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広告手帖

広告表現のきれいな流れが成立する新聞広告
簡にして要を得た表現がベスト

クリエイティブディレクター・コピーライター
仲畑貴志氏
Eyepoints

クリエイティブディレクター・コピーライター
仲畑貴志氏

――コピーライトの世界に足を踏み入れたきっかけなどを教えてください。
 僕の場合は、ファッションの世界から広告に興味を持ちました。アイビーというファッションが流行った世代です。アイビーリーガーは学校を卒業すると“マディソン”へ行く人が多かったんです。広告の世界ですね。アメリカ広告界の聖地であるマディソン街の広告代理店、特にヤング&ルビカムやドイル・ディーン・バーンバックは、広告を始めたときのお手本でした。僕の若い頃の仲間はデザインを手掛ける連中が多かったんですが、そこでコピーライターという職業を知りました。ただ当時は、コピーライターといっても社会的に全然認知されていなかったので、逆に興味を持ちました。そして、よしやってやろうと数え切れないほどのコピーを書きました。
 20歳の時、TCCの新人賞を頂いて以降、自分の仕事が認められていろいろ広告賞を頂けるようになりましたが、やはりほめてもらうと嬉しいですよね。コピーライターの世界には資格審査があるわけではないので不確かな存在ですが、賞を頂くことによって自信が生まれ、自分の表現が社会にちゃんと届いているんだという確認ができます。自分のやり方が間違っていないと勇気を持てるし、やる気が出てまた前に進むことができました。

――優れたコピーを生み出すために自身で工夫していること、こだわっていることを教えてください。
 広告コピーは純粋表現ではなく、商業活動のための表現です。だから、まずは広告主の要求に応えること。それゆえに、伝えたいことを速やかに伝えるスピード感と効率を大事にしています。そのためにも、簡にして要を得た表現がベストだと思っていますし、そうするように心がけています。

――アイデアを思い付くのはどんなときなのでしょうか。
 電車やトイレで……、などという人がいるけれど、僕は、やはり頭を仕事モードにして、机に向かってじっくりと考えるたちです。クリエーティブと言っても、純粋芸術や文学はゼロから生み出すもの、何を伝えるかから探るものかもしれないですが、広告クリエーティブはベースとなる商品や企業があるわけで、ゼロからの出発ではありません。1があって、それを増幅するのが僕らの仕事なので、商品や企業の価値を伝えるということに集中できます。そのためにも、オリエンテーションの場は重要です。広告主からオーダーがあったときに、何が求められているのかを把握する力が大事になります。

――近年はメディアが多様化してきました。クリエーターとして仕事のやり方に変化はありますか。
 表現手法としては、僕は特に変わりません。受け手の心を動かすのが広告だとするならば、その受け手の心は変わっていません。人間は同じところで泣いて、同じところで笑っています。消費者の心を奪うという広告の役どころは変わらないでしょう。受け手の心のありようが変われば表現も変わるのでしょうが。

――新聞メディアについてはどのように捉えていらっしゃいますか。
 新聞のいいところは、広告表現のきれいな流れが成立する点です。きれいな流れというのは、例えば建物の玄関(アプローチ)から入って廊下を通ってリビングや寝室に至るように、広告でも、まずキャッチフレーズがあり、サブヘッドラインからボディーコピーを読ませるという順序が成立するんです。一方でテレビは一発勝負ですよね。新聞はアプローチから入っていけるので、企業の意図を如実に表現できるメディアといえます。
 あとは、シリーズ化することによって、深度を増すことができます。制作者にとってみても、シリーズ広告は制作者としての腕を磨いてくれるんです。例えば新聞の月1回のシリーズ広告を手がけることによって、技量が蓄積していくものです。新聞広告の仕事を数多くこなした制作者は、広告表現は流れ去るものではなく、情報財産として蓄積できるという認識を持てるんです。その蓄積されたものをいつか広告主に還元できるわけで、新聞広告は表現の蓄積ができるという点がいいですね。

――日本経済新聞についてはどのように思われていますか。
 新聞に対する信頼性はまだゆるぎないと思っていて、中でも日経新聞はステージが高いという認識です。日経に載る広告を手掛けるときは、少し襟を正す気になります。ただ、日経をビジネスの枠だけで捉えるのもまた違うと思っています。ビジネスパーソンもまた一人の生活者なので、日経はビジネスパーソンと生活者の両面にアプローチできるんです。そのあたりを意識すると、非常に効果的な表現ができるメディアだと思います。

――今年(2015年)の日経広告賞では、仲畑さんが関わった野村ホールディングスの作品が最優秀賞とオリンピック・パラリンピック広告特別賞を受賞しました。制作の背景を教えてください。
 野村ホールディングスは2020年の東京五輪をゴールドパートナーとしてサポートしていますが、同社には日本の経済のサポーターだという矜持、プライドがあるので、オリンピックと経済をオーバーラップさせて伝えることができればという狙いが根本にありました。また、数多あるパートナー企業が同じようにアピールする中で、野村はやはりワンランク上だと感じていただきたいという思いから、表現のクオリティには非常にこだわりました。
 表現としては、コピーにある「東京オリンピックは、もう始まっている。」という気づきがキーになっています。アスリートにとって東京五輪への道はもう始まっていて、そこを目指して練習に励んでいる。そんな彼らの努力とチャレンジに対して拍手を送り、勇気づけようという野村の姿勢が込められています。

――食品・生活用品部門優秀賞を受賞した資生堂の作品のコピーも仲畑さんによるものです。
 資生堂は2014年、社長が魚谷雅彦さんに代わり、以降熱心に企業改革に取り組まれています。ですから資生堂が変わったこととその躍動感が伝わればと思いました。レディー・ガガをアイコンとして使ったということは、変わったということを象徴的に伝えたかったからです。彼女の写真を自撮りのものにしたのは、消費者の日常にもっと寄り添った資生堂でありたいという思いからです。かつての資生堂ならプロのカメラマンが綺麗に撮っていたでしょう。あえてケータイの自撮り写真を使いましたが、それが逆に日常を生きている女性感として伝わったと思います。「with you.」とコピーがありますが、資生堂は上から目線ではなく、消費者とパートナーや友達のような健やかな関係でありたいという魚谷社長の思想があって、それがこの広告のコンセプトになりました。

――新聞広告を手がける若いクリエーターの方々に今後期待することは。
 広告主への「接待広告」にならないように気をつけていただきたいですね。広告は広告主に喜んでいただかないといけませんが、そのためにはまず消費者の心を動かしてモノが売れる広告を作らなければいけない。消費者を無視して広告主に媚びて作る広告は効果がありません。それを僕は「接待広告」を呼んでいますが、そうではなく、広告主と消費者双方の満足を得るバランス感覚を養ってほしいと思います。
 広告主からするとより多くの商品特性を言いたい。しかし、それらを全て盛り込んだ箇条書きのような広告を作っても、レポートみたいで何の魅力もなく効果もない。あれもこれも言わずに、一番重要なこと、他社との差別化ができる商品特性を一つ伝えれば商品は動くものです。全部書いて全部伝わらないより、一つ書いて確実に伝わるほうを選ぶ勇気とセンスが必要だと思います。

仲畑貴志(なかはたたかし)氏
クリエイティブディレクター・コピーライター
1947年京都市生まれ。広告企画・制作、マーケティング戦略、新製品開発などを専門とする。
カンヌ国際広告賞、ニューヨークADC国際部門賞、クリオ賞、日本宣伝賞山名賞、毎日広告デザイン賞、朝日広告賞、読売広告賞、フジサンケイ広告賞、ADC賞、TCC賞ほか受賞。
主な著書に、『考える技術発想する方法』(日本実業出版)、『勝つ広告のぜんぶ』『勝つコピーのぜんぶ』(宣伝会議)、『この骨董が、アナタです。』(講談社)など。
また毎日新聞紙上で「仲畑流万能川柳」の選者も務める。事業構想大学院大学教授、TCC会長。

[ 12月17日掲載 ]

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