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広告手帖

新聞紙面ならではのレイアウトを追求
アートディレクター 葛西薫氏
Eyepoints

アートディレクター 葛西薫氏

文字のデザインが仕事の原点

――この世界に入ったきっかけを教えてください。
 もともと、文字の形をデザインする、フォントデザイナーとでもいうような仕事に興味がありました。レタリングやタイポグラフィといった言葉もまだない子供時代から、文字の形そのものが機械部品のようでとても面白いと思っていたんです。
 そこからやがてデザインに興味を持ち、広告というものは面白いと思うようになりました。サン・アドに入社してからは長く広告一筋でやってきましたが、この頃はいわゆるグラフィックデザインやパッケージデザインの仕事をしたり、映画や演劇のポスターを作ったりもします。とはいえ、文字組みや言葉というのは大切だと常々思っていますし、その意味ではやはり新聞広告の仕事が好きですね。

――広告制作に当たって、心がけてきたことはありますか。
 駆け出しのうちは網点の大きさや書体をどうするかなど、実験的な手法をいろいろと試していました。実験を重ねておけば、将来少し大きな仕事が来たときに既に経験した手法を迷わず使えると思って。
 クリエイティブの面でいうと、ある商品の機能が100あるとして、それを130%に表現すると、30%は嘘や誇大表現になってしまう。過剰に目立たせたり、身の程知らずだったりするものは、表現だけが浮いてしまうのですぐに化けの皮がはがれてしまう。大げさにではなく、その商品が持っているありのままの魅力を過不足なくどう伝えるかが大事だと思っています。

――新聞や新聞広告について、どのようにお考えでしょうか。
 今でこそ電子版などが出てきていますが、原点はアナログな紙媒体です。直前まで書かれていた記事が、レイアウト、印刷されて届く。毎朝毎夕自宅に配られるという、こんな豊かなサイクルは他にないのではないでしょうか。
 一覧性に優れているのも特長です。興味のある記事を読むつもりが、横目で見た別の記事が気になってしまう。思いもよらぬところに自分が興味を持っていたということに気がつくチャンスがあります。そこが新聞の面白さ、良さだと思います。
 そして記事の下には、あるものはとても真剣だったり、あるものは俗っぽかったりと、さまざまなトーンの広告が掲載されます。記事は政治、経済、国際、文化など世の中のさまざまな社会現象をカバーしている。一方で、その下にある広告は生々しい情報として記事と同居していながら、その日を映すコンテンツとしてそこにあるわけで、世の中のありようを俯瞰する一望性があります。
 制作側にとっての新聞広告は、新聞に載ることで一気にたくさんの家庭に届く、しかも全国版となると全国一斉の「紙上展覧会」に出展しているようなものなんです。若い頃は、自分の手で作ったものを全国の人が見ていると思うとうれしかったですね。

――新聞に望むことはなんでしょうか。
 紙面のレイアウトは再考の余地があると思っています。海外の新聞を見ると、見出しや記事、写真の組み上げ方がきれいで読みやすいんです。日本の新聞ももう少しモダンなレイアウトになっていいと思います。また、いまやみんな電子端末のレイアウトに慣れてきつつあるので、それを全てまねをしないまでも、そこから学んで、印刷紙面ならではの新しいレイアウトを考えてもいいのではないでしょうか。僕はもともと、ウェブのレイアウトや文字組みは読みにくくて、必要のないものがたくさん表示されて、文字組みの基本ができてないと思っていました。ところが、タブレットが出てきたのが契機かもしれませんが、画面に合った見易いスタイルが編み出されてきています。今度は印刷媒体がそういう機能美を見習って取り入れてもいいのではないかと思います。

新聞広告で社長、社員の夢を伝える

――葛西さんは、2014年の日経広告賞で大賞を受賞した伊藤忠商事の広告制作に携われました。この広告の企画背景や狙いを教えてください。
※実際の広告原稿はこちら
僕はクリエイティブの全体を見渡す役割でしたが、表現する上で一番大事だと思ったのが、伊藤忠商事の「人柄」でした。もともと同社は商社の中でも野武士集団と言われていて、若い社員もベテランも世界のあちこちに行って現地の人と手を組み、世の中のためになるんだと自らの意思で道を切り開いていく。社員一人ひとりの使命感がそうさせると。そんな話を聞いたとき、スポットライトを当てるべきは事業内容よりも社員だと思いました。社員を通してこの会社の精神を伝え、結果的にどんな事業をしているかが分かるようにするという筋立てです。
 原稿では顔写真ではなく、肖像画のようなイラストで社員を描きました。イラストにすることで、一個人という印象が薄れ、読者にとって我がこととして読んでもらえるのではないかと。シリーズの終盤には岡藤正広社長の子供時代のイラストで、その頃の夢を語っていただきました。
 このシリーズを締めたのは「ひとりの商人、無数の使命」というコピーです。そこには一人ひとりの「商人」それぞれが、仕事を通じて世界に貢献していく使命感を持っているという意味を込めています。

――日経広告賞の最優秀賞を受賞したトヨタマーケティングジャパンの広告「DRIVING KIDS with TOYOTA」も葛西さんが関わっていますね。
※実際の広告原稿はこちら
もともとはスポーツカー「86(ハチロク)」の広告に関わったのがきっかけでした。86は、若者向けというよりは、どちらかというと、昔はクルマ好きだった中高年層をターゲットとしたクルマです。景色を楽しみながらドライブする中年ならではの夢や喜びを喚起して、当時のクルマに対する情熱をもう一度呼び覚まそうというキャンペーンです。その後、「DRIVING KIDS with TOYOTA」という題目の下、クルマを運転する喜びをさらに広めようということで86の延長線上にできたキャンペーンが受賞作です。奇抜なイラストのこの広告ですが、いい年になってもクルマが大好きな日経読者に刺さるような、しかもあえて日経らしからぬ表現で掲載しました。
 僕はかつて、新聞広告にパブリックで文化的、ちょっとお利口なイメージを持っていたんです。しかしこの頃は、新聞という公の舞台の中で少し違和感があるくらいに狭くて深いメッセージを持つ広告が載ることで、なんらかの動きが生まれるのではないかと思うようにもなりました。トヨタのこの広告はそれが叶った感があります。日本経済新聞の読者にも、サラリーマン生活以外に自分の生活があって、自分の趣味があります。そこに触れる広告にするためには、お利口でいかにも新聞広告然としたものはむしろ損かもしれません。公的な新聞の流れや雰囲気を一度ゼロにするような展開ができるのも、新聞広告だからこそと思います。

葛西薫(かさいかおる)氏
1949年札幌生まれ。サン・アドアートディレクター。長期にわたるサントリーウーロン茶、ユナイテッドアローズの広告制作、虎屋の店舗やパッケージのアートディレクションなどが代表作。他に、映画演劇の広告美術、装丁など活動は多岐。近作に、スポーツカーTOYOTA 86、伊藤忠商事の広告、NHKみんなのうた「泣き虫ピエロ」の動画制作、JAGDA平和希求ポスター「HIROSHIMAAPPEALS 2013」、『永い言い訳』(西川美和著/文藝春秋)の装丁。著書に『図録 葛西薫1968』(ADP)。

[ 5月25日掲載 ]

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