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広告手帖

第13回:『これが老舗の生きる道1』/
グラムコ(株)代表取締役社長 山田敦郎
有識者
コーナー
第13回:『これが老舗の生きる道1』

成功体験の共有が私たちの喜び

『日経広告手帖on Web』での連載も、不定期掲載ながら早いもので、3年目に突入した。オンラインではなく、寄稿も連載もときどきやらせていただいていた印刷物の冊子だったころからのお付き合いを考えると、かれこれ10年になるのではないか。この間、ブランド論やブランド戦略を取り巻く環境も大分変った。
読者の皆様も、また1年、宜しくお付き合いください。

2002年3月、グラムコは創立25周年を迎え、何と私自身四半世紀もの間ブランドやCIと向き合ってきたことになる。よくも飽きずに、と思われるかもしれないが、ブランディングほど楽しい仕事はない。様々な企業や事業の最前線に触れることができるし、マルチナショナルなクライアントとはグローバル視点で、老舗企業とは日本の文化と伝統に立脚した発想で幅広く考えることができる。人の一生を100回分生きているような錯覚にすら陥る仕事である(ここだけの話しだが、ちょっと行ってくるよ、と上海に出掛けて、仕事の後とびきり美味い中国料理に舌鼓を打つこともできる)。 ただ、何よりも楽しいと思う瞬間は、クライアントと成功体験を共有できたときだ。

60年振りの変革へ

100年を超える関西の老舗おかきメーカーの、新ブランド立ち上げの作業でも、まさにこの成功体験の共有ができた。2007年当時、同社は大手米菓メーカーグループの傘下に入り、再生への一歩を踏み出していたのだが、既存商品ブランドの低迷、古い商品の陳腐化、顧客離れや顧客の高齢化も起こっていた。改革は待った無しの感があった。
いろいろ調べてみると、おかきの世界では、他社を含め業態全体が、革新的なことに60年間も取り組んでこなかったことが分かった。付いてきてくださっているお客様も相当ご高齢の方ばかりというのもうなずけた。他方若い女性など、見向きもしてくれない。ヒアリングをしてみると、百貨店バイヤーは当然のこととして、年配の固定客ですら変化を求めていた。この他にもいろいろな角度からリサーチを実施したうえで、よし、それでは変革路線で30-40代女性層、それも主婦だけでなく、パーソナルユースやパーソナルギフトにもこだわりを見せるキャリアな女性層にも振りかえってもらえるブランドを立ち上げよう、ということでコンセプトが固まった。
前回までにご紹介したイマジンボードを使って、関係者の誰もが直感できるコンセプトの可視化も行った。

老舗は“形状記憶合金”である

どんな企業でもそうだが、これまで当たり前と思ってやってきたことを急に変えてもらうのは難しい。過去の成功体験もマイナスに働く。当然内部から反発も出た。幸いなことにこの会社の場合、比較的柔軟な発想が出来る人たちが多かったのだが、往々にして老舗の人たちは頑固な形状記憶合金みたいな石頭の持ち主が多い。曲げてもよじっても直ぐ元の形に復元してしまうのだ。
プロジェクトメンバーとはとことん議論を重ね、互いに疲労困憊、という場面もあった。老舗メーカーの人たちは、存外最前線のお菓子事情に疎い。日々の実務を留守にするわけにいかないので、どうしても出不精になってしまうのである。こちらは、おかきに過去60年革命が起こっていないことが分かったので、米菓の競合は相手にせず、米菓以外の洋菓子も含めたお菓子全般をすべて競合と見做して、あちこち出向いて買い歩き食べ歩いた(お陰で2キロ太った)。だから、クライアントに対してとっぴなリクエストもさせてもらったし、絵まで描いてこんな形のお菓子はできないか、などといささか無茶な要求もさせて戴いた。
おかきの製法でスイーツが作れないか、という商品企画も、この段階で出てきた。
メンバー諸兄は戸惑った。しかし戸惑いながらも、「そんなことくらい、俺たちならやってやるぜ」とばかりに、新コンセプトに則った驚くべき新商品アイデアが次々と生み出されていった。メーカーの人の知恵は深い。その気になれば出るのだ、凄いなと感嘆した。

好順風満帆でスタート、でも・・・

2009年11月、新ブランドは小さいながらも基幹店舗を東京にオープンし、厳しいバイヤーやメディアや食の評論家たちの目に晒されることになる。経営トップや社員(そして私たち)の不安を他所に、この新ブランドは多くのメディアに採り上げられ、著名ブロガーのサイトにも矢継ぎ早に紹介された。メディア露出の高いフードプロデューサーの力強い支援も得られた。その結果30-40代女性層、それに著名な文化人や芸能人の方々の目にとまり、評価を得だした。一人で十万円もの大人買いをしてくれる人も現れて、昨年夏には、テレビの朝番組で有名人イチオシ商品として紹介されたのだった。マスコミに積極的にリリースし、記事にしてくれる雑誌は引きも切らず、TV、ブロガーのブログ、あとは口コミ口コミ口コミ…。ここまでコミュニケーションにはお金をほとんど使わずに済んだ。やった!と感動をクライアントと共有できた。
でも、世の中(消費者)そう甘くはなかった。(以下次号)


グラムコ(株)代表取締役社長 山田敦郎(やまだ・あつろう)

慶應義塾大学法学部法律学科卒。総合商社の丸紅を経て87年同社設立。
04年上海・北京に現地法人グラムコ上海を展開。アジアNo.1のブランディングファームを標榜する。日本CI会議体幹事。日本グラフィックデザイナー協会会員、日本広報学会会員、内閣府沖縄美ら島ブランド会議座長ほか。
『ブランド進化論』(中央公論新社)、『探求メジャーブランドへの道』(税務経理協会)、『パワーブランドカンパニー』(東洋経済新報社)、『品牌全視角』(上海人民出版社)など著書多数。



[ 2月2日掲載 ]

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