基調講演

ICTで林業を次世代化

加藤 正人 氏

信州大学 農学部 教授

国際競争力のある地域イノベーションを目指し、2016年から19年まで、農林水産省の革新的技術開発事業により、「レーザセンシング情報を使用した持続的なスマート精密林業の開発」を行った。レーザセンシングは、航空機はアジア航測、ドローンと地上でのバックパックでの計測は信州大学が担当し、3つの技術を統合して高精度な単木情報を整備。それを基に、例えば間伐の際は切る木、残す木を選定、そのデータを伐採や集積を自走で行うコマツのICTハーベスターに共有させ稼働させる。こうしたデータ活用を林業のあらゆる場面で行い実施することで森林の効率的な管理を目指している。

これらの取り組みの現場実装を推進するため、「レーザによるスマート精密林業オープンコンソーシアム」を立ち上げた。日本林業の成長産業化には、こうした産学官連携のコンソーシアムが必要だ。

次世代を担う人材を育成するため、大学の持つ知の集積と人材を生かして、大学発ベンチャーも手がけている。当時、私どもの研究室に所属する博士課程の学生を社長に、研究開発型のベンチャーとして、精密林業計測株式会社を17年に起業した。同社は、これまで困難だった広葉樹の樹種区分をリモートセンシングで行うというチャレンジングな技術を開発、活用している。日本の森林の半分は広葉樹林なので、広葉樹の樹種区分の技術はニーズが見込まれる。こうした若者の力で、停滞した国内林業に世界標準の新技術を開発・導入して、日本林業の成長産業化を目指したい。

さらに、林業と建築のデジタル連携も進めていく。林業のサプライチェーンを再構築することで、持続可能な森林経営、工務店経営を実現したい。

パネルディスカッション

  • ●パネリスト

    加藤 正人氏

    信州大学 農学部
    教授

  • 風間 篤氏

    三井住友信託銀行
    理事 地域共創推進部長

  • 太田 望洋氏

    アジア航測
    森林ソリューション技術部 部長

  • ●コーディネーター

    改野 由佳

    日経CNBCキャスター

異分野と連携し課題解決

加藤:

従来の林業は、製材や建築といった関連業界の中での連携にとどまり、内向き志向だった。今後は異業種による違った考えやアイデアが重要になってくる。とりわけ、森林信託を手がける三井住友信託銀行のような金融業界の視点は貴重だ。

改野:

信託銀行が森林信託を手がける、その目指すところについて聞きたい。

風間:

信託機能を活用した、社会的課題解決型ビジネスとして実施している。日本の林業経営は、維持管理における担い手不足、後継者不在など、多くの課題を抱えている。これらの解決手段として、森林信託のスキームを開発した。当社が所有者から森林を受託し、森林管理専門会社に実際の施業や事業収入の管理などを任せ、森林経営を行うというものだ。
従来、森林は財産価値の特定が困難なため、商事信託には向かないとされてきた。しかし、レーザセンシングなどを用いて森林の経済価値を把握できるようになったことで、商事信託が可能となった。2020年に国内で初めて岡山県西粟倉村の森林を信託受託した。

改野:

財産価値の特定以外に課題はあったのか。

風間:

一つは継続的な収益の確保だ。林業は植林から伐採まで数十年と、収益化に時間がかかり、事業としての継続が難しい。いかに収益を安定的に生み出すかがカギとなる。そこで注目したのが、地域の水資源だ。これを活用して小水力発電所を建設することで、キャッシュフローの安定化を行った。

もう一つは、金融機関はさほど林業に明るくないことだ。そこで、住友林業とパートナーシップを組み、村と合わせて官民一体で持続的な管理体制を構築した。森林によるCO2吸収分をクレジットとして販売し、収益を確保する動きも生まれた。

森林受託に当たっては、地域経済の活性化、地域エコシステムへの貢献も図っている。西粟倉村は地域活性化策として、持続可能な「百年の森事業」に村一丸となって取り組んできた。そして、森林を起点としたローカルベンチャーを集積し、新しい商品開発による付加価値の創造が行われている。

森林信託はこのエコシステムにうまく取り込まれている。木材生産、加工製品販売、ボイラーの熱源やバイオマス燃料などへの活用により、地域経済エコシステム構築と、その発展に貢献している。林業関連の経済効果について、08年の林業・木材加工事業売り上げは1億円だったが、21年には12億円まで拡大。雇用も増加している。村は現在、SDGs指定都市、脱炭素先行地域指定などを受け、イノベーションが加速している。

改野:

森林信託やスマート林業の要となっているセンシング技術とはどのようなものか。

太田:

当社では、航空機からの撮影やレーザ計測を通じて得られた情報を基に、防災、環境、インフラ整備などについてコンサルティングを行っている。森林に関しても、空間情報をベースとした技術を生かして、日本の森林をあるべき姿にすべく貢献していきたい。

森林のあるべき姿は、その土地によって異なる。木材生産、環境保全、人とのふれあい、災害防止など、森林に求められる機能はさまざまだ。その地域で求められる森林を実現するため、まず必要になるのが森林の正確な情報だ。地形、森林分布、樹種、本数、1本1本の樹高、直径、材積、路網状況などだ。これらの情報を活用してこそ、効率的な森林の管理、伐採、木材運搬、再植林などが実現する。J―クレジット制度においても、こうした森林のモニタリング情報は必要だ。

当社が提供しているサービスは、森林の計測だけではない。情報の活用に不可欠な情報を共有できるプラットフォームや、現場で使いやすい情報ツールも提供している。林業支援システムや、林業行政事務を支援する台帳管理システム、木材の需給マッチングを支援するツールなどだ。今後も林業の現場はもとより、素材生産、製材、流通、それぞれのプレーヤーに役立つ情報を届けていく。

改野:

三井住友信託銀行、アジア航測、この2社とタッグを組んで長野で事業を行う立場として思うことは。

加藤:

金融、測量、情報提供など、いずれもスマート林業には欠かせない存在だ。林業の課題解決には、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めながら、異分野と積極的に連携していく姿勢が必要だろう。

協賛

  • 三井物産株式会社
  • AEON イオン環境財団
  • 三井ホーム
  • TAKENAKA
  • 三井住友信託銀行
  • アジア航測株式会社
  • 中国木材株式会社

特別協力

  • 三井不動産