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世界を変えるシン・エネルギー|洋上風力編

洋上風力は
日本の未来を担えるか

島国・日本。天然資源に恵まれず、太陽光や風力など自然エネルギーでも狭い国土では限界がある、と思われてきた。しかし、日本には列島を取り囲む広大な海がある。洋上風力発電は潮風という自然のたまものだ。洋上風力は日本の未来を担えるか。可能性と真価を問う。

スクロール

台風にも負けぬ
 安定送電がカギ

 2030年度の日本で使う電力のうち、政府は36〜38%を再生可能エネルギーで賄うことを目指している。太陽光や地熱、バイオマスなどある中で、今後特に拡大することが期待されているのが風力だ。21年3月の段階で風力発電の導入水準は450万㌔㍗で、30年度には約5倍の2360万㌔㍗まで増やす計画だ。平らな土地が少ない日本では、広大な海を活用した洋上風力発電が切り札になると期待されている。

 先行する欧州ではすでに数千もの風車が海で稼働しており、風車の大型化、大量導入、そしてコスト低減が進む。国内で部品数が数万点にものぼる洋上風力発電設備のサプライチェーンを構築し、各地に風車が導入されるようになれば、経済への波及効果も期待できる。

 全国の海で風力発電に適した区域の洗い出しが始まった。長崎県五島市沖や秋田県能代市沖、千葉県銚子市沖など、すでに洋上風力発電の事業者の選定を進めている地域もある。台風などの日本特有の気象条件や地形に合わせた風車で効率的に発電し、電力の消費地にいかに安定的に送電するか。日本式の洋上風力発電の実現に向けて動き出した。

洋上風力市場は拡大が続く

着床式に浮体式
電力の「産地」 陸から海へ

 自然に囲まれてすっと立ち並ぶ白い風車。全国各地で見られるようになった風景だが、狭い国土に山が多い日本では陸上の風車の設置場所は限られる。風の力をもっと生かすために、期待されるのが海への進出だ。安定した風が吹いていて、二酸化炭素(CO2)フリー電力を安定的に供給できる。

 今年度、Jパワーが北九州市響灘沖で建設に着工するのは、国内初の10㍋㍗級の大型風車が25基並ぶ洋上風力発電所だ。2025年ごろに商業運転を始める見通しで、「日本の洋上風力発電でエポックメイキングな存在になる」(Jパワーの嶋田善多取締役常務執行役員)と期待される。

 響灘沖に設置されるのは、風車の底が海底に着いている「着床型」で、洋上風力発電で先行する欧州でも着実に実績を積んできたタイプだ。ただ、遠浅の海が広がる欧州と違い、日本の海は海岸から少し離れると急に深くなる。着床型の普及に続いて、水深50㍍を超えた海域での活用が期待されるのが、風車が浮かんでいる「浮体式」だ。

 国内で様々な研究開発が進められており、例えば戸田建設は16年に長崎県五島市沖で地域と連携して浮体式1基を実用化した。24年までに8基増設する計画だ。また、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを支援する国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業では、より低コストの浮体式洋上風力発電システムの開発などを後押ししている。

 「洋上浮力発電を再生可能エネルギーの新たな柱にすべく、日本全体で協力していきたい」と戸田建設の大谷清介代表取締役社長は力を込める。

風車の構造

陸上風車 洋上風車(着床式) 洋上風車(浮体式)

Jパワー 嶋田善多 取締役常務執行役員Jパワー 嶋田善多 取締役常務執行役員

洋上から消費地へ
要の海中送電 新技術を磨く

 海で風を受けて回る風車。ここで生み出された電気は、まずは陸地に送らなければならない。そこで活躍するのが日本の送電技術だ。これまでは島と島を結ぶ海底ケーブルが、海の風車と陸地をつないでいた。

 しかし、洋上風力発電が増えればそれだけケーブルも必要になる。古河電気工業では、2025年度までにケーブルの製造能力を17年度比で倍増する計画だ。「カーボンニュートラル実現へ、ケーブルメーカーとしてしっかり貢献したい」と同社の西村英一執行役員はいう。

 次世代の浮体式風車ではケーブルの一部が海中に漂うことになる。風車本体の揺れ、海流、台風が通過した時の海の荒れーー。曲げられ、引っ張られても長期にわたって大容量で高電圧の電気を安定的に送れるダイナミックケーブルの開発が進められている。「立地環境ごとに最適な設計が必要で、まずは日本の海で実績を積みあげ、ケーブルシステム技術を開発し、将来的には海外でも展開していく」(西村執行役員)

 洋上風力発電の適地は大需要地から離れているが、「せっかく作った再エネが制約により供給が制限されないように、生産地と消費地をつなぐ系統が必要だ」(Jパワーの嶋田善多取締役常務執行役員)。政府も系統整備について議論を始めた。風の力を日本中で生かせる環境は整いつつある。

布設場所まで運ぶために、船の上のターンテーブルに海底ケーブルを巻き取る形で船積みをする。 布設場所まで運ぶために、船の上のターンテーブルに海底ケーブルを巻き取る形で船積みをする。

古河電気工業 西村英一 執行役員古河電気工業 西村英一 執行役員

地域との共生
育んだ知恵 世界の海へ

 「今日も回っているね」。2016年に長崎県五島市の崎山沖で実用化された日本初の浮体式洋上風力発電施設。直径80㍍の大きな羽が回る2㍋㍗級の風車だ。これまで視察で約8000人が訪れており、地域のシンボルになっている。

 再生可能エネルギーの拡大に力を入れている五島市では、洋上風力発電だけではなく陸上風力発電や太陽光発電、潮流発電などのプロジェクトにも取り組んでいる。人口約3万5000人のこの市で使う電力のうち、半分強に当たる約9万3000㍋㍗時を再エネで供給している。24年までに洋上風力発電施設を合計8基増設する予定で、使用電力の8割を再エネで賄えるようになる見通しだ。

 だが当初は「海のものとも山のものとも分からないもので、地域に受け入れられなかった」と五島市役所総務企画部未来創造課ゼロカーボンシティ推進班の川口祐樹主査は振り返る。影響を受ける漁業者の理解を得るために東京に出向くこともあった。「最終的には、地域の方が日本の役に立てるのであれば協力したいということになった」(川口主査)

 「地域再生にも貢献していきたい」(浮体式を実用化した戸田建設の大谷清介代表取締役社長)。風車の浮体下部のコンクリートの部分は五島市内で、上部の鉄の部分も長崎県内の鉄工所で製造した。風車のメンテナンスは、陸上の風車のメンテナンスを請け負っている地元企業が併せて担当している。

 どう役割分担して安全かつ効率的な洋上風力発電を実現していくか、五島市の取り組みは「みんなの海」を活用する1つの道筋を示した。欧州でも着床式に続いて浮体式を導入する動きが出てきており、アジアの海にも浮体式が広まっていく可能性がある中で、九州の海で蓄積されたノウハウは世界の海で生かされる。

保進区域、有望な区域等の査定・整理状況

戸田建設 大谷清介 代表取締役社長戸田建設 大谷清介 代表取締役社長