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広告手帖

企業広告は読者への共感のブリッジ
企業が伝えたい意志を新聞に乗せて
アートディレクター 中嶋貴久氏
Eyepoints

アートディレクターとして新聞広告を中心に活躍し、広告賞受賞作品も多い中嶋貴久さんに制作の力点や最近のメディア環境に関して話をうかがった。


アートディレクター 中嶋貴久氏

――アートディレクターを目指したのはどのような経緯からですか。
 高校生のときには、グラフィックデザインということが何かもよくわからず、ばくぜんとデザイナーになりたいという気持ちで東京藝大のデザイン科に入学しました。ファインアートを勉強して公募展に出品したりしながら就職せず作家活動をしていくというのが正しい姿と思われる傾向が多かったように思います。当時読んでいた「アイデア」というデザイナー向けの雑誌で中村誠さん(資生堂所属のアートディレクター)を紹介する特集があって、彼のポスター制作の仕事ぶりを知り資生堂を志望することにしました。当時電通にいらした鈴木八朗さんの下でアルバイトをしていた関係で電通も受けたのですが、資生堂が1名の狭き門だったこともあり合格には至らず、内定の出た電通に入社することになったわけです。その電通から独立したのが2013年です。

――広告賞受賞作の多い中嶋さんのこだわりを教えてください。
 私自身は広告を作っている者で、アーティストでも何でもありません。広告は個性を発揮する場ではなく、広告主に合わせて最適なものを作っていくだけでしょう。自分の世界観に広告主を引っ張り込むことはしません。ただ、大切にしたい思いとしては、広告主の狙いをどう読者、消費者に伝え、共感してもらえるかどうか。とりわけ仕事が比較的多い企業広告の場合にはすぐに買ってもらうことを目的にするわけではなく、企業を好きになってもらえるかどうかが目的です。真摯なものづくりの姿勢や環境・社会に向けた取り組みなど企業が地道に取り組んでいる良い活動を読者視点で伝え、共感を持ってもらうことを大切にしています。広告は発信するものだけど、読者は広告を見たくて新聞を買っているわけではない。普通に考えれば素通りしてしまう存在の広告にどう向いてもらえるか。ビジュアル、デザイン、コピーの構成と役割をうまく設計しないと伝わらない。

――企業広告に真剣に向き合っていらっしゃるのですね。
 単価の安い商品を広告で売るのとは違い、企業広告は到達する目標が明快ではない。なぜこんな広告を出しているのだろう、と読者は思うでしょう。目にしたときにコピーを読んでもらう仕組みを作っておかないといけない。伝えたい情報が読者に入っていくための「共感へのブリッジ」を作ることに関しては特に配慮しています。広告を作っている人間が誤解することとして、自分の信ずるやり方で作っていけば伝わるだろう、という思い込みがあります。生活に必要な情報ではないことを一方的に発信するだけでは読者に振り向いてもらえないことを思っていないと、いつの間にか勘違いしてしまう恐れもあります。

――ここ数年のメディア環境の変化について。
 日本経済新聞に関しては、いつも読んでいる固定層が多くそれほどの変化は起きていないのではないでしょうか。ただ、若い人は新聞を読まなくなっていますね。美術大学で教えている際に感じたのですが、今と昔で情報の質がぜんぜん違う。ネットで調べ、表面的な情報で満足している。美術専攻であれば、現物を展覧会などで見るか、図録を買って読むかをするというのが常識だと思うのですが、ネットで検索し画像を画面に出すだけで満足してしまう。卒業制作を展示するのにも、額やフレームなど見せるための体裁を作るための手間や経費を惜しんでしまう。私に言わせれば、全部が浅いんです。
 ネット上にある情報は、均一なテキストと画像の集合体でしかない。そこに作り手の意志や問いかけは希薄で、伝えようという意志を持ち本気で取り組む作り手がいるのは新聞の強みであり、これからも変らないでしょう。新聞の価値というのは、読者を取り巻く時勢や社会的背景などの外部要因だけで論じられるものでもなく、情報を重み付けする作り手がいてこそできることです。メディアの形態が変っていくのは時代の要請もあるでしょうが、情報の質は下がらないで欲しいです。

――新聞広告、特に企業広告への思いをお話しください。
 山手線の車内広告が電子化されるとか、駅のポスターがデジタルサイネージに変っていくとか、印刷媒体には大きな変化が訪れています。いま、ADC賞の審査委員をしているのですが、雑誌部門も応募点数が減り厳しい状況と感じています。新聞も例外ではありません。私が手がけることが多い企業広告についてお話しすると、実は、インナーに向けた企業からのメッセージという点があります。巨大企業では組織が機能分化しています。別の商品ラインを手がけ、異なる顧客層をもつ組織どうしでは交流することも少ない。ややもすれば形式的になりかねない企業というものに生の息吹を吹き込むのが企業広告の役割です。過去のケースで、企業広告が掲載されたあとに社員から宣伝部に「このような環境への取り組みをしていたことを初めて知り、感動しました」という手紙やメールが届いたという話も聞きます。企業広告によってインナーの士気が上がり、組織力が向上するという効用は大きいのではないでしょうか。

――最後に。
 身近にある広告って、単純に表現、ビジュアルの質が高くないといやですよね。朝新聞を開いてすごくいい広告が載っていたら、とても気持ちよく一日を過ごせますし。これからも質の高い新聞を作っていってください。

――ありがとうございました。

中嶋貴久(なかじまたかひさ)氏
アートディレクター。1971年生まれ。1998年東京藝術大学デザイン科大学院修士課程修了。同年電通入社。2013年独立しnakajimatakahisa design設立。
広告のアートディレクションを中心にCI、パッケージ、エディトリアルなどグラフィックデザイン全般を手掛ける。代表作に旭化成企業広告。広告関連の受賞作は多く、東京ADCグランプリ、東京ADC賞、JAGDA新人賞、朝日広告賞グランプリ、毎日広告デザイン賞最高賞、日経広告賞最優秀賞、読売広告賞最高賞を受賞。
http://nt-design.jp

[ 6月4日掲載 ]

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