NIKKEI SDGs FOREST SYMPOSIUM
森林、木材の利活用で
実現する
脱炭素社会
主催:日本経済新聞社 日経BP
メディアパートナー:FINANCIAL TIMES
特別協力:三井不動産
森林起点に付加価値 整備と活用で脱炭素
国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた企業の取り組みを支援するプロジェクト、日経SDGsフォーラム。その特別シンポジウム「森林、木材の利活用で実現する脱炭素社会」が2022年12月7日、日本橋三井ホールおよびオンラインでのハイブリッド開催にて実施された。森林や木材の利活用について先進的な取り組みを行っている官民の団体が集結。脱炭素社会に向けた森林、木材利活用に関する報告が行われ、取り組みの重要性について議論を深めた。
基調講演
民間と協力し国民運動へ
織田 央 氏
林野庁長官
国として脱炭素を目指す中、林野庁では、森林整備を通じた二酸化炭素(CO2)吸収量の確保・強化と、木材利用を通じた炭素貯蔵の拡大を車の両輪として進めている。
森づくりは、企業や非営利団体(NPO)など民間の協力を得ながら、国民運動として展開していく。2022年から始まった「森林×脱炭素チャレンジ」もその一つ。民間支援による森林整備の取り組みを募集し、優れたものは顕彰する。森林由来J―クレジットも創出拡大し、民間資金も活用しながら森林整備を展開している。J―クレジットとは、省エネ、再生可能エネルギーの導入、森林管理などによる温暖化ガスの排出削減、吸収の量をクレジットとして認証する制度で、21年から森林整備に関しては認証対象期間を最大16年に延長するなど、実態に即し見直している。
こうした取り組みを効率的に実施するため、ICT(情報通信技術)を活用したスマート林業、自動化機械の開発、成長に優れたエリートツリーの育種、木質新素材の開発・活用などを支援し、林業イノベーションも起こしていく。
木材の利用促進では、公共建築物や中高層建築物などの木造化・木質化を進めるため、耐火部材等の開発普及、木造建築物の設計者の育成などに取り組んでいる。このほか、建築物木材利用促進協定の推進、林業関係者が木材を利用しやすい環境作りに取り組む官民連携のウッド・チェンジ協議会の設置、木材利用を促進する機運醸成のための木づかい運動などを実施。木づかい運動では、「木材利用優良施設等コンクール」「ウッドデザイン賞」など、木材の利用を対象とした顕彰を支援する。今後も、国産材の利活用のさらなる拡大を目指す。
基調講演
一つの目安がFSC認証
速水 亨 氏
速水林業 社長
木材の生産期間は数十年にわたり、短期の利益追求にそぐわない。しかし日本以外の先進国では積極的な林業への投資も行われている。残念ながら日本では林業への資本投下は難しく、森林所有者がリターンを得られない状況が続き、皆伐後の再植林も進んでいない分、脱炭素の実現は難しくなる。森林機能は社会性を強く持つのだから、森林の維持管理に当たっては、行政ベースでの資源の管理や計画、各種支援も必須となろう。
もちろん、林業の当事者が取り組むべきことは多い。当社は、地域との共生、自然との共生を大事にしながら、同時に合理化を進めてきた。森林の管理に当たっては、植林、下刈り、間伐、主伐、再植林といった作業があり、多くの作業員が携わる。当社の森林でも、1980年代は1㌶当たり一日約400人を投入していたが、現在は40人弱に減らしている。それを可能にしたのが、根本的な作業の合理化だ。まずどのような木、森を育てたいのか目標を描く。当社は人工林でありながら、広葉樹や下草が混生する豊かで美しい森を目指しており、それにより年輪の美しいヒノキを育てている。
その実現に必要な作業を洗い出した。作業を目的化せず、作業一つひとつの方法が目的に合致しているか議論することが重要だ。結果、枝打ちや下刈りの回数などは大幅に削減した。また、作業の流れを見通し、「搬出直後に苗木と防護柵の資材は運搬する」など手数を減らす工夫も行っている。
再植林が可能な、サステナブルな森林経営を可能にしていくには、木材を使うメーカーや消費者も、利活用する木材の背景にまで目配りしていただきたい。持続可能な森林管理が行われていることを示すFSC認証などが、一つの目安となる。