データで木材サプライチェーン支援

森林への関わりが異なる民間企業4社によるパネルディスカッションで、「森林、木材の利活用で実現する脱炭素社会」というテーマの重要性について議論を深めました。

  • ●パネリスト

    西川 淳也氏

    三井物産
    サステナビリティ
    経営推進部
    グローバル環境室長

  • バダヴァモヴァ・
    ザリナ氏

    イオン環境財団

  • 代島 裕世氏

    サラヤ
    取締役コミュニケーション本部
    本部長

  • 太田 望洋氏

    アジア航測
    森林・農業ソリューション
    技術部部長

  • ●コーディネーター

    藤田 香

    日経ESG
    シニアエディター 兼 東北大学大学院 生命科学研究科 教授

藤田

企業の森林保全の取り組みについては、ESG投資の観点からも注目をしており、スコアリングに反映する動きも見られる。

レーザー計測を駆使

太田

当社は、空間情報を基に、森林の価値を高めるコンサルティングを行っている。具体的には、まず航空写真の撮影やレーザー計測によって森林の基盤情報を収集する。基盤情報とはどのようなタイプの樹木がどこにどれぐらい分布しているのか、森林資源として見た場合の本数や樹高、材積はどれくらいか、そのような森林がどのような立地にあるのかなどだ。これらを地形や道路アクセス情報とあわせて整備する。

そのうえで、この林業ビッグデータの管理ツールを提供するとともに、情報を活用した計画の検討・立案も支援している。たとえば、ある地域における土地条件や社会的条件を踏まえ、木材生産林として育てるのか、あるいは環境保全を重視する林とするのかなどの解析を行っている。

加えて、森林行政を支援する台帳管理システムや、木材サプライチェーンを支援するシステムも提供している。これらをリンクさせて森林情報を共有活用することで、地域の森林の有用な活用が可能になる。

こうした林業のDXにより、生産性向上や流通の効率化が図れ、収益性も確保できるようになる。林業だけでなく、地方の活性化にもつながるだろう。

藤田

持続可能な森林経営を行うための留意点は何か。

西川

「当たり前の適切な森づくり」を継続すること。当社では、人工林、天然林、生物多様性保護林などのように、特徴ごとに山林を分類し、それぞれに合った最適な施業・管理を行っている。74山林を数千に細かく分類し、森林のポートフォリオを意識した経営・管理を実行中だ。

そういった当たり前のことを継続するために、経済面の改善にも不断に取り組む。ただし、造林や育林で手を抜いたり、現場で働く方々の待遇を下げたりといった誤ったコスト削減は行わない。それでは森林の多様な機能が損なわれ、組織も持続できなくなる。実現すべきコスト削減は、たとえばDX活用による効率操業などの攻めのコスト改善だ。あわせて収益面では、特別講演で紹介した総合商社ならではの多様なアプローチで収益を増やし、事業全体での持続可能性を高めている。

これらの戦略を実現するために一番重要なことは、林業に携わる人材を雇用・育成すること。安全で、快適で、魅力ある職場環境づくりが大切であり、そこには経営者として絶対に手を抜かない。

パーム油で認証

代島

企業の社会的責任に対する向き合い方も重要だ。当社が展開する商品のうち、最も消費者になじみのあるヤシノミ洗剤をめぐる対応が、「いのちをつなぐ」サラヤの企業文化を育てた。

ヤシノミ洗剤は、パーム油・パーム核油を主原料としている。特にパーム油は、食品や化粧品など用途が幅広く、近年、世界的に需要が増している。その一方で、原料となるアブラヤシ栽培のために、熱帯雨林がプランテーションに広く転換されていることから、生物多様性を損なうリスクが指摘されてきた。20世紀末には、ヨーロッパを中心にパーム油製品の不買運動も起きている。

このムーブメントを受けて誕生したのが、持続可能なパーム油の生産と利用を促進するNGO・RSPOだ。サラヤは日本企業として初めて05年1月にRSPOに直接加盟、10年には日本初となるRSPO認証パーム油を原料とする商品の販売を開始した。

生物多様性保全のためのチャリティー活動も展開。ヤシノミ洗剤などの売上高の1%を、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンに寄付し、ボルネオ島の野生動物レスキューセンターの運営や熱帯雨林を回復させる活動などに投じている。現地には幹部や社員を派遣し、実体験を通じて環境問題への意識を高めてもらっている。

ビジネスに不可欠なRSPOへの参加だけでなく、ボルネオ保全トラストの支援を両輪で展開することで、はじめて消費者の納得を得られるものと考えている。また、こうした活動を積極的に発信していくことも重要だ。第一回ジャパンSDGsアワードで表彰されるなどして、社内外で環境問題への関心が高まった。

苗木の里親募る

藤田

森林経営に消費者を巻き込むにはどのような方法があるか。

ザリナ

イオン環境財団の植樹の特徴は、地域に密着した森づくりを行っている点にある。計画段階から、地域の行政機関や森林組合と協議を重ね、地域の課題を共有したうえで、それに対応する森づくりを行っている。

消費者を活動に巻き込むにあたっては、消費者と直接コミュニケーションを取りやすい小売業の強みを生かし、イオン店舗において、植樹活動の重要性を伝えるイベントを実施している。

その成果もあって、植樹活動では、家族連れの参加が多く、自分の子供が植えた木がどう成長していくのか、子供の成長とともに楽しみにしているという声も聞く。何十回も植樹に参加してくださっている方もいる。

コロナ下ではこれまでと同様な植樹活動が行えなかったが、代わりに各家庭や学校で苗木を1年間育てる「苗木の里親プロジェクト」を実施した。今後も地域、時代に即した活動を幅広く展開していきたい。

藤田

企業の持続可能な森づくりや森の利活用には、科学的な評価やデータ活用が重要だ。企業だけでなく、消費者の行動や意識の変革も必要だろう。本日のシンポジウムが、企業、消費者、皆が持続可能な森のあり方を考えるきっかけになることを願っている。

本シンポジウムのアーカイブは日経チャンネルでご覧いただけます。

協賛

  • SUNTORY
  • 三井物産株式会社
  • AEON イオン環境財団
  • いのちをつなぐ SARAYA
  • アジア航測株式会社

コンテンツ協力

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