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広告手帖

伝えたいことの“真ん中”をまず考える

ホッチキス
代表取締役社長、アートディレクター 水口 克夫氏
Eyepoints

ホッチキス
代表取締役社長、アートディレクター
水口克夫氏

――クリエイティブの世界に入ったきっかけを教えてください。
 小さい頃から絵が好きで、出身地の金沢の美術大学に入りました。1980年代初め頃ですが、その頃ってアメリカの広告業界がにぎやかだったんです。ニューヨーク州の観光キャンペーン「I Love New York (I ♥ NY)」で有名なグラフィックデザイナーのミルトン・グレイザーやアートでいうとポップアートが全盛で、そんな表現に憧れてこの道に進みたいと思いました。折しも日本でも広告が盛り上がりつつありました。テレビCMやポスターはどんな会社が作っているのかと調べると広告代理店によるものだと分かり、この業界に入ろうと思い立ちました。

――電通に入社されて最初はどのような仕事をされていたのでしょうか。
 1年目はとにかく広告賞に応募するのが一番の仕事でした。幸い朝日広告賞に入選して周りから注目してもらえるようになり、ようやく仕事ができるなと思えたのは2年目からでしょうか。当時そばに佐々木宏さんがいて、とても面白そうな仕事をされていたので、一緒にやらせていただいたり、またJR東海のクリスマス・エクスプレスのキャンペーンを手掛けていた三浦武彦さんに声をかけていただき、チームに入ってグラフィック広告を担当したりしていました。

――アイデアを生み出すに当たって、こだわりや工夫していることはありますか。
 もともと美術畑なので、若い頃はどうしても“絵”を考えるところから始めがちでした。JR東海の仕事だったら、新幹線や駅、夏休みなどのお題から発想してまずは絵を思い描くんです。ただ、絵って漠然としていて連想ゲームのようなものになりがちなんです。それも悪くはないんですが、そうじゃないということにあるとき気づいて以来、その広告で伝えないといけないことの真ん中にある要素をまずは見つけるようにしています。例えば、子供たちが夏休みに田舎に行く、それを新幹線が応援する「ハックルベリー・エクスプレス」という企画があったのですが、そのときにイメージされる子ども、夏休み、新幹線の絵を考えるのではなく、この広告で伝えるべきことの真ん中にある要素、つまり「好奇心」や「冒険心」を表現することが大事だということです。絵ばかり思い描いてもなかなかアイデアって浮かぶものではなく、そういう要素やコンセプトをまず言葉にして、それを絵に置き換えたほうが楽なんですね。その言葉を見つけるのがけっこう大変なんですが・・・。

――メディアの環境が激変している中で、水口さんの仕事の手法にも変化はありますか。
 マス広告しかなかった時代はマスで大きく展開すればそれで十分だったかもしれません。しかし今やマス広告の力が弱くなっているとされており、ウェブなどいろいろな媒体が力を持ってきています。とはいえ僕はやはりマス広告で“真ん中”を作ったほうがいいと思っています。
 少し話がずれますが、NHK大河ドラマ「真田丸」のポスターを作りました。これも、ポスターを作るというオーダーに対して、昔ならきれいなビジュアルでポスターを制作して見る人を引き付ければそれでよかったものが、今はデザイナーがポスターを通して伝えようとするメッセージが明確じゃないとダメだと思います。このケースでは、ポスターに込められたメッセージをドラマの制作現場の人たちにも共有してもらうことが重要で、ポスターを見た制作現場の人たちが、一緒にその方向で頑張ろうと思えるものがないといけないなと思いました。制作現場の人たちに使ってもらえたらと思って「ニッポンに赤い風を吹かせよう!」というコンセプトワードを考えましたが、プロデューサーが「これをみんなの合言葉にします」と喜んでくれて、こちらもうれしかったですね。
 だから僕は、デザイナーやコピーライター、ディレクターが伝えたいメッセージ=真ん中をマスで、この場合だとポスターでしたが、しっかり作るべきだと思っています。さらに、周辺がどう動くかも予想しつつ真ん中を作ることが大事だろうと思います。

――マス広告の中でも新聞広告についてはどのように捉えてらっしゃいますか。
 最近の私の仕事の中では、デーリー東北新聞社の事例が印象的です。創刊70周年を迎えて新聞のデザインや構成を変えたいというお題でした。デーリー東北が発行されている青森県八戸市を中心とした地域は東北の中でも経済的に発展していて、漁業や農業をはじめエネルギー産業も盛ん。そこで月1回第1月曜日に本紙をラッピングする形で、経済に特化した紙面を作ることにしました。家計の財布と世の中の出来事がつながっている、そして日本の地方と世界とが経済面では密接につながっていることを地方から発信することこそ意義があるという思いからです。ただ、経済だからと小難しくはせずに、グラフィカルに、小学生が読んでも理解できるような紙面にして発行しました。
 このように、僕は新聞にはまだまだ上手いやり方があると思っています。新聞業界の方々は新聞をなんとかしなきゃと思っているし、その可能性やヒントをあげれば新聞メディアもまだまだやれると思います。デーリー東北のラッピング紙面のように、取り置いておけば学校の授業でも使えます。テレビの録画とは違って、簡単にその場で手に取って読めるということは新聞の大きな強みだと思います。

――日本経済新聞についてはどのような印象をお持ちでしょうか。
 日経新聞に広告を出すと読者が「この会社元気だな」と思う、この点は大きいです。他の新聞には出さずに日経にだけ出すという広告主も多いように思います。
 日経が良いのは終面に文化面があるところです。他紙の文化面よりも文化的レベルが高いというか、良質な文化に触れることができるという感覚があります。最近金沢の仕事を手掛けることが多いのですが、北陸新幹線が開業して1年が経ち、観光面では好調だといわれます。ただその観光の実態はガイドブックに載っている有名なスポットを表面だけたどるということが多く、その背景にある文化が伝わっていない。自治体の人もそこに気づいていて、きちんと文化を伝えていかなければいけないという課題があり、それは恐らくは金沢だけでない地方都市共通の課題でもあるでしょう。そのときに日経という経済を中心とした新聞が、その文化面にもっと力を入れて地方の文化を紹介することはあってもいいと思います。文化ってもちろん経済とつながっていますし、文化という側面から経済を語っていくことに日経と地方の進化のヒントがあるのではないでしょうか。

――北陸新幹線といえば、その開業を知らせる広告が2015年の日経広告賞旅客・サービス・商社部門優秀賞を受賞しました。制作の背景を教えてください。
 もともと北陸がらみではディスティネーション(観光キャンペーン)と新幹線開業の2つのキャンペーンがあり、ディスティネーションのほうは女優の杏さんが北陸3県の各所に赴くという内容で既に決まっていました。ディスティネーションがタレントを使うので、僕らのチームは、新幹線開業キャンペーンは別の切り口でということで、イラストを使うアイデアを出しました。また、北陸地方につきまといがちな「暗い」「裏日本」というイメージを変えるために、キャンペーンを貫くコンセプトとして「ユーラシア側」という言葉を考え、明るいトーンで定評のあるフランス人アーティストのポール・コックスさんにイラストを描いてもらうことにしました。車両正面のフォルムが笑顔に見えたこともあり、北陸に新幹線が来るというワクワク感を車両の笑顔のイラストで表現しました。

――水口さんにとって広告賞とはどうあるべきだと思われますか。
 評価されたというのは励みになりますし、特に若いときに朝日広告賞の一般応募部門で賞を取れたというのは自信になりました。
 今、広告に興味がないという若い人が増えていると聞きます。かつては広告業界に憧れやキラキラした感じがありましたが、今はそうでもないようです。日経広告賞にも、広告業界を応援する意味で一般応募部門があってもいいのではと思います。メディアが広告業界を盛り上げてくれて、広告業界もメディアを盛り上げるという相乗効果が生まれればいいなと思っています。

水口克夫(みずぐちかつお)氏
ホッチキス代表取締役社長、アートディレクター
1986年金沢美術工芸大学卒、同年電通入社。2003年シンガタ設立に参加。12年Hotchkiss設立。
ADC賞、カンヌ国際広告祭、アジア太平洋広告祭ベストアートディレクション、広告電通賞、朝日広告賞、毎日広告デザイン賞など多数受賞。

[ 5月12日掲載 ]

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