特別講演

17階建ての木造計画進行

児玉 正孝 氏

竹中工務店 取締役執行役員副社長

循環型資源である木材を活用することは、森林資源の活性化、気候変動対策や脱炭素社会の実現に欠かせない有力な方策である。さらに昨今のESG(環境・社会・企業統治)投資、あるいは投資家や企業の社会的責任に対する評価の面からも、環境建築としての木造建築が世界的に重要視されている。

日本においても、木造建築を推し進めたい背景がある。日本は国土の3分の2を森林が占める森林大国であるが、1960年代には8割を超えていた木材自給率が2000年代初頭には20%を割り込んだ。現在はさまざまな施策により40%程度に盛り返したところだ。自給率の低下は国内の森林荒廃と林業停滞を招いている。我々は国産材の利用拡大に貢献するべく、木造中高層建築に取り組んでいる。

中高層の建物で木材を使う際は、火災時に人命や財産を守る観点から、耐火の要件が厳しく求められる。これを解決するには、耐火集成材の開発が不可欠だ。当社では、木材の芯材を熱から守る素材で囲む、燃エンウッドという集成材を12年に開発した。こうした技術開発によって、日本でも中高層ビルをはじめ、多様な建物で木材利用が可能になっている。当社の燃エンウッドは、22年11月には3時間耐火の認定を取得。これにより階数の制限なく木造高層建築が可能になった。

13年から現在に至るまで、建設中のものも含め30件の木造建築プロジェクトを進めている。その一つが、25年の完成を目指し、三井不動産とともに進めている17階建ての日本橋本町1丁目計画だ。完成すれば国内最高層の木造ハイブリッド建築となる。今後も国産材、特に建てる地域の木材を活用しながら、地域の方々と一緒に取り組むプロジェクトを進めていきたい。

特別講演

鉄筋同等の経済価値実現

池田 明 氏

三井ホーム 代表取締役社長

石橋 円子 氏

三井ホーム ESG/SDGs推進室長

池田:
物理的価値、環境的価値の高い中高層木造建築だが、普及には経済的価値の向上が不可欠だ。従来は木造建物を投資対象とするには、法定耐用年数が通常22年と短いことがネックになってきた。

こうした中、2021年に東京都稲城市にて完成した木造マンション、MOCXION(モクシオン)INAGIは住宅性能評価の劣化対策等級で最高ランクの3を取得。物理的調査報告書「エンジニアリング・レポート」を取得し、物理的耐用年数が70年以上あることのエビデンスをそろえた。不動産鑑定評価においても、市場競争力や経済的耐用年数が鉄筋コンクリート造と同等との評価を得た。周辺相場より大幅に高い賃料で早期にリースアップが完了。経済的価値の高さが確認できたので、当社では監査法人承認のもとで鉄筋コンクリート造と同等の減価償却期間で運用している。これら取り組みにより、中高層木造建物に対する投資の可能性が拡大。金融機関や投資家から高い評価と多くの相談をいただいている。

石橋:
木造は省エネ性能が高く、快適性を確保できる。MOCXION INAGIの入居者アンケートでは、98%の方から住み心地に満足しているとの回答を得た。「エアコン利用の頻度が減った」など高い断熱性に言及した入居者が多く、手応えを感じている。長期にわたり炭素が固定される木は、脱炭素化においても明確な優位性があることも伝えていきたい。

協賛

  • 三井物産株式会社
  • AEON イオン環境財団
  • 三井ホーム
  • TAKENAKA
  • 三井住友信託銀行
  • アジア航測株式会社
  • 中国木材株式会社

特別協力

  • 三井不動産