岡山県の豊かな森林を次世代へ
~地方自治体の取組み

取材協力:
岡山県農林水産部
石原林政課長、谷治山課長、掛屋林政課総括参事
(役職は2023年2月6日取材当時)

  • 石原林政課長

  • 谷治山課長

  • 掛屋林政課総括参事

日本は国土の約7割が森林を占める世界有数の森林大国です。47都道府県はそれぞれ所在する森林及び林業に関する施策をもって、森林の適正な管理と、林業や木材産業の成長発展に努めています。
その一つとして、岡山県の森林・林業の取組みについてご紹介頂きました。

― まずは岡山県の森林概況についてお伺いします。

岡山県には恵まれた自然条件のもと豊かな森林が分布しています。県土の約7割が森林で、その面積は486千haを数えます。このうち92%が民有林で、全国平均69%と比べて民有林が多いのが特徴の一つです。民有林では40%が木材生産を目的としたスギやヒノキなどの人工林、56%が広葉樹やマツなどの天然林が占めています。
もう一つの特徴がヒノキの多いことです。ヒノキの樹種比率は全国平均28%に比べて68%となっています。2021年に岡山県はヒノキの素材生産量で日本一になりました。林地環境がヒノキ生産に適しており、真庭市など県北部地域では「美作桧」(みまさかひのき)というブランドで製材品の生産・販売に力を入れています。
林齢の特徴としては、民有林の人工林面積181千haのうち9齢級(41~45年生)以上が全体の約75%を占め、5齢級(21~25年生)以下が約6%と、齢級構成が高齢級に偏っています。多くの民有林が本格的な利用期を迎えています。

岡山県の手入れされた人工林

― 岡山県で取組む森林・林業の施策についてお伺いします。

岡山県では2000年度に、50年後の森林・林業の姿とその実現に向けて取組むべき基本方針を定めた「21おかやま 森林・林業ビジョン」を策定し、以後5年ごとに見直しを実施してきました。直近では2020年3月に改訂版を公表しています。詳しくは添付をご覧ください。

岡山県が抱える課題は、全体の92%を占める民有林の適切な管理と森林資源の循環利用による林業の成長産業化です。
このため、経済性に着目して、「林業経営に適した人工林」と「林業経営に適さない人工林」に区分することとしました。県内の民有林人工林から系統抽出法により53か所を抽出し、地形・地質・路網などの条件から経済性を尺度として調査しました。
具体的には、生産コストがネックとならないために、

① 林地の傾斜が35度未満であること

② 既設の路網からの距離が500m以内であること

人工林の生育に適した土地であるために、

③ 地質が花崗岩もしくは花崗閃緑岩以外であること

以上の3条件を満たす人工林を「林業経営に適した人工林」として分析し、その割合を算出すると、民有林人工林181千haの約66%にあたる120千haが林業経営に適した人工林となりました。

次に、区分毎の管理方針を定めました。
「林業経営に適した人工林」では、木材の供給源として、意欲と能力のある林業経営者に集積・集約化を進め、高性能林業機械の導入や路網整備による低コスト林業を展開し、収益性の向上を目指しています。
一方で「林業経営に適さない人工林」では、間伐を繰り返し行って広葉樹を育成するなど、管理コストの低い針広混交林などに誘導し、公益的機能を持続的に発揮する多様な森林への移行を目指しています。

現在取り組んでいる施策としては、経営管理が行われていない森林について、森林所有者と経営体をつなぐ「森林経営管理制度」の確実な実施に向けて、森林環境譲与税を活用し、制度を担う市町村等を総合的に支援しています。2021年度には、林業経営者や市町村職員等を対象とした研修を実施する施設として、全天候型の「林業技術研修棟」を整備しました。VRシミュレーターや傾斜のある林内を再現した伐倒練習機等による安全作業を修得できる伐倒技術研修や、林業経営者に対するマネジメント研修などを実施しています。
上記に加え、県では、地方自治体や林業事業体を情報通信回線で結ぶ「岡山県森林クラウド」を全国でもいち早く導入しており、森林情報の相互共有を通じて、市町村等の業務の効率化を支援しています。現在、航空レーザ計測データを活用して森林資源解析を行っていますが、今後は、解析したデジタルデータを使って林業経営に適した森林の可視化や森林経営の適正化を目指しています。

岡山県としては、将来を見据えてしっかり林業経営を行う森林については、長期的な視点に立って支援していくことが重要だと考えています。

  • 林業技術研修棟(外観)

  • 林業技術研修棟(エントランス)

  • 林業技術研修棟(研修室(大))

― これらの取組みに加えて、岡山県が認識するその他の課題と施策についてもお聞かせ頂けますか。

これは岡山県に限ったことではありませんが、林業労働力の確保です。現在、岡山県の林業従事者数は下げ止まって横ばいで推移しており、39歳以下の若手の割合は上昇傾向にありますが、一層の労働力の確保・育成・定着を図るためには、いかに意欲と能力のある林業経営者の育成を図るかが課題であり、先ほどもお話しした林業技術研修棟での研修実施などを通じて、林業経営者や林業従事者の確保・育成に取り組むこととしています。
そして、林業サイクルの円滑な循環を実現することも課題です。県では、主伐跡地に花粉の飛散低減に貢献する少花粉スギ・ヒノキ苗木による再造林を進めており、若齢林を継続して造成することで人工林資源の回復を図っています。
また、木材需要に対して県産材を計画的かつ安定的に供給することも重要な課題です。このため、人と環境に優しい木材利用の推進と木材製品の品質向上を目指し、公共施設等での県産材利用の促進や、品質に優れた県産ヒノキ製材品の国内外へのマーケティングや販路開拓の支援、CLT等による木造建築の普及促進や木質バイオマス発電での活用など、新たな木材利用を推進しています。
また、森林機能を維持増進し、近年多発する集中豪雨や台風などによる山地災害を未然防止するため、治山施設の整備や維持管理にも取り組んでいきます。
近年注目されているJクレジットなど森林クレジット制度については、現状ではなかなかハードルが高いと考えていますが、森林の付加価値向上のために活用できればと考えています。なお、先日、報道発表されたところですが、おかやまの森整備公社では公社有林を対象にJクレジットの創出に取り組むこととしています。

― 県民参加による森づくりも進められているようですね。

岡山県では「森づくり県民税」を活用して、県民参加による森づくり活動を展開しています。森林の働きや大切さを知ってもらうためには、森林に直接触れていただくことが大切です。企業などが社会貢献活動の一環として取り組む森林保全活動を支援するため、市町村等の協力を得て、植林や下草刈りなどの活動ができるフィールドを提供しており、現在、延べ29企業・団体の皆様に活動していただいています。また、「おかやま森づくりサポートセンター」の運営支援を通じて、森林ボランティア団体等の森づくり活動を促進しています。

森づくり活動(岡山県漁業士会)

― 最後に、岡山県の森林・林業が目指すものをお聞かせ頂けますでしょうか。

岡山県では、森林・林業の将来の姿を、森林や林業への人の営みや努力を通じて実現される「未来における多様で豊かな森林の姿」と、県民一人ひとりが森林の働きを理解し、快適な環境や木材などの恩恵を享受する「人と森林との理想的なかかわり」として描いています。
今後とも、森林や林業を取り巻く情勢の変化に対応するため、各施策の見直し・展開を機動的に実施し、「21おかやま 森林・林業ビジョン」で描く森林・林業の将来の姿の実現を目指して、森林・林業関係者のみならず県民の皆さんと共に、森林を守り育て、将来へ引き継いでいきたいと思います。