音声ブラウザ専用。こちらより本文へ移動可能です。クリック。

NIKKEI

NIKKEI AD Web

広告申し込みに関するお問い合わせはこちら

English Page

広告手帖

襟を正して伝える新聞広告
キャンペーンのトビラとしても重視

エグゼクティブクリエイティブディレクター
杉山恒太郎氏
Eyepoints

エグゼクティブクリエイティブディレクター
杉山恒太郎氏

――広告の世界に入ったきっかけを教えてください。
 グラフィックデザイナーの亀倉雄策さんがデザインした1964年の東京オリンピックのポスターを見て衝撃を受けたのがきっかけです。もともと、モノを作る仕事をしたいと思っていたのですが、そのポスターを見て、映画や小説と同様、こうした素晴らしいポスターにも企画し作る人がいて世に出てくるんだということに初めて気がつきました(笑)。それで広告クリエーターを目指したというわけです。亀倉さんはライトパブリシティのスタッフと共にそのポスターを制作したのですが、今私がこの会社にいるのも何か、とても不思議な縁を感じます。

――優れたクリエーティブを生み出すために心がけていることはありますか。
 制作した広告が世に出て最初に目にするのは自分だと想定して作ります。自分が最初にこの広告を見て、広告主や商品を気に入るだろうか、感動するだろうか、使ってみたいと思うだろうかと想像しながら制作するんです。やはり、広告は市井の人々のセンスがあってのものだし、その評価を考慮に入れない広告は独り善がりのものになってしまいます。

――メディアの多様化が著しい近年ですが、広告に求められることも変わってきたのでしょうか。
 特にソーシャルメディアが台頭してから、人々のコミュニケーションはものすごく大きく変化しています。広告もメディアの多様化に対峙しないと機能しなくなっていることは間違いありません。また、広告にはジャーナリズム的なセンスが必要で、常に今の「リアル」を備えていないと見る人を説得できません。つまり、変わりゆく世相ときちんと向かい合っているかという意味で、広告にどんな社会性を付与するかがすごく重要になります。きちんと向かい合わずに、御伽噺のように「きれいでしょう、美しいでしょう」というだけではもう説得できなくなってきています。

――新聞や新聞広告についてはどのように捉えていらっしゃいますか。
 新聞広告はまず品が良くないといけません(笑)。そして、メディアが多様化している中で、襟を正して伝えたいことがあるとき、新聞は唯一無二で、ますます貴重なメディアだと思っています。ただ、近年の正月の新聞紙面を見ると、きちんとデザインされ、しっかりとメッセージを送るような広告が少なくなったように思えて、少しさみしく思っています。少し前まで年賀広告といえば、その年のメッセージ発信の最初の機会ということで、各企業みんな競うように素晴らしい広告を出稿していましたよね。しかし最近は「伝えたい」という意志が弱くなったように思えて残念です。

――以前、新聞広告にある「入り口効果」を重要視しているとおっしゃっていました。
 私が関わった仕事で、大塚製薬の経口補水液「OS-1」のキャンペーンがあります。キャンペーンというのは単発ではなく、向こう何年といった期間の中でどのようにソーシャル・コンセンサス(社会的合意)を得られるかが大事です。それゆえ、スタートはよりジャーナリスティックなメディアで情報発信をして、キャンペーンの入り口=トビラを作ることが重要で、それにふさわしいメディアは新聞以外にないと思っています。少し手間や時間がかかっても新聞をトビラにして、インターネットで詳細を伝えながら、こちらが伝えたい社会的な価値を醸成し、コンセンサスを形成していきました。その後、ある種の飛び道具のようにテレビCMを展開して、商品の売れ行きが順調に伸びていきました。

――日本経済新聞についてはどうお考えですか。
 個人的にファンということもありますが、一番安心できる新聞です。特に書評欄や終面の文化面が好きですね。昨年(2015年)の11月、その日経の文化面で「新聞広告のチカラ十選」というタイトルの10回連載コラムを執筆しました。その反響に改めてびっくり!特に企業の幹部クラスの方々から、「新聞広告って面白いんですね」「わが社も新聞広告をもっとやらないといけないと思った」などと感想を頂き、ビジネスの世界での日経の注目度の高さに驚きました。

――2015年の日経広告賞では、杉山さんが手がけた三越伊勢丹ホールディングスの広告が流通・ブランド品部門最優秀賞を受賞しました。制作の背景を教えてください。
 広告のコンテンツを広告主の社内で生み出し、そのコンテンツを発信するという手法で展開しました。コンテンツとしては、「もてなしの教室」という三越伊勢丹グループのスタッフを対象にした社員研修(ニュースクール)の実施を提案しました。もてなしの心を大切にして、新しいもの、サービス、アイデアを生み出している各界の方を迎え、語ってもらうこの研修の内容を、新聞広告で紹介しました。ここで重要なのはナレッジシェアです。大勢の社員が持つ個々の知見や経験を共有財産にすることが組織の強化につながります。そういう新しい教育システムを作りましょうという提案でした。さらにそれを広告コンテンツにして、「三越伊勢丹ではこのようにして接客の質を上げている」という姿勢を外に発信しました。広告のネタそのものをまず自分たちで作るという仕組みが新しく、そこが評価されたのだと思います。

――広告賞の役割についてはどのようにお考えでしょうか。
 広告賞はクリエーティブのレベルを上げるためにあるという大前提にもう一度立ち返ることが大事です。広告主に喜んでもらうのももちろん大事ですが、クリエーティブの技術と価値を向上させるためでもあるので、例えば評価基準(クライテリア)をもう一度見直しても良いのではと思います。時代によって賞の評価基準は違うべきであると思うし、そこで競って賞を頂くことがクリエーターの大きな自信につながります。

――若いクリエーターに向けてアドバイスなどはありますか。
 今こそ広告の本来の機能と魅力をもう一度考え直してみてください。それには広告の歴史を勉強しないといけません。日経新聞のコラムは、広告の歴史をもっと知ってほしいという狙いもあって執筆しました。「新聞広告のチカラ十選」に加え、14年2月、3月にも「世界を変えた広告十選」を書いていますので、この20編を一度読んでいただければ(笑)と切に思います。

杉山恒太郎(すぎやまこうたろう)氏
エグゼクティブクリエイティブディレクター
ライトパブリシティ代表取締役執行役員社長
立教大学卒業後、電通入社。デジタル領域のリーダーとしてインタラクティブ・コミュニケーションの確立に貢献。トラディショナル広告とインタラクティブ広告の両方を熟知したECD。2012年よりライトパブリシティに在籍。エディー・ジョーンズ監督を起用した三越伊勢丹ホールディングス年頭広告や15年夏オープンの「金融ミュージアム」(SMBC東館)の企画制作など。

[ 1月28日掲載 ]

[一覧へ戻る]