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広告手帖

「アイデアへの第一歩、それは話を聞く力」
コピーライター 渡辺潤平氏
Eyepoints

コピーライター 渡辺潤平氏

――渡辺さんにとってアイデアを生み出す力は何でしょうか。
 人の話をよく聞くことです。自分の中にあるものには、ほぼ期待していないというか(笑)。自分に秀でているものがあるとすれば、相手が持っている思いを言葉にするための人との向き合い方、聞く耳の強さだと思います。なるべく自然体で、緊張することなくお互い腹を割って話をして本音を引き出すことが優れた広告作りにつながると思っています。

――優れたコピーを生み出すために工夫していること、こだわっていることは何でしょうか。
 なるべく簡単に書くことです。難しくしないこと、文体も基本はコロキアル(言文一致)。話し言葉で端的に表現するようにしています。語句だけの技巧に走ったり、文章を媒体ごとに変えることは基本的にはしません。

――今回の日経広告賞最優秀賞受賞作品(VAIO)では、コピーの力強さが高く評価されました。
 日経広告賞を受賞できたのは、すごく嬉しいです。社会性のある作品を評価する広告賞であると考えているので。
 ソニーの事業再編の結果生まれた会社として、VAIO株式会社は逆風の中で船出したと思われていたことは事実です。そんな世の中の空気をがらりと変えたいと思いました。創業当日の朝刊に出稿することは、決意表明にほかなりません。強い意思で明日を迎えるための旗振り役としての新聞広告を実現するために、クライアントの方々の「本音」を引き出すためのヒアリングを重ね、熱い鉄を打つイメージで、言葉を強くしていきました。余計な装飾はせず、強い思いをどれだけ広く深く浸透させるかに力を注ぎました。

――メディアが多様化したことで、コピーライターとしての仕事の仕方や内容などに、ここ数年で変化はありますか?
 基本的にはありません。新聞だから、雑誌だから、SNSだからといって書き分けることはしませんし、「書く」という仕事のスタイルを変えるつもりもないんです。広告の仕組み、つまり「器」よりも「中身」のほうがはるかに重要だと考えていて。コピーライターとしての本質的な作業に、ピュアに向き合い続けたいと思っています。

――メール、SNSの日常利用が進み、きちんとした言葉でないものも含め、世の中に流通する言葉の総量は増大しています。このような時代環境のなかで、コピーに求められる役割にどのような変化を感じますか。
 人の一日の思考の量って、変わらないと思うんですよね。それなのに、発信される言葉の量が膨大に増えているということは、言葉が薄くなってきているとも考えられるかなと。実際、刹那的、衝動的に言葉を発する人が増えている気がする。そういう人の言動に触れる中で、自分を戒めることも多々あります。言葉があふれる状況のなかで、コピーライターとしてはどれだけ重い言葉を打ち返せるか、と思考することが増えました。誰もがにわか書き手になっているような今の時代には、むしろコピーの力を試す良い機会が多いといもいえるのではないでしょうか。

――広告メディアのなかでの新聞について、意見をお聞かせください。最近の新聞広告についてどのようなことを感じていますか。
 新聞がメディアとしてのパワーを失いつつあると言われ始めてから、かなり時間が経っていますよね。その割に変化の歩みが遅い気がします。新聞好きだからこそ、もどかしく感じることもあります。電子化することだけが、新聞の進化だとは思えないんです。日本経済新聞という、きわめて質の高いニュースを提供してくれる情報源だからこそ、そこに広告を出すということが、他紙とは違う純度の高いイシューになる。その質の高さをどう研ぎ澄ませていくのかに興味を持っています。

――新聞広告の効果の議論についてはどうお考えですか。
 これだけ情報が多様化すると、広告そのものに対する期待値がかつてのようには高くないように感じるし、クライアント内で決済のプロセスに関わる人も多くなってきています。そうなると、強い言葉はスピードが早い。社員の方々が共感してくれる広告は、太くて強いコピーの力がないと成立しないと考えています。
 経営のトップにいる方々は、新聞を読んできた世代。それゆえに、新聞広告に対する期待は高いように思えます。しかし時代が変化して、新聞とは距離のある世代にバトンが受け継がれて行くとなると、新聞の変革のために残された時間は少ないと言えるのではないでしょうか。

――読者をとりまく情報環境の変化のなか、新聞広告の新しい可能性についてのお考えを聞かせてください。
 最近、キュレーションメディアが数多く出てきましたよね。そこでは様々な発信源からのニュースが並列で表示されています。そこでは新聞のニュースの純度の高さをなかなか実感しにくい。僕はやはり、紙としての新聞の価値に立ち戻ったほうがいいと思っていて、たとえばページを減らして紙のサイズを小さくし、読者に合わせて内容をカスタマイズしていくという方向性もありえるのではないでしょうか。僕は競馬が趣味なので、週末はスポーツ紙を買います。これは、絶対に紙でなければという感じです。ビジネスにおいても、紙でなければという状況はあるかもしれない。その状況を読者層に応じて作っていくとか、いわば、読者が使い勝手に合わせて編集できる新聞はできないでしょうか。オンデマンドで作られた新聞には、必ずセグメント広告のマーケットが生まれるということもあると思います。

――最近本を出されたのですね。
 はい、「広告コピーの筋力トレーニング」(グラフィック社)を15年1月に出版いたしました。この本は、技術を学ぶためのハウツー本ではありません。自分の成長体験を基にコピーを書く上での心構えを自分なりにまとめた本です。僕は、クリエイターとかアーティストと呼ばれるタイプの人間では決してないので、「書く」という仕事に徹する職人のような人間であり続けたいと考えています。

――ありがとうございました。

渡辺潤平
コピーライター。早稲田大学卒業後、博報堂入社。2007年に渡辺潤平社設立。
最近の仕事に日経電子版「田中電子版」、千葉ロッテマリーンズシーズンポスター、VAIO新聞広告「自由だ。変えよう。」など。カンヌ国際広告祭、TCC新人賞、日経広告賞などを受賞。

[ 2月12日掲載 ]

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