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広告手帖

読者のイマジネーションやインテリジェンスを信じて

電通
クリエーティブ・ディレクター、アートディレクター 久保雅由氏
Eyepoints

クリエーティブ・ディレクター、
アートディレクター 久保雅由氏

――広告クリエーターとなったきっかけを教えてください。
 もともとモノを作ることに興味があって、東京藝術大学のデザイン科に入りました。就職をするときに、自分の作るものが世の中の役に立つような仕事ができればと思って、広告会社を受けたのがきっかけでしょうか。ただ、僕らの時代の芸大はデザインといっても純粋芸術寄りの授業や実習が比較的多くて、タイポグラフィーやレイアウトなどの勉強は全くやっていなかったので、会社に入ってから必死で勉強しました。

――電通に入社してから影響を受けた方はいますか。
 なにしろ何も分からない状態で入社して、しかも配属された部署(4CD局)にはスーパースターが大勢いらっしゃったので、影響を受けた人はたくさんいます。中でもサントリーやJR東日本の仕事を当時からずっと手掛けていらっしゃる大島征夫さんのチームに入れてもらい、すごい勉強になりましたし、そこで受けた影響は大きかったです。あとは佐々木宏さんですね。とことんまで煮詰めてやりつくす仕事ぶりなど、多くのことを学びました。

――優れたクリエーティブを生み出すためにこだわっていること、心がけていることは何ですか。
 制作の際にいつも最初に思い浮かべるのは「トーン」なんです。伝えたいことをすごく大きな声で言ったほうがいいのか、囁くように言うのがいいのか、男性のしっかりした声がいいのか、女性の優しい声がいいのかとか、世に出すときのトーンを最初に考えるようにしています。オリエンテーションを受けたときに、まずトーンを最初に思い浮かべて、そこで出てきたイメージを大事にして最後のアウトプットまで生かすようにしています。

――近年のメディアの多様化に伴って仕事のやり方に変化はありますか。
 デジタル機器が普及しても、私の仕事は本質的にはあまり変わっていません。大事なことってあまり変わらなかったりするものです。自身をみても、誤解を恐れずに言うなら、あまり変わらないようにしているようなところもあります。もちろんメディアが変わるにつれて表現手法は変わりますが、変わりゆく環境の中で自分も暮らしているわけで、その変化に振り回されずに、そこに暮らしている自分を信じようという気持ちがあります。世の中が変わったということに対してアクションすることはあまりなくて、むしろ大事なことはもっとその奥にあるものだろうと思っているので、自分の仕事の本質の部分はあまり変わってないですね。

――久保さんにとって新聞や新聞広告はどのような位置づけのメディアなのでしょうか。
 個人的には新聞広告がすごく好きです。デジタルメディアはいつでもどこでもコンテンツを見られますが、なにか画面の奥の方にぼんやりとコンテンツがある感じがします。一方、紙の新聞は実際にそこに存在して、触れられて、質感もある。それが何百万部と刷られて、毎日家に届くというその存在感はデジタルとずいぶん違いがあると思っていて、それは大事にしたほうがいいと思っています。

――その他、新聞の可能性があれば教えてください。
 新聞らしいところで勝負していったほうがいいと思います。小手先で形を変えたり、無理して若い人向けにするよりも、信頼できるメディアとして、世の中で大事なことをきちんと取り上げて、それを上手く伝えていく。ニュースは文字情報ばかりではなく、ビジュアルも大事な要素です。例えば、新聞社は毎日のように写真を撮りますよね。時の人を撮影したり、スクープ写真もあります。それらを普通に記事に添付するだけではなく、上手く紙面で展開できると面白いと思います。新聞自体にニュースがあって、紙面がにぎやかに活性化するとそのメディア自体が「元気」に見えるようになりますよね。広告主もやはり元気なメディアに出稿したくなると思います。

――日本経済新聞についてはどのようなイメージをお持ちですか。
 新聞広告は苦戦しているといわれていますが、日経新聞にだけは出稿しようという広告主も結構います。それはやはり日経はビジネス情報に特化してたり、信頼性や社会的な価値が高かったりということが前提にあると思います。ただ、そんな前提があるメディアなので、広告主は読者にたくさんのことを喋りたがります。でも広告は冗舌になればなるほど驚きがなくなります。僕は、広告を制作するときは、見る人のイマジネーションやインテリジェンスを信じる気持ちを強く持つようにしています。広告主は伝えたいことを一生懸命喋りたいと思うかもしれませんが、あまり喋りすぎるとそれは届かない。日経を読んでいる人も、ビジネスパーソンであると同時に、仕事を離れれば普通の生活者なので、その気持ちに響くということがまずは大事だろうと思っています。

――昨年(2015年)の日経広告賞では、久保さんが関わった三菱電機の広告が最優秀賞を受賞しました。制作の背景を教えてください。
 三菱電機はこれまでもBtoBの技術広告をやっていましたが、なかなか認知が上がらないという課題がありました。ただ、BtoBの技術だとはいえ、消費者の生活の中で同社の技術は本当にいろいろな分野で取り入れられている。そこで「わが社の技術を紹介します」といったビジネス的な目線ではなく、日々生活している読者の身近なところにその技術が用いられていて、それらの製品には必ずユーザーがいるはずだという観点で制作しました。タクシーの運転手や赤ちゃん、水族館のマナティーなど、今までBtoBの世界とは関係ないと思われていた人も、意外と知らないところでユーザーだったんだという気づきを与えられればという狙いです。「技術広告」ではなく、三菱電機とその技術を身近な存在として自分ごと化してもらえるような「企業広告」としての原稿を目指しました。

――今後どのような仕事をしたいと思い描いていらっしゃいますか。
 最近は企画自体が非常にロジカルになってきたように思います。こういうことをやると、こういう人たちに響いて、こういう結果が得られるはずだというロジックで企画を進めるので、コピーにしてもビジュアルにしてもどんどん理詰めなものになってしまっている気がします。そうした視点ももちろん大事ですが、それだとアイデア止まりだと思うんです。僕はやはり情緒とか感性が人の気持ちを動かすと思っていて、そういう部分を大事にしていきたいという気持ちが今まで以上に強くなってきました。なかなか説明しにくい部分ではありますが、一見、無駄な言葉やビジュアルだと思われることが、広告を見る人の「おもしろい」「なんかいいね」につながることも必ずあると思います。実はそれが「表現」だと思うし、アイデアを表現まで昇華させた仕事を目指したいと思っています。

久保雅由(くぼまさよし)氏
クリエーティブ・ディレクター、アートディレクター
1963年東京生まれ、東京藝術大学デザイン科卒、電通4CRP局所属
最近の主な仕事:三菱電機「わたしも、ユーザーです」シリーズ、東京メトロ「メトロは、すすむ。すすめる。」シリーズ、ENEOS「エネゴリくん」シリーズ、ベネッセ「人は、一生育つ」「BenePA」など。
東京ADC賞、ロンドン国際広告賞グランプリ、日経広告賞大賞、新聞広告賞グランプリ、雑誌広告賞グランプリ、JR東日本ポスターグランプリ、ほか受賞。

[ 2月25日掲載 ]

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