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東京コピーライターズクラブ リレーエッセイ 連載(2)/岩田 純平 コーヒー&コピー

あきらめなければ、夢はかならず役に立つ。

岩田 純平

うちには30歳になる嫁がいます。

朝が弱い嫁は、目覚ましが鳴ってもすぐには起きられず、目を閉じたまま辺りをうかがい、「ぬ?ぬ?」などと言いながら手探りで居間まで歩いてやってくるのですが、僕の朝はそんな嫁の見た夢の話を聞くことから始まります。嫁は夢の記憶力がいいので、その日見た夢を3本くらい教えてくれます。

その話は何かに追われていたり、そのころ見たドラマの影響を如実に受けていたり、覚えたての「枕営業」という言葉を元につくられたストーリーだったり、沢尻エリカさんにいじめられていたり、こうなったら嫌だなーと思ったことがその通り起こるタイプのものが多いのですが、妙に生々しくて面白いので、夢日記をつけておいてもらっていました。「いつかどこかで役に立つから」とそそのかしていた手前、今回はその「いつかどこか」ということで、日記の中から数少ない僕の登場する何編かをご紹介したいと思います。

某月某日 私は電車の中で音を出しておならをする癖があった。今日もいつも通り電車に乗っていたのだが、ブーブーやってしまった。そのたびにガリさん(注:僕のこと)は大きい声で話しかけてくれたり、変な音を出してくれたりしておならの音をかき消してくれた。しかし、3回目のおならは、やたら大きな音だったため、さすがのガリさんも隠しきれず「これ以上かばいきれないよ~」と言っていた。私の近くには乗客がいなくなり、子供たちは口々に「何か臭いね」などと言っていて、私はとても恥ずかしくなった。

某月某日 ガリさんが『23才の目、90才の食卓』という広告で賞をとった。

某月某日 ガリさんが牛乳を温めようとして、マグカップを直接火にかけた。強火だったためマグカップは炎に包まれた。

某月某日 私は電車に乗っていた。そこには不良グループが六人もたむろしていた。(中略)不良グループは車内で熱湯を沸かしてそこに布を入れ、それをトングでつかみ乗客に向かってピシャーと頭や顔にかけている。私は不良グループをにらみつけた。それ以降、狙いは私1人にしぼられた。(中略)周囲の客は見て見ぬふりだった。すると隣の車両からガリさんが来るのが見えた。しかしガリさんも車内の状況に気づかないふりをして、次の車両へと歩いて行ってしまった。私は泣きながら恐怖に耐えるしかなかった。

某月某日 私は余命数週間だと医師に宣告され、私の希望で自宅でその日まで過ごすことにした。(中略)あと2時間もたないと言われてからは、ほんとに体力が失われていくのが分かった。(中略)空気も少ししか吸えず、体がしぼんでいくような、でも思っていたほどの苦痛でもなく、だからなのか意外と冷静だった。でも、私以上にガリさんが冷静だった。会社から緊急の電話が来て、今すぐ来てほしいと言われたようで、特に迷うでもなく行こうとしていた。さすがに泣けてきた。

と、まあこんな感じで僕はたいがい、リアルに残念な男として登場するのですが、毎日夢を見て記憶して記録するという作業を1年9カ月もやり続けている嫁も、リアルに不思議です。

嫁に限らず身近に不思議な人物がいると、時々仕事に役立つことがあります。誰かの言動がヒントとなり、生まれるコピーも数多くあります。だから、日々の何気ないやりとりの1コマを、僕は大切にしています。嫁の夢日記ではないですが、僕も気づいたことは忘れないようにメモしています。「いつかどこかで役に立つから」です。

嫁は最近、枕の下に直筆の七福神の絵を入れて寝ています。そうするといい夢が見られるらしいのです。嫁は寝相が悪く、ほとんど枕の上に頭をのせて寝ていないため、今のところ劇的な効果は現れていませんが、いい夢の日は嫁の機嫌もよくなるので、いい夢を積極的にどんどん見てもらいたいと思います。

PROFILE/岩田 純平
1974年神奈川県生まれ
電通勤務
〈主な仕事〉東芝「白熱電球製造中止」「星の王子さま」、JT「ルーツ飲んでゴー!」、サントリー「角 わたしは氷、あなたはウイスキー。」、養命酒、JA共済、ナビタイムなど。サラリーマンの悲哀コピーが一冊になった『ルーツ飲んでゴー!』が扶桑社から発売中。

TCCとは?

東京コピーライターズクラブ(TCC)は言葉のプロの会員組織。
「TCC賞」の選出・表彰、『コピー年鑑』の発行などを通じ、広告界を元気にします。

[ 9月4日掲載 ]

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