持続可能な森へ好循環を
パネルディスカッション
森林大国日本の木材利活用へ、多方面の視点から議論が行われた
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●パネリスト
川村 竜哉氏
林野庁
森林整備部 森林利用課長 -
恩田 ちさと氏
三井物産
サステナビリティ経営推進部
部長 -
斎藤 丈寛氏
北海道下川町
主査森林づくり専門員 -
堀川 智子氏
中国木材
代表取締役会長
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●コーディネーター
小原 隆
日経BP 総合研究所 上席研究員
価値向上させ空間利用推進
小原:
日本の森林が抱える課題と解決の糸口は何か、林野庁の見解を聞きたい。
川村:
国内の人工林は多くが50年生を超え、木材として利用可能な資源量が増えつつある。一方で、若い人工林が非常に少ない。持続可能な林業の観点からは、さまざまな林齢の人工林が均等に分布していることが望ましい。CO2の吸収量の面からも、主伐と再植林により、若い森林に更新していく必要がある。木を伐って、使って、植えて、育てる、循環利用を確立することが必要だ。
森林を地域資源として有効活用していく際、木材として利用する観点と、森林を空間的に利用する観点、2つの側面がある。森林空間の活用については、森林の特色に応じた観光、自然体験学習などがある。近年は、企業における働き方改革やウィズコロナへの対応として、ワーケーションや社員研修の場としても利用が期待されている。
また、SDGsやCO2削減への関心の高まりに応じて、森林づくりに参加、貢献したいとの企業の声も増えてきている。このような動きを全国的な運動に発展させるため、「森林づくり全国推進会議」が発足した。森づくりへの参加を希望する企業や団体に、先進的な企業の取り組み事例を紹介して、情報共有を進めている。国土緑化推進機構に会員登録のサイトがあるのでご検討いただきたい。
小原:
森林の空間活用という意味では、三井物産が積極的に取り組んでいる。
恩田:
当社は日本全国74カ所、約4万4000㌶の社有林を保有しており、森林保有者、また総合商社としての視点を生かしながら、地域の皆様と連携して森林を育み活用してきた。
広大な森林を保有する社会的責任を踏まえ、三井物産の森を「持続可能な森林」として経営・管理していくためには、長期間にわたり必要な施業を適切に行い、森林の多様な価値を高め、森林経営に価値を還元していく循環が大切だ。生物多様性、水源涵養、防災といった公益的機能の発揮や、地元の伝統行事への木材の提供、林業の担い手育成支援としてのインターンシップ受け入れなども積極的に行っており、地域との連携を大切にしている。また、森林資源の多様な活用については、木材生産に加え、林業会社とは異なる、商社らしい機能・ネットワークによる多様な価値の活用にも取り組んでいる。航空測量デジタルデータを活用したJ─クレジット創出、クラフトジンやアロマオイルの生産がその一例だ。
それぞれの森林の多様な機能を守り育てる適切な施業を行い、持続可能な森林という土台をしっかり造った上で、適切な経営・管理によって高まった森林の価値を社会と会社でしっかりと活用し、森林経営全体の持続可能性を高めていくことでこの好循環を継続していく。
国産材の競争力を強化
小原:
国産材の利活用という面で、中国木材の取り組みも注目を集めている。
堀川:
日本の木材の自給率は最近やや増加して約40%となった。ただし、伸びたうちの多くはバイオマス発電による燃料供給によるものといわれている。木造住宅の構造材はいまだ6~7割がヨーロッパ産だ。では、なぜ山にこんなに木があるのに国産材が活用されていないのか。それは、国産材が国際競争力を失っているからだ。
国産材の問題点は、林業も製材も規模が非常に小さく、需要が盛り上がるとすぐに欠品して、値段も高騰してしまうことだ。そうなると市場では、外国産の樹種に転換され、国産材の需要と価格が暴落してしまう。この悪循環が繰り返されている。また、地域ごとに小さな業者がつくっているため、地域によって木材の品質グレードや名称もまちまちなことも問題だ。ほかの地域で需要が盛り上がっても持って行けず、この点も供給を不安定にしている。国産材については、価格、供給、品質を安定させることが求められる。
こうした問題を解決するため、当社では、宮崎県日向市に約55万4000平方㍍を確保し、大規模工場を作った。ここに大量の原木の保管と木材の天然乾燥までができる置き場も設置したことで、木の選別が不要となり、山から出る原木の全てを受け入れられるようになった。山元にとってもメリットがあるだけでなく、受給の波を緩和するバッファーとなり、物流を1つスキップできるため、コストの削減にもつながっている。敷地内ではバイオマス発電を行い、製材の際に発生した木の皮やおがくずなどを電力に変えている。国産材事業は収支が厳しいが、発電と再エネの固定価格買い取り制度により、なんとか黒字化できている。
企業が設立した公益財団による森林づくり。ボランティアが参加して間伐作業を実施
森の財産化に75年
小原:
地域の取り組みとしては北海道下川町が名高い。
斎藤:
下川町は持続可能な地域社会の実現をテーマに、経済、社会、環境の3側面の活動に取り組んできた。経済面では循環型の森づくりを基盤に林業の総合産業化を目指している。環境面では、森林バイオマスの活用を中心にエネルギー自給と脱炭素社会の構築を目指している。社会面では、高齢化率が40%を超えた地域において集住化モデルを実践し、誰一人取り残さない超高齢化社会対応を進めている。これらが評価され、国からSDGs未来都市の選定を受けた。
森づくりについては、循環型の理念に基づき活動を行ってきた。町有林において、年間約50㌶の伐採と確実な再造林を繰り返し、次の世代に資源をつなげている。森林管理の担い手は、下川町の森林組合で、9割以上が町外から移住してきた方々だ。森づくりへの関心の高さを感じている。
これらを可能にしたのが先人たちの決断だ。1948年に町の基本財産の形成を目的に、町全体の財政規模が1億円の時代に8800万円を投じて国有林を購入。森の木を活用して、町の財産をつくっていこうという思いからスタートした。
現在、森林の管理に関しては、FSC森林認証などを取得。国際基準による森づくりを実践している。木材利用については、木材を丸太のままではなく、さまざまな形に加工し付加価値を付けたうえで、域外に流通させる仕組みを構築している。その際、木材はゼロエミッションの考え方でしっかりと使い切る。また、カーボンオフセット、森林吸収量をクレジット化して、都市企業などと資金調達を含めたつながりを持っていく。
そして、次世代の担い手の育成のため、教育委員会やNPO法人と連携しながら、フィンランド発祥の教育プログラムを活用して、幼児から高校生までの15年間一貫した森林教育にも取り組みを進めている。
小原:
建築分野を専門に取材をしてきたが、近年、木材の利用に注目が集まる中、外国産が大多数を占めている実情を知り愕然(がくぜん)としているところだ。森林大国日本の木材をどう利活用していくのか。森林所有者や林業など供給サイドだけでなく、建築、家具、発電など需要サイドの産業でも盛り上げて行く必要があるだろう。