特別講演

100年先を見据えた水の保全

北村 暢康 氏

サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部
サステナビリティ推進部長

当社グループでは、サステナビリティーを経営の軸として取り組んでいる。特に重視しているのがCO2、プラスチック、水の3分野だ。

CO2については、50年ネットゼロをビジョンに掲げ、その手前の30年までに、自社工場・事業所などからの直接排出を50%、バリューチェーンからの排出を30%削減するほか、プラスチックについても、すべてのペットボトルをリサイクル素材または植物由来100%にする予定だ。

水については、気候変動の危機が進むほど、深刻化するという認識だ。当社は水資源に支えられ成長してきた。水のサステナビリティーは事業活動そのものであるという認識の下、グループ一体で活動を進めている。生産現場では、水のカスケード(多段階)利用による、水の使用量を可能な限り少なくした製造プロセスを設計し、最終的に浄化したうえで水を自然界に戻すなど、健全な循環を徹底している。

また、生産拠点の上流においては、水源涵養活動「天然水の森活動」を展開しており、弊社が使った量の2倍以上の地下水を涵養する、いわゆるウォーターポジティブを目指している。同活動は03年からスタートしたもので、活動範囲は全国21カ所、約1万2000㌶。ほとんどが国や県、市町村などの公有地で、そこを整備する協定を数十年といった長いスパンで結んでいる。

地下水の質は、土壌の質が左右する。良質な土壌を育むには生態系が豊かでなくてはならない。森の生態系を保全するため、空からの計測など科学的なアプローチと徹底したフィールドワークを実施している。この調査結果を踏まえ、森ごとに50年から100年単位先の姿をイメージしながら整備計画を立てている。

気候変動対策という全球的な世界共通の視座を持つとともに、水や土、生物の多様性などの課題には、地域に応じた取り組みが重要だ。これからもグローバルとローカルの両方向の視点から、課題解決に向けてアプローチしていきたい。

特別講演

持続可能な森林経営を目指して

佐藤 理 氏

三井物産 常務執行役員CSO
(チーフ・ストラテジー・オフィサー)

当社は事業活動を通じた社会課題の解決と、世界中の未来づくりの推進を目指している。森林事業はその事例の一つで、木質資源の貿易に端を発し、安定調達のための国内山林取得、海外植林事業・加工事業の展開と、時代のニーズに合わせ事業を育成・拡大してきた。近年はカーボンクレジットへの取り組みも加え、木質資源トレーダーから環境価値プロバイダーへ業態を変えてきた。

国内では、民間企業4位にあたる約4万4千㌶の広大な山林を保有している。この経営・管理においては、貴重な自然資本を預かる社会的責任を踏まえ、森林の多様な機能が適切に発揮される「持続可能な森林」を育むことを大切にし、森林の適正な循環を実現してきた。また、全山林につきFSC認証・SGEC認証を取得しており、第三者の視点で持続可能な森林経営であることを担保している。

森を育むと同時に、森林経営自体をいかにして経済的に持続可能とするかも重要課題だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)活用によるスマート林業推進、航空測量デジタルデータを用いた効率的なJ—クレジット創出手法の開発、THE NORTHFACEとの植林協働や、未利用材を用いたバイオマス発電など、多様な価値創出に取り組んでいる。

当社の目指す森林経営モデルは、森林の多様な価値を発揮し、その価値を当社ならではのアイデアやネットワークを通じて社会に提供し、結果として生じる収益を森林経営に還元することで、持続可能な森林づくりにつなげるという好循環の実現だ。このモデルを社有林で実現することはもちろん、例えばデジタルデータを活用したJ—クレジット創出のように、全国で適用可能な手法については、公有林ほかに横展開し、山林を保有・管理する皆様にとり、持続可能な林業の実現に貢献していく。今後もお客様や社会のニーズに応え、持続可能な森林経営と、脱炭素社会の実現の双方に貢献したい。

特別講演

累計植樹は1241万本超

山本 百合子 氏

イオン環境財団 専務理事兼事務局長
東北大学 特任教授(客員)

当財団は地球環境をテーマにした、日本では初となる企業単体の財団法人として、1990年に設立された。以来、地球を健全な状態で次世代へ引き継ぐため、世界各地のボランティアやステークホルダーと連携しながら、多様な環境課題に取り組んできた。

森づくり、環境教育、環境助成、パートナーシップの4つの事業領域のうち、「イオンの森づくり」活動では、32年前より国内外で木を植え続け、累計植樹本数は1241万本を超えた。海外では中国・万里の長城での活動が一番大規模で、これまで日中のボランティアにより、100万本以上が植樹された。

こうして育まれたイオンの森をフィールドとして、全国の自治体と連携しながら、環境教育や動植物とのふれあいの場を提供している。
現在、企業における環境保全活動のミッションは「企業の社会的責任」(CSR)から、「共通価値の創造」(CSV)へと変化しつつある。企業の経済的な行為のみならず、社会と共有できる共通価値を、お客さまや地域住民と共に創出していくことが重要である。

今後は各地域のイオンの店舗を価値創出のプラットフォームとして構築・活用していきたい。また、地域の人と自然を育む「イオンの里山づくり」も継続して行っていきたい。イオンの里山づくりには、おおむね3つのパターンがある。

一つは森林を再生し、豊かな自然環境を守る里山。宮崎県綾町では、2012年に生態系の保全と自然と人間社会の共生を目的とするユネスコエコパークに認定された。多様な里山の恵みを生かす価値創出を行っている。次に地域の伝統文化を守り、継承する里山。カンボジアでは内戦で荒廃した森林を再生するとともに、アンコールワット遺跡を保存する博物館を建設した。

そしてもう一つ、被災地の復興再生としての里山づくりを行っている。今後も住民の方々と各地域にふさわしい里山づくりに取り組み、新たな価値を創出したい。

協賛

  • SUNTORY
  • 三井物産株式会社
  • AEON イオン環境財団
  • いのちをつなぐ SARAYA
  • アジア航測株式会社

コンテンツ協力

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