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広告手帖

青山マーケティング・シンポジウム2010
「―IMC― Past, Present and Future―」
青山学院大学マーケティング学科主任教授 小林保彦
有識者
コーナー

解題「IMC―その誕生、普及から次世代へ Past,Present,Future」

2009年4月、青山学院大学に誕生した経営学部マーケティング学科は、日本におけるIMC教育の中心的な役割を担っています。2010年7月10日(土)には「ヒューマン・マーケティング」をテーマに、IMCの世界的な権威であるドン・E・シュルツ氏をゲストとして迎え、第3回青山マーケティング・シンポジウムが開催されました。本稿ではその内容を収録いたします。

マーケティング革命を起こしたIMC

青山学院大学マーケティング学科主任教授 小林保彦


青山学院大学 マーケティング学科
主任教授 小林保彦

アメリカで生まれたマーケティングは、第二次世界大戦後にアメリカの国力とともに世界中に広まりました。大量生産・大量消費の波に乗って1950年代、60年代にハイスピードで広がり続けたものの、80年代に入りますと、そのパワーにかげりが見えてきます。「広告が効かなくなったのではないか」「消費者が変わってきた」などと言われ始めました。そこにマーケティングの革命が起こるわけです。それが今日ゲストにお招きしていますノースウェスタン大学のドン・E・シュルツ博士が提唱したIMC(Integrated Marketing Communication)という考え方です。実は、IMCが日本に紹介され、さらに研究していこうということで、1996年に日本広告学会をこの青山学院大学経営学部主催で行った時のIMC研究をテーマにしました。それから日本のIMC研究がどんどん軌道に乗りました。

さて、マーケティングという言葉の「マーケット」ということについて、私はこだわっています。日本では、マーケットを漢字で書いて市場(しじょう)と読むと大学時代に教えられました。私が最初に大学でマーケティングリサーチの実際を経験した時に、市場調査は「しじょうちょうさ」と読むのだと教えられました。「いちば・ちょうさと言ったら間違いですか」と尋ねたら否定されました。これがアメリカの場合には、隣にいる人との間の距離が非常に遠いので、市場(しじょう)というものは、マスメディアあるいは車を通して人と人とを結び付けていく巨大なマーケットであります。それに対して、日本とかヨーロッパのほうでは、むしろ、魚市場(さかな・いちば、うお・いちば)のように人と人との肉声でやりとりをしながら直接取引を行っていくという時代が、非常に長くあったわけであります。この市場(しじょう)というものをどういうふうに見ていくのかというところはとても興味深いことではないかなと思います。

本来マーケティングは消費者第一といわれていますが、だんだんと企業側に寄ってしまい、広告、イベント、セールスマンなどから消費者に語るメッセージがばらばらになってしまっていたのです。そこで「視点を変えてみよう。消費者の方から見てみよう。企業はひとつの声で消費者に語らなければならない。マーケティングを統合しよう」と提案したのが、第1次IMC改革です。そのあと、マーケティング活動を統合するだけでなく、企業のあらゆる部門を統合してひとつの顔にしていこうという活動が起こります。これが第2次IMC改革です。こうしたIMCの活動によって、90年代からまたマーケティングは元気になっていきます。

新しいIMCのテーマとは

現在、第1次IMC改革、第2次IMC改革から20年が経ち、マーケティングは20世紀の終わり頃に訪れた劇的な変化、インターネットの普及と、自然環境・エネルギー問題をふまえながら、次なるIMCを考えていかなければならない時期だと思います。

そのテーマとして、ひとつには人間主義、つまりヒューマン・マーケティングを挙げることができます。メディアがいろいろ普及して、人間とメディアの関係に大きな変化が生じました。2008年のリーマン・ショック以来の世界経済不況によって、社会も大きく変化しました。そうなると、これまでのマーケティングでは対応は難しくなります。やはり人間が見えにくくなっているのでしょう。これまではなによりもスピードが優先され、より速く迅速な生活や手段がいいといわれていましたが、もう少しゆっくりとした生活もいいじゃないか、そこを見直していこう、という考え方をする人も増えています。ヒューマン・マーケティングとは、この「人間の存在」を強調していくものです。

もうひとつのテーマが、社会全体を意識したマーケティングです。インターネットの普及でメディアというものが、送り手である企業だけが使える時代から、消費者や受け手も使っていくことができる時代になってきました。いろいろなタイプの人たちが意見を主張することができるようになったわけです。しかしどんどん小さなメディアが生まれ、たくさんの小さなグループが他と交わりもせずに存在していくと、社会がバラバラになってしまう危険性もあります。社会の中でもう一度「統合」ということを意識し、その意味を考えていくことが必要になってくるのではないでしょうか。

「ヒューマン・マーケティング」と「社会全体を意識したマーケティング」。このふたつのテーマによって、IMCは第3段階へと進んで行くと私は考えます。これからわれわれの活動は、単純にマーケティング産業といわれるような広告会社やマーケティング会社の仕事にとどまることなく、社会全体の中でいろいろな活動に広がっていくことが予想されます。町おこしとかスポーツとか観光とか、ありとあらゆる仕事やイベントの中にマーケティング的なものの考え方、つまり人と人との関係をつないでいくという重要な仕事が出てくるのではないでしょうか。

青山マーケティング・シンポジウム 講演「マーケティングに期待される役割の近未来像」

[ 9月6日掲載 ]

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