日本の宇宙ビジネスに貢献する
スカパーJSAT

メディア事業だけでなく宇宙事業に取り組み、多数の衛星を運用するスカパーJSAT。衛星通信事業者の根幹ともいうべき衛星管制センターを取材した。

17機の衛星を保有
アジア最大の事業者

スカパーJSATは、17機の衛星を保有するアジア最大の衛星通信事業者であり、サービス提供範囲は、アジア太平洋地域を中心に世界の大部分をカバーしている。中核事業であるメディア事業の放送電波の送信をはじめ、船舶や航空機へのネットサービス、災害対策などの幅広いサービスを提供している。

サービス提供に欠かせない衛星を管制する中心的な拠点が、神奈川県横浜市にある「横浜衛星管制センター(YSCC)」だ。1989年に同社初の通信衛星「JCSAT-1」が打ち上げられたが、その2年前の87年から稼働を開始した。現在では運用する衛星を365日、万全の体制で管理している。

横浜衛星管制センター(YSCC) 横浜衛星管制センター(YSCC)

約1万㎡の広大な敷地には、直径4m以上の大型アンテナが29基立ち並ぶ。
運用対象は日本上空にある静止軌道衛星12機と低軌道衛星1機

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監視技術を合理化
横浜衛星管制センター

今年3月、YSCCの関係者向け見学ツアーが開催された。YSCCは、大きく2つのエリアに分かれている。1つは衛星の状態監視と軌道調整を行う「YSCCサテライトポート」だ。管制室では、衛星が発信する自身の状態情報「テレメトリー」の監視および、衛星の軌道上の位置調整を行う。24時間体制のシフト制業務で、時間帯ごとの管制員はわずか2~3人と、合理化された監視技術に見学者は驚きの声を上げた。

もう1つのエリア「YSCCテレポート」では、同社が運用する衛星通信を利用したサービスシステムおよび、電波品質の管理を行っている。回線運用部では、海外の顧客対応のために英語が堪能な担当者が常駐するなど、世界的な需要の高さがうかがえた。

また、拠点の安定運用にも力を入れている。YSCCテレポートエリア内の地下に、巨大な非常用発電燃料タンクを増設。6万㍑の燃料が備蓄され、万一災害などが起こり電力が遮断されても約2週間の運用が可能だ。再生可能エネルギーへの切り替えなどで、環境負荷低減にも取り組んできた。

同社はYSCCを拠点として、衛星データを活用したソリューション開発、光通信技術の研究開発、宇宙ゴミの除去など、未来を見据えた事業を展開してきた。同社宇宙技術本部の石毛佑季氏は「30年以上、YSCCで培ってきた衛星の管制、運用などの技術を、新たに宇宙を目指す企業の皆様に活用してもらいたい」と語る。

スカパーJSATが民間独自で切り拓いてきた技術や経験が、今後の日本そして、世界の宇宙ビジネスを支え、発展に導くだろう。

YSCC見学ツアー

YSCC見学ツアー参加者は衛星運用について説明を受け、
管制員がモニターを監視する様子なども目にすることができた

重要性増す衛星運用管理

神武 直彦 氏

神武 直彦 氏
慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科
教授

衛星は日常生活に欠かせないインフラとなった。地球上どこへでも通話やインターネット接続を提供する通信衛星はデジタルデバイド(情報格差)を解消し、測位衛星はスマートフォンなどのナビゲーションや時刻補正に活用されている。災害対策や農業生産の安定化などの社会課題解決にも衛星が利用されている。近年は衛星の数も質も飛躍的に向上し、そこから得られる多様な衛星データを活用した共創のフェーズに突入した。スカパーJSATが取り組む衛星の運用管理は、ますます重要性を増していくだろう。

宇宙ビジネス羅針盤 Vol.04 月面ビジネス

宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。

月面利用へ民間の参入加速

2024年1月20日、日本の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」がミッションに成功しました。他にも有人月面着陸を目指す「アルテミス計画」、日本とインドが共同で挑む「月極域探査ミッション(LUPEX)」など、月関連のプロジェクトが進められ、月面ビジネスに注目が集まっています。

月面に関する市場では、研究者や民間人を月まで運ぶ打ち上げサービスなどの月輸送、月面で活動する上で欠かせない月データ・宇宙資源の活用が期待され、他にも通信、自動車、建築・インフラ、旅行、農業などへ分野が拡大。コンサルティング大手PwCによると、2040年までに市場規模は1700億ドル(約25.6兆円)に上ると試算されています。「SLIM」搭載の「SORA-Q」を開発したタカラトミーをはじめ、自動車、建設、食品、保険などの民間企業が宇宙事業に進出。参入を検討する企業は100社を超え、今後も拡大するでしょう。

民間主体で月面産業を創造していくことで、従来の官主導から民主導への転換が進み、宇宙開発事業でのイノベーション創出が期待できます。

月面ビジネスのイメージ
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FRONTLINE

月面着陸に成功した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月着陸実証機「SLIM(スリム)」。100㍍精度のピンポイント着陸を世界で初めて達成し、これまでより軽量な月惑星探査機システムを実現した。小型プローブにより自機の写真を撮影して地球へ転送。着陸時の飛行データ取得や、月面の詳細な観測も成し遂げた。

月面画像

変形型月面ロボット(LE V-2)「SORA-Q」が撮影・送信した月面画像
©JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学

宇宙ビジネス羅針盤 Vol.03 ダイバーシティー

宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。

多様な人材 発展のけん引役に

宇宙産業の国内市場規模は10年後に約4兆円に達すると予想され、衛星や地上設備から観光、衣食住など、その裾野は確実に拡大しています。また必要な人材は、宇宙飛行士やエンジニアはもちろん、宇宙服デザイナーや天文台ガイド、宇宙関連企業の広報など多岐にわたります。

市場の裾野が広がってきたからこそ重要なのは「ダイバーシティー(多様性)」。宇宙産業では、過酷な宇宙環境を想定した新たな発想力や、月などへの長期滞在を想定した場合の女性ならではの視点など、理系文系隔てなく各分野を横断したアイデアを結び付ける必要があり、多様なグローバル人材が欠かせないといえます。

宇宙ビジネスが多様な人材を受け入れる鍵は教育にもあります。科学、技術、芸術などを横断的に学ぶSTEAM教育は、宇宙教育の観点からも注目されており、国や教育機関もグローバル人材の育成を推進しています。教育とダイバーシティーがつながることで、今後も持続的な宇宙産業の成長、発展に期待できます。

宇宙で活躍する多様な人材
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FRONTLINE

「宇宙を身近な存在に」をテーマとした女性中心のコミュニティーが「コスモ女子」だ。女性が宇宙業界で活躍できる場を増やすことを目的に、2020年春に立ち上げられた。宇宙に関する専門的な勉強会や、第一線で活躍する宇宙プレーヤーを招いたイベントの開催など幅広く活動。宇宙に興味を持つ女性のキャリア形成や、ビジョンの実現を応援している。

コスモ女子 ロゴ

「コスモ女子」の活動について知ることができるオンラインイベント「meet up」は、
毎月第3月曜日に開催されている。
©株式会社Kanatta

宇宙ビジネス羅針盤 特別編 衛星データ活用術 ラグビー × 衛星データで
ケガを防ぐ

衛星データを様々な分野のビジネスに役立てる取り組みが活発化している。宇宙システムを用いた数多くのプロジェクトを手がける神武直彦氏に、ラグビーと畜産への活用事例について聞いた。

神武直彦 氏

神武直彦
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。大学院修了後、宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)入社。2009年より現職。日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス戦略部アドバイザーなどを歴任。慶応キッズパフォーマンスアカデミー代表

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地球を周回する人工衛星の数が急速に増え、天気予報や災害監視、衛星放送といった様々な目的で利用されています。その中で皆さんにとって最も身近な人工衛星の一つは、米国の全地球測位システム(GPS)や日本の準天頂衛星「みちびき」に代表される測位衛星でしょう。ほぼ全てのスマートフォンには測位衛星からの電波を受信する機能が付いていて、皆さんは行きたい場所への検索やナビゲーションを行うことができます。

陸上競技やサッカー、ラグビーなどの屋外スポーツでも測位衛星は利用されています。例えば、つい先日まで開催されていたラグビーW杯では、各選手のジャージの背中上部あたりに測位衛星受信機が装着されていました。それによって選手の動きや体への負荷を把握できるので、戦略の立案やケガの予防、個々に合わせたトレーニングメニューの作成などが可能になります。この取り組みは、日本代表やプロチームだけではなく、学生・地域スポーツでも徐々に取り入れられつつあります。また、国内外で行われている放牧において、牛の運動量や場所の把握、体調管理に活用されるという新たな広がりも生まれてきています。

衛星データの活用先

Project Recipe

ラグビー編

<材料>

► 練習や試合時の選手に装着したGPS(GNSS)受信機を介して得られる測位衛星の信号からの緯度・経度・高度・時刻データ

► 練習や試合時の選手の動きを撮影した映像データ

<調理方法>

► 選手ごとの緯度・経度・高度の変化を時刻データによって分析することで速度や加速度を算出し、選手の動きのスピードや、動き出しの速さを数値やグラフで表示(相手よりもいかに速く、優位なプレーにつなげることができるかの分析と練習メニューへの反映、戦略立案に活用)

► 分析結果を取りためた練習や試合時のデータから、選手ごとに一定期間のトレーニングの負荷を算出し、数値やグラフで表示(腿裏やふくらはぎへの負担によるケガを予防するなどトレーニング負荷のコントロールに活用)

► 上記のデータと映像データを組み合わせて表示(実際の練習や試合時の動きと、そのときの数値を対応付けて確認)

宇宙は創造の空間

1992年9月12日、毛利衛さんは日本人として初めてスペースシャトルに搭乗し、宇宙に向かった。それから30年。多くの日本人宇宙飛行士が宇宙滞在を経験し、民間の宇宙ビジネスも急成長を始めている。これからの宇宙開発、そして宇宙産業に期待することは何か。毛利さんの初フライトを記念して制定された「宇宙の日」に合わせて、話を聞いた。

宇宙飛行士 毛利 衛 氏 Interview
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喜びよりも次につなぐ責任感

1983年にスペースシャトルに搭乗する初の日本人宇宙飛行士の募集がありました。日米共同実験プロジェクトのテーマはFMPT(第1次材料実験)。大学で宇宙のような超高真空空間を再現したチェンバーを使い、核融合や材料の表面解析などの研究をしていた私は、宇宙空間そのもので実験ができないことにもどかしさを感じていたこともあり、夢を実現できるチャンスと捉えてこれに応募しました。

85年に私を含む3人が選考を通りましたが、一番年長で、プロジェクトに一番近い材料研究者でもある私が最初の一人に選ばれるだろうと感じていました。しかし、直後のチャレンジャー号の事故で、いつ宇宙に行けるのか分からなくなり、全国の研究機関を巡り、訓練を続ける日々となりました。私が本当に選ばれるのか分からない状況のまま、オリンピックの最終選考に臨むような思いで、米国での訓練を経て、日本に帰国。打ち上げ予定一年前の90年に最終決定が下されました。

もちろん個人的にはうれしかったのですが、後に続く2人に有人宇宙飛行のチャンスを確保するためにもプロジェクトを成功させなければいけないという責任感の方が強かったと思います。宇宙服の両肩にはそれぞれ日の丸と星条旗が付いています。米航空宇宙局(NASA)のミッションに協力し、成功に導くことに注力しました。

さらに燃料タンク漏れのトラブルもあり、実際に宇宙に向かったのは92年9月12日でした。NASAの搭乗訓練は素晴らしく、打ち上げ直前には、必ず大成功すると確信を持つほどの自信をつけてくれました。ところがミッション初日にいきなり、電気炉の冷却水が水漏れを起こすトラブルに見舞われました。喜びが一気に吹き飛び、日本の実験がすべてだめになる、次につなげることができないのでは、と宇宙で恐怖を感じたのを覚えています。

日本語で世界初の宇宙授業

宇宙と地上とで図面を合わせながら修復作業に取り組み、2日目には何とか水漏れを止めることができました。結果的に5つの電気炉で半導体関連を中心に34の実験テーマに取り組むというミッションをすべて成功裏に終えることができました。

それ以上にうれしかったのは、宇宙からNASAのプログラムとして初めて日本の子供たちに向けて宇宙授業ができたことです。宇宙の公用語は英語のみですが、この時初めて日本語で話すことができました。私の宇宙からの映像を見てワクワクしている子供たちの様子が忘れられません。私の宇宙飛行が後に続く若者に影響を与えたこともうれしいことです。その多くの一人として、宇宙ゴミ除去のアストロスケールホールディングスを創業した岡田光信氏がいます。起業したきっかけも私が書いた「宇宙は君の活躍するところ」という色紙だったそうです。

宇宙からの帰還後、有人宇宙活動推進室長に就任しました。私自身が最初に宇宙に行った際は「ペイロードスペシャリスト」という資格でしたが、国際宇宙ステーション計画に本格的に参画するには宇宙飛行士として様々な活動に従事できる「ミッションスペシャリスト」を増やす必要があると考えました。責任者である私も資格を取得する必要があると考え、98年に取得。2000年には再びスペースシャトルに搭乗し、レーダーで地表の凹凸を観測し、高精細な3次元データを整備するSRTMというミッションを担当しました。宇宙のビジネス利用が盛んになるきっかけとなったミッションにかかわることができたことがとても幸運だったと感じています。

宇宙開発で地球の持続性を

こうしたデータ収集はアメリカ国家の利益のためだったのですが、14年に米オバマ大統領が詳細なデータを無料で民間に開放したことが起点となり、宇宙ビジネスが一気に加速します。軍事に使われていたテクノロジーが民間に開放されることで、ビジネスが活発化するというオープンデータイノベーションのお手本を米国が示してくれたのです。日本でも「Tellus(テルース)」と呼ばれる衛星データプラットフォームの整備が進んでいますが、データを増やし、無料で民間の使い勝手を高めることが重要です。

地球上の人口が指数関数的に増え続けている中、人類は持続的に生き残れるかどうかの岐路に立っています。宇宙開発は人間を含む地球生命を持続的に守るためにあるのです。かつて色紙に書いていた「宇宙は創造の空間」という言葉を改めて伝えたいと思っています。

着陸後関係者に手を振る毛利衛宇宙飛行士。1992年9月20日(日本時間)©JAXA/NASA

着陸後関係者に手を振る毛利衛宇宙飛行士。1992年9月20日(日本時間)
©JAXA/NASA

エンデバー号着陸(ケネディ宇宙センター)©JAXA/NASA

エンデバー号着陸(ケネディ宇宙センター)
©JAXA/NASA

宇宙の日 30年史

エンデバー号の打ち上げ

エンデバー号の打ち上げ 1992年9月12日10時23分(現地時間)
©JAXA/NASA

30年史

人工衛星の進化 市場を拡張

人類初の人工衛星が宇宙に飛び立ってから65年。人工衛星は進化を続け、活躍の場は通信や放送、位置情報にとどまらない。地球の状態を精緻に観測できるようになってきたことで、幅広い分野に及ぶ。近年では人工知能(AI)技術との高い親和性により、用途は加速度的に増加している。宇宙ビジネスをけん引する人工衛星の現状を探る。

技術試験衛星9号機(ETS-9)

技術試験衛星9号機(ETS-9)
商用衛星市場でシェアを獲得すべく開発されている技術試験衛星。宇宙産業や科学技術基盤の維持・強化を目的とし、25年に打ち上げが予定されている。
©JAXA

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技術革新で参入企業増加

衛星ビジネスをめぐる環境は大きく変化している。宇宙産業は莫大な費用がかかるため、これまで参入は各国の政府機関、一部の大企業に限られていた。しかし、技術革新による人工衛星の小型化・高性能化が可能となったことにより、製造・打ち上げにかかるコストが大幅に減少。政府によるスタートアップ補助金や、衛星の打ち上げを金銭的に補償する宇宙保険の登場もあり、新規企業が参入しやすい環境が整った。

現在、国内には宇宙スタートアップは100社近く存在している。様々な宇宙プレーヤーの登場が共創を呼び、ビジネスの広がりが期待されている。

広がる活躍の場

軌道上から見渡した情報を提供する衛星データは、リモートセンシング(対象物に触れずに形や性質を計測する技術)により、農作物の生育予測や魚群探知、災害リスク測定まで活用の場が広がる。また、環境保護への貢献も期待されている。2009年に打ち上げられた「いぶき」は温室効果ガス観測技術衛星で、世界各地の温室効果ガス濃度分布を観測可能だ。いぶきが収集したデータは各国に無償で配布され、地球温暖化対策に役立てられる。人工衛星は地球の未来を守る重要な役割を担っている。

次世代通信 実装進む

技術革新を背景に、複数の小型衛星を一体的に機能させる、衛星コンステレーションが注目を集めている。地球近くを周回する低・中軌道の非静止衛星を使用するため、静止衛星と比較して低遅延・高速通信が可能だ。また、地表を網羅するように配置されることで、世界全域の陸海空でサービスを受けられる。すでに米国のGPSを代表に、社会に不可欠なインフラとして存在している。

国内では測位に役立つ準天頂衛星システム「みちびき」や、通信ではハイスループット衛星通信技術の確立に向けた技術試験衛星9号機(ETS-9)などがインフラとして整備が進められている。拡大を続ける宇宙ビジネス。人工衛星が人類を次のステージへ導くに違いない。

国産衛星測位システム確立へ

位置情報サービスの提供を目的とし、日本・アジア太平洋の上空で稼働している準天頂衛星システム「みちびき」。日本のインフラとして整備が進められ、現在4基が稼働中だ。センチメートル級の高精度な測位が可能であり、測量や自動走行、ドローンなど活用の場は幅広い。25年には7基体制での運用を予定。実現すれば他国の人工衛星に頼らない位置情報取得手段(RNSS:地域的衛星測位システム)を確立できる。

準天頂衛星初号機「みちびき」衛星CG

準天頂衛星初号機「みちびき」衛星CG
©JAXA

衛星データの活用事例

衛星データで地上を守る
スカパーJSAT

スカパーJSATは、衛星データを地上で活用するソリューションビジネスを展開している。
スペースインテリジェンス事業部に話を聞いた。

アジア最大級の衛星通信事業者

スカパーJSATは、16基の静止衛星を保有・運用するアジア最大級の衛星通信事業者だ。その事業領域は2つに分けられる。一つが有料多チャンネル放送「スカパー!」を運営するメディア事業。もう一つが宇宙事業だ。航空機や船舶へのインターネット接続環境の提供、映像の伝送、災害時のバックアップ回線など、幅広い通信サービスを展開する。今後、同社初のフルデジタル通信衛星の打ち上げも予定しており、日本をはじめとする東アジア地域における一層の事業拡大と競争力強化を目指している。

従来の衛星通信事業にとどまらない、新しい事業領域への取り組みにも積極的だ。2018年にはスペースインテリジェンス開発部(当時)を設置した。国内外の低軌道衛星事業者が運用する地球観測衛星のデータを取得し、解析・活用したサービスを提供する。近年、低軌道に多数の衛星が打ち上げられ、得られるデータソースが大幅に拡充した。そこに同社が保有するデータや、独自のAI技術を組み合わせ、操作性を高めたアプリケーションとして届けることがミッションだ。

宇宙とメディアの2本柱で、事業領域を拡大。社会と会社の持続的成長を目指す。

宇宙とメディアの2本柱で、事業領域を拡大。社会と会社の持続的成長を目指す。

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広範囲の災害リスクを可視化

同社は22年に、企業・自治体向けのサービス「LIANA」(リアーナ)の提供を開始した。衛星データの活用により、斜面やインフラの変動量をミリメートル単位でモニタリングし、予防・保全をサポートする。LIANAは3社が提携して提供する。衛星データをスカパーJSATが独自のアルゴリズムで分析し、変動量などをゼンリンの地図上に表示。総合建設コンサルタントである日本工営が、解析箇所への提案やリスク評価を行う。

解析に用いるのは、合成開口レーダー衛星(SAR衛星)が取得したデータだ。SAR衛星は雲を透過し、太陽光が必要ないマイクロ波を利用するため、天候や時間に関係なく観測ができる。用途としては地震や津波など災害に備え、斜面や盛り土などの土構造物を監視する。また社会課題である老朽化インフラについて、改修時期を判断する際に活用できる。広範囲のリスクを可視化することで保守作業を省力化。労働力不足の解消にも寄与する。「LIANA」は、国内のみならず海外展開も視野に入れている。

スカパーJSATでは、従来の通信事業に力を入れながら、宇宙分野の新技術活用と事業領域拡大を目指して、2030年までに1500億円以上を投資予定だ。業界の垣根を越えた共創が、宇宙ビジネスの進化を加速する。

ユーザー画面イメージ

ユーザー画面イメージ。斜面の赤は隆起傾向、青は沈下傾向を表す。
時系列で変動傾向を示し、危険度を評価する。

「アマテル-III」衛星によるSAR画像(横浜)

「アマテル-III」衛星によるSAR画像(横浜)。
民間SAR衛星で国内最高の分解能・画質を誇る。
©iQPS.inc

宇宙ビジネス羅針盤 Vol.02 宇宙教育

宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。

人材育成は発展の柱

大幅な成長が予想される宇宙産業では今後、多くの人材が求められます。日本で航空宇宙産業に携わる人材が約8500人(2020年)であるのに対し、40年代後半には少なくとも16万人以上の人材が必要になると宇宙政策委員会は試算します。これまでの宇宙産業は、政府主導のもと、大型ロケットなどの研究開発を軸に発展してきました。しかし今後は、民間企業による参入の加速、月面を含む人類の活動領域の拡張などにより、産業の拡大と多様化が急速に進みます。そこでは、あらゆる産業分野から優秀な人材を呼び込み、育成することが不可欠となります。

そこで今、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は学校や地域と連携した教育支援活動を実施し、大学は宇宙産業界で活躍する人材育成に力を入れています。人材の流動性を高め、より戦略的な人的基盤を確保するには、各機関の連携によるコミュニティー強化も重要です。

これらの取り組みを通じて多くの人材を育てることが、今後の宇宙産業のさらなる発展につながるのです。

宇宙教育のイメージ
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FRONTLINE

JAXAは、05年に宇宙教育センターを設立。小中高校生を対象とした独自の授業や、学校教員、指導者の育成・支援などを行っている。宇宙開発フォーラム実行委員会(SDF)は、法律やビジネスなどの文科系的な視点が今後の宇宙開発にとって不可欠であるとし、様々な分野の学生や社会人が集うフォーラムの開催などを通じた啓発に取り組む。

宇宙開発フォーラム2022の様子1
宇宙開発フォーラム2022の様子2

昨年9月に開催された「宇宙開発フォーラム2022」の様子
©宇宙開発フォーラム実行委員会

月面産業革命
好機をつかめ

日本の月への挑戦が再始動する。8月26日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型月探査機「SLIM(スリム)」などを搭載したロケット「H2A」47号機が打ち上げられる。豊富な資源の存在が明らかになり、2040年代には民間開発の爆発的な加速が起こると見られる月面。人類の新たな時代を切り拓く可能性が秘められている。

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民間が大転換の起爆剤に

「日本は宇宙開発において、大いに活躍できるだろう。高い品質の維持と低コスト化の両立を実現するには、日本のものづくりの力が不可欠だ」。ハーモニック・ドライブ・システムズの清澤芳秀フェローは、このように語る。

宇宙産業が目覚ましい成長を遂げる中、次世代の発展の鍵として注目されるのが月だ。各国が月面開発を加速させる背景には、月の価値の急上昇がある。月面での資源開発が現実化しつつあるのだ。実は約50年前のアポロ計画以降、人類が着陸機を月面に送り込んだ回数はごくわずかで、月には未知の点が多い。しかし、近年の探査は、豊富な水資源の存在を明らかにした。さらに、太陽光パネルの素材となるシリコンや、未来の発電エネルギーを担う希少元素、ヘリウム3が多く存在することも分かってきた。これらの資源をエネルギーとして利用すれば、地球からではなく、月面から地球周回軌道上に向けた、より低コストな物資輸送を実現できる。

注目すべきは、「月面産業革命」と呼ぶべき大転換が起こり得ることだ。米国によるアルテミス計画や中国による嫦娥(じょうが)計画等、現在の月面開発の多くは国家主体で推進される。しかし、官民の相互連携によって、2030年代に民間活動が拡大。40年代に民間が主導する開発の爆発的な加速が起こると予想されている。月が従来の宇宙開発の主戦場である地球周回軌道と大きく異なるのは、重力と地面を持つ天体であることだ。様々な産業の技術やアセットが投入され、有人滞在拠点の建設、資源探査等の活動が進む。やがて月面で創出された産業とエコシステムは、月と地球の生存圏・経済圏が一体となった新たな時代を生み出す—— 。

イメージ

*月面産業ビジョン協議会「月面産業ビジョン協議会 —Planet 6.0時代に向けて—」を参考に、一部を加工・追記して作成

日本の強みを生かせるか

宇宙先進国である日本にも注目が集まる。日本政府による月面開発・利用の年間予算は140億円(20年)で、米国の9200億円(21年)の2%にも満たない。一方で、月輸送分野における日本のシェアは30年代後半に中国を抜き、米国に次ぐ世界第2位に成長するとPwCコンサルティングは試算する。日本の強みは、既存産業の裾野が広く、各産業が競争力の高い技術を有する点だ。さらに、建設、自動車、食品、保険等の様々な分野の企業が月面開発に取り組み始めており、その数は100を超える。世界的に見ても群を抜く水準だ。

これまで数々のフロンティア開拓で諸外国の後塵(こうじん)を拝してきた日本。この新しい産業領域におけるリーダーシップ発揮の分水嶺は、官民の適切な役割分担やルールの整備をいち早く進め、民間の参入を加速することにある。

月面輸送における打ち上げサービス購入額 予想

宇宙ビジネス羅針盤 Vol.01 スペースポート

宇宙ビジネスは、技術の進化や民間の参入加速により、めざましい発展を遂げています。
今後のさらなる成長の鍵を握るトピックを、シリーズで紹介していきます。

人をつなぐ新たな拠点

スペースポートと聞いて何を連想しますか——。中にはアニメや映画で見たフィクションの世界を思い浮かべる方もいるかもしれません。

しかし今、急増する人工衛星の打ち上げや、探査・輸送を担う宇宙産業の重要拠点として、各国が整備を加速させています。日本では、アジア初の民間向け商業宇宙港として北海道スペースポート(HOSPO、北海道大樹町)が2021年に開港したほか、スペースポート紀伊(和歌山県串本町)、下地島空港(沖縄県宮古島市)などが宇宙旅行向けの拠点を目指しています。周辺には今後、企業の研究開発拠点、国際会議や展示会といったMICE、ホテル・商業施設や観光イベントが集積。経済効果を年100億円規模とする米国の試算もあり、地方創生の観点からも期待が高まっています。

地球上のあらゆる場所を1時間以内で結ぶ「宇宙旅客機」は、早ければ30年代にも実現すると予測されています。宇宙の玄関口が日常生活とつながる少し先の未来。世界で最も遠い場所とは、スペースポートのない都市を指すことになるのかもしれません。

イメージ
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FRONTLINE

スペースポートは、将来的に宇宙輸送のハブとしての役割を期待されています。宇宙と地球の境界とされる高度約100kmを飛ぶ「サブオービタル飛行」。これを含む様々な飛行法により、地上を短時間で移動する二地点間高速輸送は、2040年に日本の発着だけで5.2兆円の市場を生み出すと文部科学省は試算しています。

スペースウォーカー(東京・港)のサブオービタルスペースプレーン

スペースウォーカー(東京・港)のサブオービタルスペースプレーン
*写真はイメージ
©SPACE WALKER

北海道スペースポートの完成予想図

北海道スペースポートの完成予想図
*写真はイメージ
©SPACE COTAN

挑み続ければ道は拓かれる

宇宙ビジネスは、限られた企業のものではない。
衛星データの利活用は、地球上のあらゆる産業領域で拡大している。
月面探査や資源開発、輸送から宇宙旅行まで——
宇宙が身近にある未来は、目前に迫っている。

5月掲載内容

人類のイノベーションは、
いつの時代も未知への挑戦から始まる。

探査機「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ」。
その名前の由来となった
「宇宙開発の父」故糸川英夫博士は、
1955年に戦後初のロケット実験に挑んだ。
戦後復興の乏しい中、試行錯誤の末に造り上げた
「ペンシルロケット」の全長は23cm。
試射は成功を収めた。

それから約70年。
不断の努力は、
日本の宇宙産業に目覚ましい発展をもたらした。
今や宇宙ビジネスは、医療や農業、林業、漁業など
あらゆる領域に広がり、私たちの生活を支えている。
人類が生み出してきたイノベーションの歴史とは、
すなわち挑戦の歴史だ。
長い時間の中で、実現を疑問視する
多くの声もあったに違いない。
しかし、挑まなければ、変化は起こらない。

大切なのは、けっして諦めないことだ。
成功までの険しい道のりへ挑む人々とともに
未来への歩みを進めよう。

宇宙開発は「競争」から「共創」へ
一般社団法人 クロスユー 設立

一般社団法人 クロスユー 設立

(左から)三井不動産取締役専務執行役員 植田俊氏、同・代表取締役社長 菰田正信氏、クロスユー理事長 中須賀真一氏、JAXA理事長 山川宏氏、クロスユー事務局長米津雅史氏

2月13日に日本橋三井タワーで、三井不動産による「宇宙領域の産業創造に関する記者説明会」が行われた。
会見の中で同社は、新法人クロスユー(東京・中央)の設立を発表。
日本橋を拠点に、宇宙産業領域の活性化と共創の加速に取り組むという。

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  • 菰田 氏

    菰田

  • 植田 氏

    植田

  • 中須賀 氏

    中須賀

  • 山川 氏

    山川

  • 米津 氏

    米津

日本橋を起点に産業発展

三井不動産は、2022年9月にクロスユーを設立し、4月より宇宙産業におけるオープンイノベーションの推進に向けた活動を本格始動する。同社は、「日本橋再生計画」の重点戦略に「産業創造」を掲げる。「場」の提供や「機会」の創出によるビジネスマッチングのほか、産官学によるサポート体制の提供を通じて、日本橋を起点とした産業発展を目指す考えだ。

宇宙分野においては、2019年より「X-NIHONBASHI(クロス・ニホンバシ)プロジェクト」を主導。日本橋には宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめ、30社以上の宇宙企業・団体が集まり、国内外の宇宙関係者が主催するイベントの累計来場者数は4万人を超える。日本橋は、宇宙産業の集積地として生まれ変わりつつあるのだ。

三井不動産社長の菰田正信氏は、「日本全体の産業競争力の強化のほか、地球上の社会課題の解決にも繋がる」と宇宙産業の意義を説明。また「産官学の垣根を越えた協力が産業の発展を促す。イノベーションには、人間関係の構築や交流のためのリアルな場が不可欠」とし、三井不動産とクロスユーの活動を通じて、産業コミュニティーの構築やエコシステムの活性化を今後も全面的に支援していくという。

6本目の街道は宇宙へ

クロスユーの設立に先立ち、三井不動産は2016年にLINK-J(東京・中央)を設立した。その目的は、江戸時代に薬種問屋が軒を並べ、今でも多くの製薬系企業が集う日本橋の地の利を生かし、ライフサイエンス領域でのオープンイノベーションを促進することだ。同社取締役専務の植田俊氏は、日本橋が起点とされる五街道に加えた新たな6本目の街道を「宇宙に繋げたい」とし、LINK-Jを通じて培った産業デベロッパーとしてのノウハウを、宇宙領域にも応用していく考えを示した。

クロスユーの理事長を務めるのは、東京大学大学院工学系研究科教授の中須賀真一氏。中須賀氏は、「現代の宇宙事業において重要なのは、競争ではなく共創だ」と述べた。アポロ11号が人類史上初めて月面に着陸したのは、今から約50年前にあたる1969年7月20日。当時の宇宙開発は、アメリカと旧ソ連による、国の威信をかけた競争のもとで進められた。

一方、現代の宇宙開発においては、民間の果たす役割が大きい。2022年12月11日にアメリカのスペースXのロケットによる打ち上げに成功し、月面着陸を目指すispace(東京・中央)の月探査プロジェクトはその最たる例だろう。

日本橋には「X-NIHONBASHITOWER」と「X-NIHONBASHIBASE」の2つの宇宙ビジネス拠点が設置され、既にJAXAやispaceが居を構える。

日本橋には「X-NIHONBASHI TOWER」と「X-NIHONBASHI BASE」の2つの宇宙ビジネス拠点が設置され、既にJAXAやispaceが居を構える。

非宇宙の参入が発展を促進

中須賀氏は、「世界の宇宙産業は年率5%で成長を続け、2050年の市場規模は200兆円に達すると予測される。その50%は、非宇宙企業が生み出す付加価値によるもの」と説明。様々な非宇宙企業による参入が、宇宙産業発展の推進力になると強調した。

来賓として登壇したJAXA理事長の山川宏氏は、JAXAとクロスユーが2022年12月26日に連携協定を締結したことを発表。クロスユーと共に、宇宙産業以外の関連領域との連携やエコシステム形成に取り組むと述べた。

クロスユーの事務局長を務める米津雅史氏は、同社の特別会員制度について説明。制度を通じて、業種を超えたコミュニティーを創出していくという。

  • カンファレンススペース(X-NIHONBASHI BASE)

    カンファレンススペース(X-NIHONBASHI BASE)

  • カンファレンススペース(X-NIHONBASHI TOWER)

    カンファレンススペース(X-NIHONBASHI TOWER)

  • スタジオ(X-NIHONBASHI TOWER)

    スタジオ(X-NIHONBASHI TOWER)

  • バーラウンジ(X-NIHONBASHI BASE)

    バーラウンジ(X-NIHONBASHI BASE)

  • ワークラウンジ(X-NIHONBASHI BASE)

    ワークラウンジ(X-NIHONBASHI BASE)

クロスユーは、宇宙関連ビジネスのイノベーションの創出を目的として、4月から特別会員制度を開始する。同社は、「場」と「機会」の提供を通じて、国内外・産学官など様々なプレーヤーたちと共に、最新の知・情報が集まるエコシステムの構築と共創に取り組む。

特別会員に対しては、日本橋エリアのカンファレンススペース、コワーキングスペース、バーラウンジ、スタジオといった施設の利用や割引のほか、ビジネスマッチング、イベントなどを通じて、非宇宙領域も含めた様々な交流機会が提供される。共創フェーズでは、アクセラレーターやVCなどを交えたビジネスの加速も期待できる。さらに「宇宙ビジネス創出の促進に関する連携協定」を締結するクロスユーとJAXAの両社が、海外企業とのパートナーシップ促進をはじめとする効果的な施策を提供していくという。

月を拠点に 広がる領域

月を拠点に 広がる領域

©NASA/JSC

衛星データの活用などが活発化する宇宙分野。その新たなビジネスの舞台として、月が注目を集めている。ロケットの打ち上げ、資源開発、滞在などの拠点となり得るのだ。関連機器の開発のほか、保険や食品、エンターテインメントなどの多領域から参入が期待される。

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宇宙産業、市場規模2倍に

宇宙ビジネス市場が、かつてない盛り上がりを見せている。宇宙産業における現在の日本の市場規模は約1.2兆円。政府はこれを2030年代に、現在の2倍となる2.4兆円まで拡大させる目標を設定した。

なかでも宇宙ビジネスの新たな拠点として、注目を集めるのが月だ。月面ビジネスの市場は、30年代後半には1兆円規模に成長すると見込まれる。背景には、月の商業的価値がある。月の重力は地球の約6分の1。また近年の調査によると、月には豊富な水資源が存在し、これをロケット燃料などに利用できる可能性がある。月のメリットを生かせば、地球よりも少ないコストでロケットを打ち上げられるのだ。月は宇宙開発を進める上での、重要な打ち上げ拠点となり得る。

各国が政府主導の取り組みのほか、民間企業や大学による月への進出を本格化。PwCの予想では、月への貨物輸送は36~40年の5年間の合計で最大4.8兆円に拡大。月の水資源開発などに関連する市場も最大で7000億円規模になると見込む。

発展の鍵は共創

米国、日本、欧州などの各国協力のもと、月面探査プログラム「アルテミス計画」も進む。アポロ11号による初の有人月面着陸から約半世紀。新たに有人月面探査や月面基地の建設などを目指す計画だ。

日本にも月面探査に取り組む民間企業がある。ispace(東京・中央)は、「HAKUTO-R」ミッション1にて、昨年12月に同社のランダー(月着陸船)を打ち上げ、4月末の月面着陸を目指す。成功した場合、民間企業による世界初の月面着陸となり得る。

月面ビジネスに着目する企業は、自動車、建設、エネルギー、保険など幅広い。映画やゲームなどのエンターテインメント領域でも今後、宇宙データの利用が進む見通しだ。民間により宇宙産業の裾野が広がる動きを、米国では「ニュースペース」「スペース2.0」などと呼ぶ。月面経済圏の構築において、多領域からの参入が大きな役割を果たす。

これまで宇宙関連産業の支援に力を入れてきた三井不動産は、クロスユーを設立。日本橋を拠点に、宇宙産業のコミュニティーの構築と共創をさらに加速させる。

レーダーや観測衛星、月面開発、月面探査機などの分野に強みを持つ日本。世界的な競争力を強化することが期待されている。

クロスユーサポーターからの
メッセージ

白坂成功 氏

慶應義塾大学大学院
システムデザイン・マネジメント研究科 教授
白坂成功

“宇宙”を仕向地にする場

宇宙産業には、ロケットや人工衛星の製造や打ち上げなどが含まれています。しかし、近い将来、宇宙にいる人の飲食を支える飲食業など、単に“宇宙を仕向地とする”ビジネスが現れてきます。もちろん、無重力など宇宙特有なところもあります。今後、こういった分野を支えるのは非宇宙産業となります。このためには、宇宙産業に属する企業と非宇宙産業に属する企業とが、単に場を共有するだけでなく、相互作用をおこすことで専門家バイアスを超え、新たなビジネスを“宇宙”で実現することが必要になります。クロスユーが、このようなプレーヤーを生み出す場になることを期待しています。

永崎 将利 氏

Space BD
代表取締役社長
永崎 将利

パートナーシップ強化で
宇宙を日本の次期基幹産業へ

当社はX-NIHONBASHIプロジェクト発足当初より、日本橋エリアに拠点を構え、宇宙産業のエコシステム構築に向けた連携を三井不動産と進めてきました。以来、様々なマッチングイベントやカンファレンスなどを通じて多くのビジネスマッチングを創出することができています。これにより、自社の事業拡大はもちろん、コミュニティー内の強固な横のつながりを実感しています。宇宙産業が活性化するためには、産業の垣根を越えて連携していくことが必須です。今後も、クロスユーのサポーターとして、宇宙産業を日本の次期基幹産業にすべく取り組みをより加速していきます。

オリオン帰還、アルテミス計画が一歩前進

オリオン帰還、アルテミス計画が一歩前進

太平洋に着水した「オリオン」
(©NASA/Josh Valcarcel)

米国主導の有人月面探査「アルテミス計画」が順調に滑り出した。1号機となる無人宇宙船は月の周回軌道に到達した後、昨年12月11日(米東部時間)に地球に無事帰還。約半世紀ぶりに人類が月面に立つ日が一歩近づいた。

無人飛行に成功した宇宙船「オリオン」は最大4人乗りで、米ボーイングが開発した新型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」を使い、同年11月に米航空宇宙局(NASA)により打ち上げられた。今回の成功により、2024年にはオリオンに宇宙飛行士が乗り込み、月の周回軌道で飛行するミッションを実施。25年以降に打ち上げ予定の3号機で女性を含む飛行士が実際の月着陸を目指す計画だ。
アルテミス計画には日本や欧州、カナダなどが加わっており、月面輸送サービスの委託などを通じて民間企業も参画する。半世紀前のアポロ計画との最大の違いは、アポロ計画では月着陸がゴールだったのに対して、アルテミス計画では月着陸を有人火星探査のスタート地点と位置付けていることだ。「月面で暮らし、人類を火星に送る方法を学ぶために向かう」(NASAのビル・ネルソン長官)。28年には月の周回軌道上に宇宙ステーション「ゲートウエー」を建設する計画で、月面にも基地を設ける。
昨年11月にはゲートウエーに日本人宇宙飛行士が滞在することやゲートウエーの居住棟へのバッテリーや生命維持機器の提供、月面への物資輸送などを日本が担うことが決まった。

スカパーJSATが取り組む宇宙のSDGs

スカパーJSATが取り組む宇宙のSDGs

スカパーJSATがレーザーを使った宇宙ゴミ(デブリ)の除去技術の開発を加速している。持続可能な宇宙環境を維持するため、理化学研究所などと組み、2026年の実用化を目指す。

「デブリに遠隔で力を与えることができるのが最大のポイント。除去するために近づく際の障害となる回転を止めることができるオンリーワンの技術だ」。19年に社内スタートアップ第1号案件として計画を立ち上げ、プロジェクトリーダーに就任した福島忠徳氏はこう話す。連携する理化学研究所の衛星姿勢軌道制御用レーザー開発チームでもチームリーダーを務める推進役だ。
使用するレーザーは「皮膚の表面の角質だけを取るシミ取りレーザーなどに使う技術を応用したもの」(福島氏)。物質にレーザー光を高エネルギーで照射した際に物質のごく薄い表面をプラズマ化して放出するレーザーアブレーションという現象を利用してデブリに推力を与える仕組みで、当てる場所や時間を調整することで回転を止めたり、狙った方向に動かしたりすることが可能となる。
レーザー利用の優位性はこれだけではない。デブリの外側の物質自体がプラズマ化し推力の燃料となるためコストパフォーマンスが良い。これに加えて、200メートル先から照射することもできるためデブリに近づく必要がなく、安全性も高いという。
「社会全体で宇宙ごみビジネスによるエコサイクルをつくれるかが課題」。宇宙のSDGsに向けて実用化を急ぐ。