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第6回:『中国での日系ブランドの成功と失敗(2)』/グラムコ(株)代表取締役社長 山田敦郎 >
第6回:『中国での日系ブランドの成功と失敗(2)』

伸び悩む日系企業の敗因は、マーケティグとブランディング軽視

ある伸び悩む日系ブランド「X」は、B2Cで製品を提供する老舗で、日本人なら知らない人はいないが、中国人で知る人は少ない。2009年度のこのブランドの中国での売上は、同社が競合と目する米国ブランドの1割に留まったうえ、眼中にもなかった中国ブランドが急伸し、同社の売上の8倍にも達した。何が問題だったのだろうか。

同社が中国で販売を開始したのは90年代後半になってからで、2005年ごろに独資の販社を設立している。急拡大路線をひた走り、直営も含めた販売網は一気に巨大化した。拙速な拡大は販売力に依拠した展開となり、そのうち在庫の山を築くことになる。すると今度は、これらの在庫を安売りのセールスで処分しはじめた。こうした格安セールは頻繁に行われ、もとより高級感に欠ける店舗展開であったこともあって、ブランド「X」の知覚品質は一気に低下した。

そもそも、もっとも購買力のある中国人中間層、上流中間層のニーズを読み切れていなかったことも問題だ。専門知識の高い人に受けるコンセプトで売り込んだが、消費者は専門的なものは求めておらず、振り向かせることができなかった。ターゲット心理を把握できず、販売力中心に強化し、中国人に合ったブランドを構築できなかったことがこの日系ブランドの敗因である。今後大胆なブランドリポジショニングが必要となるだろう。

同社に限らず、現在中国でプレーヤーとなっている日本企業の多くは、1980年代から生産拠点として中国に進出し、90年代後半から中国を市場として見るようになった。そうした企業は、往々にして昔から中国(市場)が分っていると思い込んでいる。しかし実は全く理解していない。日本と「同じ」やり方で行ける、とタカを括っていたのだ。

味覚糖がチョコレート?市場に合った展開の成功例

UHA味覚糖といえば、皆さんはキャンデーを思い起こすだろう。ところが上海の人たちはチョコレートを想起する。中国で「UHA悠哈」と名乗る同社は、日本では取り組んでいないチョコレート市場で躍進している。1998年の上海事務所設立以来、じっくり市場を研究し、それまでギフト用だったチョコレートが日常菓子へと変化することを読み取って、上質でハイエンドな商品で参入した。一級都市ではなく準二級都市の寧波でトライアルを実施したことも、消費者の好みを知るうえで有効だったと思われる。日本のビジネスモデルや商品にこだわらず、中国の市場環境に適合した事業を推し進めたことが評価できる。

以前も紹介したが、ソニー・エリクソン以外、全部の日系ブランドが撤退した後に、携帯電話市場に参入したシャープも、高価格帯(3000RMB~5000RMB、日本円で4~7万円相当)機種に絞りこんで成功している。スタイリッシュなデザインと、液晶TVで有名になったAQUOSをウリにしたのが奏功した。
顧客接点を、ドラッグストアの雄であるワトソンズ(香港系。2005年ごろから中国市場に展開)に絞り込み、輸入品としての品質感をリーズナブルな価格で訴求した「肌研」(HadaLabo)も成功例といえるだろう。ワトソンズ店内に、先端的な専用什器を設置して、店頭演出にも工夫が見られる。同じ化粧品でも、日本より高いポジショニングで2007年に参入したFANCLも、好調を維持している。
いずれの例も、中国人の心を捉えることに成功している。そのためにはしっかりとしたマーケットリサーチとアナリシス、さらに中国人の好みに合うポジショニングを明確にした。そして何よりも、中国におけるブランド育成に注力していることが勝因に挙げられる。

インドでも同じ過ちをおかしつつある日系企業

当社のインドにおける提携先(在ニューデリー)のCEOに聞いてみたところ、やはり中国と同様のことが起こっていた。まず、国籍に関係なく、インド市場で成功している企業を挙げてもらったところ、サムスン、LG、スズキ、ヒュンダイ、タタ(例の格安車で名を馳せるインド企業)、ホンダ(中型車とスクーター)、HDFC、ICICI(これらの2社はインドのプライベートバンク)などが挙げられた。やはり、韓国勢はここでも頑張っている。

インドでブランディングに成功している日系企業はどこか、という問いに対しては、すかさず「スズキ」と返ってきた。1980年代半ばから、インドではマルチスズキという車種で価格的に購入しやすいラインから参入している。ほかに現状良く知られている日系ブランドといえば、ホンダ、トヨタ、ニコン、ソニー、パナソニックだそうだ。
ただ、日系ブランドには、「High-Tech」「高品質」に結びつくイメージがある一方、韓国のメジャーブランド各社は、価格と価値の訴求に加え、猛烈な勢いでマーケティング、ブランディング活動を展開しているという。

提携社のCEOに、日系企業にアドバイスできることがあるとすれば何か、と尋ねたところ、日系企業はもっと顧客視点、ユーザー視点を理解することに予算をかけるべきだ、と言い切った。日本製品はサムスンやLGより優れているはずなのに、インド市場で消費者心理を掴み切れておらず、その価値も伝わっていない、ということだった。彼の分析によれば、成功していない日系ブランドの背景にある敗因は、「広告だけが売上向上に繋がる唯一の方法」だと信じている点だという。もちろん広告も必要だが、先ずインド市場のニーズに合わせるための掘り下げたマーケティングとブランディング、それらを反映したインド市場向けの商品開発が必須だという。

尖閣問題で経営者は中国を難しい国だと思っていることだろう。確かに難しい国かも知れないが、中国が難しいのでインドをやろう、という流れにはならない。国内市場が委縮する中、「それでも隣国市場で成功しなくてはならない」というしたたかさが求められている。
(次回へ続く)


グラムコ(株)代表取締役社長 山田敦郎(やまだ・あつろう)

慶大法学部卒。総合商社の丸紅を経て1987年同社設立。 2004年上海・北京に現地法人展開。アジアNo.1のブランディングファームを標榜(ひょうぼう)する。 日本CI会議体幹事。内閣府沖縄美ら島ブランド会議座長ほか。
『ブランド進化論』(中央公論新社)、『探求メジャーブランドへの道』(税務経理協会)、『パワーブランドカンパニー』(東洋経済新報社)、『品牌全視角』(上海人民出版社)など著書多数。



[ 10月22日掲載 ]

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