挨 拶

「宇宙戦略基金」で成長を加速する

風木 淳 氏

風木 淳
内閣府 宇宙開発戦略推進事務局長

人類の活動領域は本格的に宇宙空間に拡大し、宇宙システムは地上システムと一体となり地球上の様々な課題解決に貢献している。気象衛星は天気予報の精度を向上させ、測位衛星からの位置情報も生活には欠かせない。衛星通信も人々のインフラとして役立っており、宇宙からのデータは大規模災害への対応や地球温暖化対策、農業分野で活用が進む。

政府は2023年6月に宇宙基本計画を3年ぶりに改定。民間企業や大学などが主体的に行う技術開発や商業化を支援するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に「宇宙戦略基金」を設置し、10年間で1兆円の支援を目指している。

講 演

課題克服へ幅広い連携を

石田 真康 氏

石田 真康
一般社団法人SPACETIDE
共同創設者 代表理事 兼 CEO
A.T. カーニー
スペシャリストディレクター

宇宙ビジネスは空間、地域、業種という3つの側面で拡大し、宇宙経済圏として新たな広がりを見せている。宇宙がすべてのSDGs(持続可能な開発目標)の課題に貢献できるようになり、生活や文化に新たな価値が提供され、宇宙安全保障への貢献も始まった。

2023年にはロケットの打ち上げ成功回数が史上最多記録を更新。衛星の数が増え、サービスの品質が向上する一方、利用料金が下がり、生活が豊かになるという好循環が生まれた。宇宙空間における各種活動のルールを定める「スペースガバナンス」も世界的な議論が始まり、月面開発では国際協調が加速。衛星通信を使って新しい価値をつくり、命を救うような活動も広がっている。

日本でも政策的な追い風が吹いた1年だった。日本初となる宇宙安全保障構想が発表され、政府の宇宙予算も過去最高の6千億円となった。大手もスタートアップも幅広い業種から参入しているのが日本の特徴だが、人材とスピードが足りないという課題があり、連携しながら成長を目指す必要がある。

日本橋を拠点に接点担う

米津 雅史 氏

米津 雅史
一般社団法人クロスユー
事務局長

宇宙開発が新たな官民連携のフェーズに移行する中、宇宙産業の発展には「共創」が重要。非宇宙企業の知見が宇宙開発につながるケースが増えており、「宇宙×〇〇」という考えのもと、非宇宙企業が宇宙という場を活用し新たなビジネスを創っていくことが大きなポイントとなる。

クロスユーの使命は東京・日本橋を拠点とし非宇宙企業と宇宙産業の接点を創出すること。「場の整備」と「コミュニティー構築」によりコロケーション環境充実を目指す。

JAXAと連携協定を結び、ネットワークや知見の提供を受けるとともに三井不動産から交流の場となる拠点の提供を受け、取り組みを推進。2023年4月の発足から半年でメンバー数は200超となった。基盤となるのがJAXAを含め30を超える産学官の宇宙関連プレーヤーが日本橋エリアに集結していることだ。顔が見える関係がここから生まれている。

五街道に続く6本目の街道が宇宙へ続くように、日本橋を世界に誇る宇宙ビジネスの中心地として発展させ産業成長を後押ししていく。

クロスユーサポーター
セッション

ニーズ生み出すサイクルを創出

  • 黒須 聡 氏

    黒須 聡
    黒須スペース&サステナビリティ 社長

  • 百束 泰俊 氏

    百束 泰俊
    天地人COO/取締役

  • 深堀 昂 氏

    深堀 昂
    avatarin代表取締役CEO

クロスユーサポーターセッション

[進行]河井 保博 日経BP 総合研究所 主席研究員

河井 宇宙関連企業として、SDGs達成にどのように取り組んでいるか。

黒須 当社は、宇宙ビジネス進出のコンサルティングを行っている。宇宙からは地球を広域に観測できる。さらに、地上では得がたい極低温などの環境があり、大気・重力・国境などの制限からも解放される。宇宙空間を利用することで災害監視や、気象・時間に左右されない宇宙太陽光発電、月での循環型システムなど、サステナビリティーに貢献する技術開発が可能だ。

百束 天地人では衛星からのデータを解析し、農作物の栽培適地探索や、水道管の漏水リスクの評価などを行っている。衛星データの蓄積と、さらなる人工知能(AI)の活用で、対象とする品種やインフラの種類を増やしていく。

深堀 遠隔AI顧客支援ロボット「newme」のソリューションを提供している。オンラインでロボットを操作し、場所の制約なく、人を瞬間移動させることができる。プロフェッショナルがアバターとして動きまわりながらプロアクティブにサービス提供を行う。様々な場所で発生している様々な課題に対して解決できる人を、地球上のどこにいても瞬時に派遣できるのが利点だ。アバターなら国境にとらわれず、ハンディキャップがあっても活躍できるため、ダイバーシティー推進にもつながる。さらに遠隔操作や対応で取得したマルチモーダルなデータを学習に使用し、AI化することを進めている。

河井 日本の宇宙ビジネスを拡大するための課題は何か。

黒須 チャレンジを許容する風土にしなければならない。例えば、スペースXは、たくさんの失敗を重ねながら、現在の成功を手にした。日本企業は失敗を恐れて萎縮してしまう。利益の追求も大事だが、挑戦から生まれる利益もある。

百束 リモートセンシングによる画像解析などでは、顧客が求める価値を提供するために技術以外の観点も必要だ。サービスのつくり込みや導入マニュアル整備によって、顧客に利益が上がり、ニーズが生まれるサイクルをつくるべきだ。

深堀 宇宙と地上は一体だと考えるべきだ。例えば通信環境が悪い宇宙ステーションなどにおいて鍛えた映像圧縮技術などは、災害時に地上ロボットを遠隔で動かす際に活用できる。宇宙と地上の技術を相互補完させることで宇宙産業の成長加速が可能だ。

企 業 講 演

共創で社会変革を実現

小渕 浩希 氏

小渕 浩希
スカパーJSAT
宇宙事業部門
Green Innovation
そらみえーるCFTリーダー

「そらみえーる」は、太陽光発電出力予測ソリューションだ。発電所に設置したあらゆるモノがネットにつながるIoTデバイス「そらたまご」による天球画像と、気象衛星ひまわりからの衛星画像をAIで分析し、5分後から2日先までの日射量を予測。再生可能エネルギーを主力電源とするという社会目標達成に貢献する。

開発に至る過程では、複数の新価値が創出された。最初のステップであった海上気象観測は、気候変動の実態解明などに貢献する。そこで開発した雲観測AIをもとに、子どもの気象学習に利用できるアプリ「くもろぐ」を開発。その雲識別AIが、「そらみえーる」へと展開された。

今後、「そらみえーる」の技術を宇宙光通信へと応用する。宇宙と地上の光通信は、雲による回線遮断が課題だ。JAXAと東海大学と当社が連携し、雲を回避する技術検討を実施した。衛星による環境観測データが大容量化する昨今、光通信による高速化がSDGs達成への一助となる。

1つのデータでも、多様な視点が集まることで多くの価値を生む。今後も社内外の共創により、持続可能な社会を実現するイノベーションを起こしたい。

エンタメ通じ自分ごと化

髙橋 未来 氏

髙橋 未来
キッズステーション
こどもコンテンツ
ビジネスユニット

国連は2030年のSDGs達成が、危機的な状況だと発表した。つまり、その先に目を向ける必要がある。未来を背負う子どもたちには、資源枯渇や気候変動の解決策の一つとなる宇宙開発は重要なテーマだ。この現状認識やCS放送局としての衛星放送との関わりから、宇宙をテーマにしたエンターテインメント事業を立ち上げた。

しかし、事業調査で宇宙領域に対する取り組みが一般に浸透していないと気付いた。その理由は情報が広まっておらず、理解しにくい点にある。この課題解決を目的に、当社が提供開始したプログラムが「スペースキッズステーション」だ。

子どもが宇宙ジャーナリストとして、宇宙事業に関わる企業や人を取材し、自分たちの発見や感動を発信することにより、誰もが宇宙を身近に感じられる取り組みだ。これまで、民間企業や公的機関を含め、宇宙に関わる多くの団体、企業の協力を得ている。

当プログラムが目指すのは、宇宙の「自分ごと」化だ。事業を進めるとともに、当社もパートナー企業を探しながら、新たな形のエンターテインメントを提供し、宇宙産業を盛り上げたい。

子どもにも宇宙を身近に

宮下 哲平 氏

宮下 哲平
タカラトミーアーツ
事業企画部
事業推進課

当社グループは変形型月面ロボット「SO RA-Q(ソラキュー)」の1/1スケールモデルや、宇宙をテーマにしたホビーなど、宇宙に関連した商品の開発・提供を行ってきた。19年にはオリジナルコンテンツとして「宇宙なんちゃらこてつくん」を企画。ウェブコミックやTVアニメを中心に展開している。

開発のきっかけは、子どもたちのアンケートだった。宇宙と聞いて思い浮かべるコンテンツを尋ねると、「特になし」という声がもっとも大きく、宇宙に親しんでほしいという思いが企画の発端だった。

作中では、天体や惑星、宇宙技術や日常の暮らしなど幅広いテーマを扱う。親子で学べる雑学コーナーも用意。子どもたちの支持は高く、男女4~6歳の個人視聴率で10%を超えた。数百万人の子どもたちに興味を喚起したと自負している。

一方で、子どもたちの宇宙に対するイメージは、まだ身近ではない。ロマンとしての存在とビジネスの間のギャップを埋めるハブとして本作を育てたい。次世代の人材育成や、人材基盤の強化などの課題解決にも貢献できるはずだ。

パネルセッション

多様な人材が活性化生む

  • 伊達木 香子 氏

    伊達木 香子
    宇宙航空研究開発機構(JAXA)
    新事業促進部長

  • 岡島 礼奈 氏

    岡島 礼奈
    ALE 代表取締役/Founder&CEO

  • 榎本 麗美 氏

    進行
    榎本 麗美
    宇宙キャスター

榎本 東京・日本橋に子どもたちが最先端の宇宙を学べる場を設立した。40人で活動しているが半数が女子と宇宙への関心は高い。宇宙ビジネスにおける女性活躍をどう推進すべきか。

岡島 スタートアップは女性が少なく、海外でも同じ状況だ。アンコンシャスバイアスが一因だ。人材不足を解消するには活躍の場がない女性を採用するのが近道だ。月に住む時代に、偏った属性で生活用品が開発される環境で、みんなが住みやすくなるかを考えてみてほしい。

伊達木 JAXAでは初期段階から女性宇宙飛行士がいたことで、男性だから女性だからという議論はないと思う。今までにない仕組みを新しくつくってきたのが宇宙開発なので、属性を意識することなく、宇宙をうまく使うための話し合いができ、広い視点で様々な要素を取り入れながら乗り越えていく場面も多い。

岡島 宇宙業界にはDE&Iを推進するためのポテンシャルがあると思う。

伊達木 それをどう実行していくか。具体的な方策は色々あり、それぞれのやり方で進めていけばいい。

榎本 宇宙への興味・関心を引くために宇宙教育ができることは何か。

伊達木 私が今の仕事を志したのは向井千秋さんの「これからの宇宙はみんなのもの」という言葉がきっかけだった。どんなチームでどんな課題を解決していくかを考えられる宇宙教育であってほしい。小さい時から宇宙に対する興味の種をまき、可能性やチャンスを埋め込んであげることも重要だ。

岡島 教育の分野にもアンコンシャスバイアスがあると感じている。教育機会が平等でない部分が残っており、好きな分野を選べる教育であるといい。新しい仕事が次々と生まれる中、好奇心を刺激して多様な人材を集めることで宇宙ビジネスが活性化するはずだ。

伊達木 多様な人材の掛け合わせで起きる化学反応が新しいものをつくり出す。子どもたちがともに創る世界を目指せるように私たちも支えていきたい。

成功事例示し志望者増やせ

  • 永崎 将利 氏

    永崎 将利
    Space BD 代表取締役社長

  • 石田 真康 氏

    石田 真康

  • 神武 直彦 氏

    進行
    神武 直彦
    慶應義塾大学大学院
    システムデザイン・マネジメント
    研究科教授

神武 宇宙産業のフェーズは、官主導から官民共創へと移行した。宇宙産業を主要産業へと成長させるには、宇宙分野に関する人材教育と非宇宙分野人材の登用を進めなければならない。

永崎 宇宙分野の人材に必要なのは、未踏に挑戦するパイオニア精神だ。実は、学歴や職歴による専門性よりも、属人的な能力や本人の意思が重視されるのでは。

石田 エンジニアでいえば、衛星など全体のシステムを設計できる人材が足りない。衛星コンステレーションが前提となると、衛星製造のサプライチェーンの確立が課題で、今後は製造管理のプロフェッショナルも必要だ。海外で活躍する営業人材も求められる。

永崎 適材確保とコラボレーション促進の観点から流動化を高めることは大事で、企業がその考えを共有することも必要だ。

神武 10年後を見据えて大事なこととは。

石田 市場規模を広げるためには、専門家に適切な給与を支払う必要があり、利益を上げられる産業にしたい。宇宙が好きな人だけでなく、社会貢献や高いフィーなど、多様な目的を持つ人材に集まってほしい。

永崎 産官学の交流が重要だ。官が政策をけん引し、技術の根幹が学にあり、民間企業が効率的に事業化するという役割分担において、組織間のアライアンスを強化し、共通のプロトコルを設ける必要がある。

石田 宇宙をロマンと捉え、不安定な産業と見る傾向はあるが持続可能な産業だ。宇宙産業の一区切りは10年間だと感じる。その期間でモチベーションを上げる見通しを提示したい。

神武 技術の発展により、短期間で成果が見える領域も生まれてきた。マイルストーンの提示が重要だ。

石田 宇宙産業は産業の総合格闘技であり、新たな技術要素や事業戦略、政府折衝が入り組む。多様な出自を持つ人材を集めたい。

永崎 宇宙産業はまだ黎明(れいめい)期の市場。誰もが先駆者になれるポテンシャルがある。成功事例を多く示すことで、宇宙分野での成功を志す人材を増やせるだろう。

メッセージビデオ

山崎 直子 氏

山崎 直子
宇宙飛行士/元JAXA宇宙飛行士

SDGsには負の財産を未来に残さず、新たな価値を創出するという課題がある。大きな可能性を秘めた宇宙は、これらの課題を解決しSDGsを達成するための鍵だ。宇宙ビジネスは裾野が広がり、多様な人材活用と女性の活躍が求められる。未来の人材を育てる教育と、他分野からの参入を促すリカレント教育も大切だ。地球を良くしていくために、宇宙ビジネスの発展を願っている。