物価高や人財不足など様々な懸念が持ち上がる一方、2023年度は全産業の設備投資額が過去最高を更新し、各分野で生産設備の増強、供給網の再構築が進んでいる。2024年3月21日に設立70周年を迎える日本バルブ工業会は、流体制御の要として、日本のインフラをどのように支えていこうと考えているのか。同工業会の西岡利明会長に聞いた。
2023年は欧州に続き中東でも地政学リスクが高まり、物価高や人財不足、為替の変動など、各社ともコストの高騰を前提とした事業運営が求められた一年でした。一方、明るい話題として、各産業で設備投資額が大きく伸び、生産設備増強や供給網再構築に向けた動きが出ています。最新版の22年度バルブ工業概況調査報告書では、厳しい原材料費の高騰を吸収しながらも、過去最高となる生産額を記録しました。コロナ収束後、人・物・金の流れも再開するなか、当工業会としても事業をよりアクティブな計画へとシフトし、サステナブルな社会に貢献し続ける体制を整えています。
今年3月21日で当工業会は設立70周年を迎え、現在では116社の会員企業に加盟いただいています。この節目の年に、私たちは新たな中期活動計画「From now 70th」を策定し、バルブ産業の発展に向けてアクションプランを実施しています。
とりわけ力を入れたいと考えているのが、業界全体の発信力・地位向上です。各社が製造しているバルブは航空宇宙や水素などの先端分野から、日常生活でよく目にする水栓にいたるまで様々な種類があり、実に多岐にわたりますが、まだまだ業界としての認知度は高いとはいえません。各省庁はもちろん、地域行政や学校、建設・水道・船舶などの隣接する業界にもアプローチし、他団体とのネットワークの連携強化に努めます。
また、業界内交流も促進し、活発化させていきます。各社が抱えている課題、またそのソリューションを共有することで、業界全体の意識を高めていきたいと考えています。オープンマインドで風通しのいい企業間連携の場を作ることで、個々の企業が新しい発見や気付きを得られる機会を創出します。
これらのつながりは、人財育成と働きやすい職場環境の整備にも寄与すると考えています。人財確保はどの業界でも喫緊の課題となっていますが、とりわけ女性活躍や世代間の技術継承、事業承継といった分野はチームとなって取り組む必要があります。当工業会としても、研修体系の整備や若手経営者の育成、女性活躍のためのアクション「バルブ女史ネットワーク」を通じて、全力でバックアップします。
脱炭素化に向けた取り組みについては、国が掲げる2050年に向けたカーボンニュートラル実現のため、新たなチャレンジ目標とアクションプランをまとめています。
今後、人口減少時代の市場創出という点では、輸出事業拡大などにも一層力を入れる必要があると考えています。たとえば、日本には全国津々浦々どこでも水道から直接飲み水を確保できるインフラが整っていますが、地域の水をその土地ですぐに飲める状態であるというのは、世界的に見れば大変稀有(けう)です。災害が多く、急峻な地形の多いこの国だからこそ、流体制御の技術は研ぎ澄まされてきたともいえます。当工業会が後押しし、関連する他業種や省庁と連携することにより、発展途上の国々へ提案ができれば、新たな販路が見込めるのではないかとも考えています。また、25年には大阪万博も控えており、国産バルブの魅力を伝えていく絶好の機会です。当工業会は会員企業とともに、産業・生活インフラの下支えをしている業界として、高品質の製品を安定的に供給し、さらなる社会貢献を果たしていきます。