,300億円)。小国デンマークでは、全世界で18,000人の従業員がいる大企業である。ベルトコンベアーの部品が主体だが、最も有名な製品は暖房機の温度を調節するサーモスタット。

日本経済新聞社東京本社広告局
業務推進部 田邉 雄

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