音声ブラウザ専用。こちらより本文へ移動可能です。クリック。

NIKKEI

NIKKEI AD Web

広告申し込みに関するお問い合わせはこちら

English Page

広告手帖

社会の問題意識に応えるために信頼できるメッセージを
首都大学東京大学院 准教授 水越康介氏
Eyepoints

首都大学東京大学院 准教授
水越康介氏

――今の先生の関心分野について教えてください。
 今、ビッグデータの時代と言われ、簡単に大量のデータを収集できるようになってきました。しかし、その割には新製品開発の成功率が明確に上がっている印象はありません。マーケターの苦労も依然として続いています。この意味でマーケティングリサーチにおいて外部にデータを求める手法には限界があり、むしろ経験や知識をもつマーケターの常識を動員すれば新市場の創造ができるのではないか、と考えたのが『本質直観のすすめ。』で言いたかったことです。例えば昔の話ですが、静かな洗濯機が流行りました。けれども、洗濯機は本来うるさいものという先入観があったため、それまで消費者に聞いても誰も静かな洗濯機が欲しいとはいわなかったわけです。今では常識となった静粛性も、開発者が気づくにはそれなりの時間がかかりました。このケースでもわかるように、本質的にはリサーチそのものに価値を見いだすのではなく、問題を見いだすためのマーケター自身が自分を絶えず問い直し、客観的にデータが正しいかどうかよりもそれらのデータを信じたり信じなかったりする自分の確信を明らかにすることが大切になってきます。

――それでは、データ分析の意味とはどのようなものになりますか。
 たくさんのデータは、自分の確信を問い直すきっかけであったり、問い直すための材料です。それ自体が正しいかどうかはここではあまり問題になりません。そのデータが嘘かもしれないということよりも、そのデータを嘘だと思ったり大事だと思っているという、自分の確信の成り立ちこそが大事だからです。そういう意味では、もう一つの点として、マーケティングとイノベーションの関係では、私はマーケターが「正当性を獲得する」ための分析手法に重点を置いています。イノベーションは初期段階では簡単に周囲が受け入れてくれないものです。だから、イノベーションの価値を周囲に認めさせるための正当性を獲得していく必要がある。数値的な裏づけや研究者の発言、定番の戦略のモデルなどを総動員して周囲を巻き込みイノベーションが進んでいく。そのプロセスをビジネスで起きている現実として受け止め、研究としてはそのプロセスを記述することで良い発見があるのではないかと考えています。

――ビッグデータの話題で言えば、広告にもビッグデータによる分析手法が導入されつつあります。ただ、それがまだ見えない消費行動をどう解き明かすのか分からない部分があります。
 ビッグデータをどう消費の解明に使うか。前提として大事なのは、ネットで収集されるデータは、情報機器の操作から収集したアクセスログデータがベースになっているということです。どんな背景でその操作に至ったのか、情報源にアクセスした目的は何か、生活にどのように商品採用が役立ったのかなど、行動の理由についてはマーケターが解釈するしかない。結局の所、消費者側の要因を明らかにするには、質問紙に準じた従来の手法を採用して、消費者に聞くことになります。もし、聞かなくても理由はわかるというのならば、それこそ、その理由をわかることのできる自分が分析の対象となるでしょう。

――従来型のメディアの役割についてはどうお考えでしょうか。
 きちんと情報を伝えるという意味では、パブリシティの活用が見直されてきました。また、新聞の役割も一時期に比べて見直されてきた印象があります。ネットの利用率が2005年あたりまで急速に伸びてきたこともあるでしょう。しかしこの10年で位置づけが変ったのではないかと考えています。
 最近話題にすることの多いネットコミュニティは、商業広告と一線を画した空間です。ここに「広告でないふりをして」商業広告が一人歩きを始めれば、当然反感を受けますし、出稿した企業にはネガティブな印象がふりかかることになります。これに対して、従来型のメディアはビジネスモデルが確立していますから、視聴者にも広告とそれ以外のコンテンツを分けてとらえることが容易です。巧みに広告機能が埋め込まれたネットコンテンツにはない、安心感が信頼性として浮かび上がってくる時代になったということではないでしょうか。

――広告メディアの中での新聞についてご意見をお聞かせください。新聞広告の特性をどのようにお考えですか。最近の新聞広告についてどのようなことを感じていらっしゃいますか。
 新聞の形態も進化しつつあります。情報媒体としての形はさまざま。読者からサービスの対価をもらって新聞社が様々なサービスを提供するという未来像が見えつつあります。
 新聞では記事スタイルの広告が増えてきた印象があります。読者が読みやすい形態に情報を加工して提供している、そんな印象です。先ほどのパブリシティの話題とも関連します。また、ネットもコンテンツの時代になってきました。マーケティング協会での話題なのですが、「コンテンツマーケティング」として広告そのものの話題性やストーリー性が改めて注目されています。ネットだけでなく、メディア全体がそういう流れになってきているのではないでしょうか。コンテンツに魅力がなければ、歓迎されない情報になる。ネットでも有料課金すれば広告を見せないサービスが増えています。「広告は本来不要なものだ」と割り切ってしまうと、広告が果たしてきたメッセージ機能そのものが否定されてしまいます。

――企業のメッセージをどう伝えるかが大切なわけですね。
 最近スプリングエイト(兵庫県にある電子の加速で得られる放射光を使った研究施設)のような大規模先端研究施設にとっても、投資金額と成果を享受することで得られる収益との関係をどう説明するかということが大事になっているという話を聞きました。スプリングエイトには、バイオテクノロジーやナノテクノロジー、ITの発展を通じた未来社会への貢献が期待されるわけですが、利用を幅広く呼びかけ、社会に貢献した研究成果を目に見える形で説明しないと、今では国からの補助金も出ない時代になってきました。伝えることの重要性はますます大きくなっています。
 一方で、ビジネス上のマーケティングでは、プロモーションの枠内で説明していたのでは、どうしても企業メッセージを伝える、という目的が広告の役割として見えにくくなっています。世の中の課題が多い日本では、国民の問題意識の高さも世界最高水準でしょう。広告メッセージの意味を社会の課題と結びつけて支持が得られる事例が増えているのではないでしょうか。例えば、ただ製薬会社が新しい風邪薬の効き目を謳うのではなく、その利用を通じて、国の医療費削減ができることを説明するといったふうにです。このように、社会の課題に対応するマーケティングは、これからも注目を集めていくでしょう。モノをたくさん売る、という目的だけがマーケティングに求められているのではなく、課題は多様になっていきます。流れとしては販売促進の機能から全社レベル、経営者の意思決定に関係することが増えてくるでしょう。

水越康介氏
2005年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。
同年より首都大学東京、現在同大学院ビジネススクール、准教授。主な著書に、『本質直観のすすめ。』(東洋経済新報社、2014年)、『企業と市場と観察者』(有斐閣、2011年)。専門はマーケティング、インターネット・マーケティング。

[ 7月27日掲載 ]

[一覧へ戻る]