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広告手帖

「BUY ME」より「LOVE ME」
企業の人柄が伝わる広告を

クリエイティブディレクター/コピーライター 石川 透氏
Eyepoints

クリエイティブディレクター/コピーライター
石川 透氏

――広告クリエイターになられたきっかけを教えてください。
 僕が学生だった当時はコピーライターが花形で、そんな仕事に就けたらいいなという憧れはありました。電通入社後に受けた社内試験を経てクリエーティブ局配属となると、コピーライターをやれということで、必死に取り組みました。振り返ってみると、僕はもともと言葉やアイデアで人を楽しませることが好きだったので、そんな志向を発揮させてもらえるチャンスに幸運にも巡り合えたという感じです。

――優れたアイデアを生み出すためにこだわっていること、大切にしていることはありますか。
 アイデアを出した後も、本当にこれでいいのか、もっと面白いものはないのかと考え続けるようにはしています。ある程度経験を積んでくると、「だいたいこの辺りが正解かな」といった“感触”が出てくるものですが、これで本当に面白いのかと考え続けるし、チームのみんなにも考えてもらうようにしています。
 モノを売るためというのも広告の一つの目的ですが、それだけではなくて、広告主企業の人格が感じられるものを作りたいと思っています。昔、担当していた広告主の方が、広告のトーンを「BUY ME」ではなく「LOVE ME」にしたいとおっしゃったことをよく覚えています。買ってほしいという態度ではなく、まずはその企業を好きになってもらう。それは売ることにもつながると思います。
 また、多様なメディアを組み合わせて展開する「コミュニケーションデザイン」が注目されていますが、人が広告に向き合うときは、個別の広告に接するわけなので、全体をどんなに上手く練り上げても、一対一で向き合う広告単体でちゃんと人の気持ちを動かすものになっていないといけないと思うんです。コミュニケーションを設計することももちろん大事ですが、胸に響いたり記憶に残ったりするのは、やはり一つひとつの言葉やビジュアルやストーリーです。そういう表現の力は信じていたいと思います。

――近年、メディアが多様化してきた中で、仕事のやり方に変化はありますか。
 SNSによって、広告に対する反響にじかに触れることができるようになりました。好不評問わずいろいろな人の生の声が見えるので、気に留めるようにはなりました。ただ、気にするべきものとそうでないものを見極めなければいけないですね。広告って、ターゲットだけに訴求して、ただモノが売れればいいというものではないと思うんです。関係ない人にどう思われようといいというものでは決してない。直接関係ない人もその広告を見ているわけで、世の中のみんながどう受け止めているのだろうということも念頭に置くべきだと思っています。時に予想外のポジティブな意見を見つけることがあります。そんな意見があると、自分のつくりたかったものがちゃんと届いていると思えるし、逆に勇気をもらえたりします。

――新聞または新聞広告についてどのように捉えていらっしゃいますか。
 新聞広告は一番好きですね。ページをめくったときの手触り感に加えて紙やインクのにおいもあって、五感で感じられるメディアです。また、広告主企業の人柄のようなものがリアルに伝わりやすいメディアだと思います。テレビCMは、そのCMの制作にクリエイターの介在をうっすらと感じさせるものが多いですが、新聞広告はクリエイターというより、企業が読者に直接向き合っている、そんなイメージを抱いています。

――新聞広告を制作するに当たって心がけていることはありますか。
 新聞広告をつくるときは、時代性や社会性、つまり今この世の中はどんな気分なのか、みんなはどう感じているのかをまずは考えます。そこにできるだけエンターテインメント性も加味します。ちょっと知的で楽しめる要素を加えて、読者の好奇心を刺激するような伝え方をしたいと思っています。記事に負けない何かが無いと読み飛ばされてしまうので、ページをめくる手を止めさせる「つかみ」とエンターテインメントを大事にしたいですね。

――日本経済新聞についてはどのようなイメージをお持ちでしょうか。
 日経新聞は広告主企業がどんな人柄、人格なのかを伝えることができる場として捉えています。一般紙はもう少しプロモーショナルな要素が強い。企業の思いや考え方が伝わるような場に最もフィットするのが日経新聞だと思っています。

――昨年(2015年)の日経広告賞では、石川さんが関わった住友ゴム工業の広告が自動車・運輸部門最優秀賞、環境部門最優秀賞・環境大臣賞を受賞しました。制作の背景を教えてください。
 制作するに当たって、もともとダンロップなどの商品ブランドは認知度が高いんですが、住友ゴム工業という社名自体はあまり知られておらず、イメージが弱いように感じました。それこそどんな人柄の会社かというイメージが湧かなかったので、まずは住友ゴム工業という会社に注目が集まるものを作りたいと思いました。そこで、「挑むゴム。住友ゴム」と社名が入ったタグラインをつくりました。「住友ゴムが社会課題に挑んでいく」という意思表示をするものです。読者にどう興味を持ってもらうかについては、商品からではなく、世の中みんなが関心を持っている話題から入ることとしました。しかも、シンプルかつ強いインパクトがあるビジュアルとして、写真と一文字の大きな漢字を用いました。漢字というのは、アルファベットと違って言葉の持つイメージを湧かせやすい文字です。写真と漢字一文字でテーマを感じさせ、何だろう?とボディーコピーの技術の話に引き込むという狙いがありました。新聞広告ならではの表現になったと思います。

――三井住友銀行の広告でも、14年まで3年連続で日経広告賞金融部門の最優秀賞を受賞されています。
 特に、13年9月からのシリーズ広告はコピーに自分を重ねた部分も多く、とても思い入れがあります。テレビCMでは当時デビュー35周年を迎えたサザンオールスターズの皆さんに登場していただいたのですが、新聞原稿では、日本のこの35年の歩みを振り返り、これからも日本のけん引役となる世代に向けてエールを送るようなクリエイティブとしました。この35年というのは、日経新聞の主な読者層が過ごした時代の多くと重なりますよね。そうした世代に対して、インベーダーゲームの流行、スペースシャトルの打ち上げ、千代の富士の活躍、新幹線の進化など、それぞれの年代のトピックを写真と年号で印象付け、「いろいろあったけど、これからも頑張ろう」という読後感の残る広告を目指しました。

――石川さんにとって広告賞とはどういったものなのでしょうか。
 受賞作品を見ると刺激を受けますね。中堅・中小企業でも独自性をアピールしている会社もあって、「こういう会社もあるんだ」と新たな発見があります。そんな会社が世の中にアピールする場にもなっていくことを希望します。
 広告賞は新聞広告のクオリティーを高めるために必要なものですし、新聞広告という文化の保全の意味でもぜひ続けていってほしいと思っています。

石川 透(いしかわとおる)氏
ビルド・クリエイティブハウス チーフクリエイティブディレクター/コピーライター
1985電通入社。2003年ビルド・クリエイティブハウス設立に参加。
最近の主な仕事:三井住友銀行「ひとりひとりが日本代表。」、YKK AP「窓と猫の物語」、NTTドコモ「どこも同じですか。ドコモは違います。」、住友ゴム工業「挑むゴム。住友ゴム」など。日経広告賞、広告電通賞、ロンドン国際広告賞ほか受賞。 目白大学、成城大学で非常勤講師として活動。

[ 3月28日掲載 ]

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